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Lighters of the Radiant Burst  作者: パントー・フランチェスコ
威嚇、助けてという絶叫
26/71

26.大間網羅世界政府の秘密

 施設内は、不気味な闇に包まれていた。胸騒ぎを覚えるほどの静寂が支配している。

 ソーラルはステルス技術を駆使しながら、ラディアントオーアの松明が揺らめく廊下をさらに奥へと進んだ。天井近くでは、卵形の小型ドローンがぶんぶんと音を立てながら巡回している。


 礫原収納場は、まるで迷路のような地下街だった。透明な建造物が視界を遮り、遠くを見渡すことができない。まるで広大な地下洞窟の空中に張り巡らされた板の上を歩いているかのような錯覚に陥る。


 本当に大間(おおま)網羅(もうら)世界政府が関係しているようであれば、オンソロージーや光概念喪失に関する極秘資料があるはずだ。正確な座標はなくとも、下と奥に進めばなんとかなるという直感に従い、アブレイズクロックで方角を確かめながら前進する。


 しかし奥に進むほど、ソーラルは違和感を覚えた。


 心情的にも、純粋に体調も悪化している。頭重感、胃もたれ、重い空気。引力が強くなり、真空に吸い込まれるようだ。上層階のセンチネルもいない。


 無音、暗闇。原生林の最奥に至るような完全な静寂が支配している。空気はじっとりと重く、吸い込むだけで喉を圧迫されたような苦しさを覚えた。まるで、毒に満ちた死の領域へと足を踏み入れているかのようだった。


(本当に毒は撒かれていないのか? この装備で進んでも大丈夫か? やっちまったかもしれない……)


 ソーラルは内心、焦りを覚えた。進化補正遺伝子組み換えによって生まれた彼の身体は頑丈だったが、それでもこの粘りつくような空気は、じわじわと肺を蝕んでくる。それでも、限界まで耐えなければならない。


 やがて、目の前に金属で舗装された橋が現れた。その先には、烏木色の巨大な扉がそびえ立っている。高さは優に十メートルを超え、鉄板が幾重にも貼り付けられていた。


 何かを隠している――明らかに、ただの格納庫ではない。


 だが、扉を前にした瞬間、ソーラルの意識がふっと霞んだ。


(……何かがおかしい)


 手にした松明で周囲を照らす。しかし、扉の周りに壁が見えない。むしろ、光がゆらめき、そこだけ空間が切り取られたようにぼやけている。残像のように揺れる漆黒の扉は、まるで奈落の入り口だった。


 慎重に近づいたそのとき、ソーラルの顔が恐怖に歪んだ。


 灯りが床を照らした瞬間、人間の形をした焼きつけの跡が浮かび上がったのだ。まるで、強烈な放射線で瞬時に焼かれたかのように。

 ――この扉の向こうに、何かがある。


 ソーラルは息を呑んだ。開けるべきか? だが、分厚い金属製の扉、そしてここまでの毒々しい靄を考えれば、生きたまま突破できる保証はない。


(……絶対零度の原子冷化現象を使えば、扉を透明化できるかもしれない。そうすれば、中を覗くことが……!)


 方法はそれしかなかった。冷却により、積み込んでいた光源のほとんどを失うことになるが、今は中の確認が最優先だ。

 ソーラルは扉を冷却し、残った最後の光源を慎重にかざした。


 ――そこには、大量の漆黒の液状金属が四角いプールの中に貯蔵されていた。

 ねっとりとしたガスがぼこぼこと揮発し、見ているだけで息苦しさを覚える。アブレイズクロックの放射線測定器が警告音を鳴らした。これ以上近づけば、生きて戻れない。

 ソーラルはラディアントオーアの光をさらに深く差し込み、部屋の隅々まで見渡した。そのときだった。


 ――プールの中で、何かが動いた。


「これは……!」


 目を凝らす。暗闇に慣れた視界が、異形の輪郭を捉えた。

 黒――ただの液体ではない。そこには、金属線と合金が絡み合った何かが、かすかに呼吸を繰り返している。


「そんな……まさか……」


 荒い呼吸を必死に抑え、鼓動を落ち着かせる。

 ――ソーラルは、あの物体を知っていた。


「あれは……ライターズ一号と戦った怪物、繊維獣だ……!」

 疑いようもなかった。

 ソーラルはライターズの戦いを二度とも目にしていた。繊維獣の異質な技術に興味を抱き、できる限りの情報を収集していたのだ。敵の形状をイラストに描き起こし、身体のパーツを整理し、名称までつけて分類していた。


 そして今――その怪物が、ここにいる。


「あれは水の概念を奪おうとした……確か名前は斑鳩ラスト69だ!倒されたはずなのに世界政府がその死体を捕獲してここに保管している?なぜだ……」


 繊維獣は苦しそうに喘ぎながら、キーキーと軋む音をあげている。


(死体は息はしないはずだが……戦闘できる状態ではないにしろ、そこにいるだけで誰もが怖じ惑うだろう。なぜ監禁された、どうやって運ばれたのか。なぜばかりだが、あの標本を採取できれば、貴重な知見を得られるはず……)


 その時だった。


 黒いスモッグの中、繊維獣は重い体を持ち上げ、威嚇音を上げる。

 プールの粘ついた流体金属が形を変え、繊維獣の機械体が複製される。粘着く仄暗い液体から分身を生み下ろす。機械体は瓜二つだ。

 倍になった地鳴りがソーラルの鼓膜を貫く。もう一体の機械は苦しそうに不身をよじりながら、更なる威嚇の絶叫をあげる。

 ソーラルはふらつき、床に膝をついた。聴力過敏の彼にとって騒音は耐えがたい。


(ちょっと待て、この状況はまずい。これじゃ八方塞がりじゃねえか……)


 いまにも失神しそうなソーラルは、よろよろと後ずさる。


 怪物は照らされた光源に刺激され、再起動している。絶叫はパルスの脈に乗り、広がっている。もはや超音波に襲われた施設そのものが爆破する寸前の、緊張感に満ちていた。


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