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55.光のプロトタイプ


 道頓堀には、砂煙と蒸気が立ち込め、新たな脅威がうねり狂う。大阪中央区のネオン街の灯火が、戦火の炎に変わろうとしていた。


 黄砂が巻き起こる中、ラックーサは地面に凍り付いている。降り注ぐ金属の破片が頬を掠め、切り傷ができるが、茫然としている。変身が解け、身を守るのは神衣の残りと光の布しかない。


「きゃあああああ!」


 ラックーサは、アマンティーが伸ばす金属のフィラメントに捕獲され、宙へ引きずり上げられる。


「危ない!」

クォーツリナとアダマンティヌースは、愕然とするソーラルとスフェアリーを身を呈して庇う。遥か上からそれを見下ろすアマンティーの顔に、人間の名残はなかったが、その軽蔑の意図は見てとれた。巨獣が蠢く度に、地面が赤く燃えるように波打ち、溶岩に変化する。


「クセソーティアソくん、下がって、早く!」

 黄砂に襲われるラックーサが切ない叫びを上げる。

 しかし、ネオンライトの戦士は立ち尽くし、魂が抜けたかのようだ。変身を保ちながらも、Corona Australisを持ち下ろし、戦う意志がない。杖の周りには光芒が散乱している。


(ーーいやだ、戦いたくない。これは幻覚じゃないのか?  俺達が今まで過ごしてきた水森補佐は一体何だったのか?  ライターズをいつも支えてくれた。その不器用だけど、心温まる世話焼きの彼女の顔には嘘のかけらもなかった……)


 混乱の中に落ちる戦場には、アマンティーを止められるものはいなかった。

口からどろどろと星雲や宇宙塵を溢れさせながら、機械体は鉄の脊椎を反り返らせる。鞭のように撓らせた尖った繊維を、ネオンライトの戦士めがけて振り下ろした。


 ーーその時である。突然、背後から閃光が駆け抜け、フィラメントを吹き飛ばした。


 振り向けば、光に包まれたクォーツリナが錆びついた杖を構えている。その先端には、感電寸前の電球が嵌められていた。


「可視線の型! 洋洋たる水銀ラプチュア!!」


 クォーツリナが叫ぶ。その大柄な身体でライターズを庇うアダマンティヌースも、象牙の光線銃を素早く取り出す。


「紫外線の型:礫凝霹靂スプリンター!!!」

 力強く撃ち出された光弾が、クォーツリナの光線に重なり、閃光を放ちながら威力を増幅させる。激光の奔流が轟音と共にアマンティーを正面から捉えた。


「ぐえええええええ!!」


 凄まじい悲鳴が、耳を劈くように響き渡る。

 焼け焦げた繊維が、苦痛にうねりながら溶けていく。拘束から解放され落下するラックーサを、「危ない!」夢中で滑りこんだネオンライトの戦士が抱きとめ、叩きつけられる直前に間に合った。

 アマンティーは火で炙られた虫のように、むくむくと蠢動を繰り返している。


 クォーツリナは片手で杖を構え、なんとか光線を維持しようと、前を睨んだまま語りかけた。

「クセソーティアソ君、ライターズの主導がないと、この繊維獣は絶対に撃退できないんです、今はためらう暇も悲しむ暇もありません。ライターズの光に人類が掛かってます、わかりますか? 」


 苦しげに息をする彼女の体には、異変が起こり始めていた。

 もともと遺伝子組み換えの彼女の肌は青みを帯びているが、いまやその肌は透き通り、下から眩しい光輝が発生している。LDC隊長も、象牙の銃を構える腕が震え疲労を隠せない。しかし、残された気勢をかき集めて、気を失っているラックーサの光のドレスに詠唱を縫い込む。そして、苦しげに言った。


「戸惑っているのはわかる、クセソーティアソ君。ただ今は説明する時間がない。私達は以前光の力を少しだけ預かった経緯がある。言わば、君達のプロトタイプと考えると良い。結局選定者になれなかったがね。だから、光線は数分しか使えない。クォーツリナと俺はそろそろ限界だ」


 男らしい眉をぐっと引き寄せ、無念の表情を浮かべる。そして、心の奥まで射抜くような強く真摯な眼差しを、ライターズの一人ひとりに向けた。


「いいか皆、よく聞いてくれ、仲間を光に導くんだ。この戦いは君達の戦いだ、君の信用を裏切った人もいるが、それ以上に君達の力を信じて、頼りにしている人間が大勢いるんだ、それだけは忘れないでくれーー四人で力をあわせて戦うんだ!」


 ネオンライトの戦士は、ようやく現実世界に引き戻された。

 水森の裏切りは今までの関係を一掃するわけではない。ただ、現在は異なると受け入れれば良い。それができなければ、これまで築き上げたすべて を、出会った大切な仲間をも失うことになる。


 ソーラルもスフェアリーも、唇を噛み締め顔を上げた。心の中に生まれた覚悟を必死にかき集める。

 互いの意志の強さを確かめるように、三人の手が自然に導かれ、ラックーサの手に重なった。

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