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Lighters of the Radiant Burst  作者: パントー・フランチェスコ
威嚇、助けてという絶叫
28/71

28.信濃国の善光寺

文章の流れを整理し、よりスムーズにしました。


 どれほど強靭な脚力を持っていようとも、無限に走り続けることはできない。

 疲労困憊のソーラルは、ついに倒木に躓き、地面に転がった。

 背後では、繊維獣本体と猛攻を続ける動物たちが迫ってくる。逃げ場を失い、絶望がソーラルの全身を包み込んだ。


「このままじゃ逃げ切れねえ……どうすれば……!」


 力なく腕が落ちる。その拍子に、オンソロージーSがごろりと地面に転がった。

 ――その瞬間、突如として燐光が灯る。

 オンソロージーが震え始めた。まるで意思を持つかのように、立体パズルのように変形し始める。パーツが次々と組み合わさり、見る間に巨大化していく。

 そして――それは、いつの間にか空飛ぶ船の形を象っていた。


「……へ? これってワゴンライト? いや違うかな、こんな小さなエンジンは俺が知っている熱力学の範疇外だ……」


 驚きのあまり、工学専門の少年の瞳が輝く。が、今はそんな場合ではない。

 ソーラルは残りの力を振り絞り、頭上に浮かぶ船のドアへ飛びついた。転がり込むや否や、エンジンが轟音とともに爆ぜ、船は弾丸のように飛び立つ。

 逆風が刃のように襲いかかる。鋭い気流が皮膚を裂き、小さな切り傷をいくつも刻む。

 どこへ向かうのか、まったく分からない。

 逃げ延びた安堵に浸る間もなく、突然、船が急ブレーキをかけた。

 勢いよく仰向けに倒れたソーラルは、透明な天蓋越しに空を見上げる。

 そこには、電磁波がぶつかり合うような、明確な隔たりの線が肉眼で視認でき、ここが残りの世界と隔離されていることが理解できた。――グラウンド・メタ。

 つまり、概念の侵食を止めない限り、このエリアを離れることはできないのだ。


「……戦うしかないか」


 アブレイズクロックの位置情報によれば、ここは元長野市、善光寺境内。およそ140kmも移動していた。

 なぜ船はここに導いたのか――答えは分からないが、確実に侵食された概念と関係しているはずだ。

 カプサ合金の庇から飛び降りた瞬間、追ってきた繊維獣が寺へと雪崩れ込んできた。

 黒い光線が雨のように降り注ぎ、植栽が焦土と化す。

 一刻も早く、侵食された概念の正体を突き止めなければならない。

 だが、それだけでは終わらなかった。

 繊維獣だけでなく、森の動物たちまで追ってきていた。

 以前なら調教できたはずの熊、猿、コヨーテたち。だが今は繊維獣に操られているのか、憑依されたように暴れ回り、敵味方関係なく襲いかかっている。


「……もう、わけがわかんねえ!」


 攻撃されている概念も分からず、この重い石が足を引っ張るばかり。

 ナノマシンがピーピーと音を立て、本堂の中へ促す。

 半壊した堂内に足を踏み入れる。白檀と線香の香りがわずかに残り、黴や腐った欅や檜の匂いと混ざり合い、時の流れと神秘さを感じさせる。

 思わず手を合わせようとした、その瞬間だった。

 ――地鳴り。

 素足に、木材の軋みが伝わる。

 どがしゃあ!と天井が割れ、金の灯籠を弾き飛ばしながら、黒い繊維が侵入してきた。


「ぶ、ぶったまげた……!」


 盲目の深海魚のように、繊維獣が触手を伸ばし、内部を探る。

 ソーラルはナノマシンに導かれ、内陣へと駆け込んだ。

 一般人にとっては神の領域を犯す冒涜だ。だが、躊躇している余裕はない。


「……お邪魔します」


 一応、敬意だけは払った。

 そこに鎮座するのは、日本最古の仏像とされる一光三尊阿弥陀如来。

 金色の仏像は、高さ40cm。

 しかし、無数の錆が刻まれ、原型すら危うい。

 ――ビービーッ!

 ナノマシンがやかましく警告音を鳴らしながら、仏像を指し示す。


「……何かあるのか?」


 疑問を抱きながら、隣にある解説図に目を走らせる。

「阿弥陀・観音・勢至の三尊が、一面の舟形光背を背負う三体の形式……」

 三尊は中央の阿弥陀如来(45cm)、両脇の観音・勢至(30cm)という配置。


「なるほど……けど、これが何のヒントになるってんだ?」

 歴史の勉強にはなるが、今の状況を打破する情報は何一つない。

 苛立ちを覚え、オンソロージーに視線を投げる。

 その時――


「……あれ?」

 少年は、目尻で捉えた"矛盾"に気づいた。

 掲示されている写真と、実際の配置が違う。

 本来なら、中央に大きな仏像、左右に小さな仏像が並ぶはず。だが、今はすべて同じ高さに揃っている――。


「……単に置き方を変えたのか?」

 考察する暇もなく、ドォン!という轟音とともに柱が吹き飛び、繊維獣の頭部が内陣へ侵入する。

 蟻の複眼じみた眼球がぎょろぎょろと動き、虚無へ誘う漆黒の光沢が不気味に輝く。

 めり……と更に頭部をねじ込むと、天井が揺れ、瓦礫がバラバラと崩れ落ちる。


「袋小路だ……嵌められた!」

 ソーラルは焦りながらも、オンソロージーに導かれ、内陣と外陣の境目へと戻る。

 ナノマシンが何かを伝えようと、細かく上下に飛び回る。


「……何だ?」

 足元に視線を落としたその瞬間、段差の存在に気づいた。

 そこには、「お戒壇めぐり」と書かれた地下通路の入り口があった。


(ここを抜ければ、本堂の外へ出られる……!)


 だが、光源がない。背負ったリュックを探るが、鉱石はすべて使い切っていた。

 真っ暗な空間を、灯りもなく進まなければならない。

 背後の爆発音はいよいよ差し迫ってくる。もはや、前に進むしか道はなかった。


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