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Lighters of the Radiant Burst  作者: パントー・フランチェスコ
威嚇、助けてという絶叫
25/71

25.収納場への潜入

 一方長野県では、ソーラルが穂高岳の森林を駆け抜けていた。

 山の麓に辿り着いた彼は、上に登る順路ではなく、小さな盆地へ続く小路にふと気がついた。


「正確な位置が分からないや、とりあえず行ってみるしかないな」


 滑り落ちないよう小刻みに進む。盆地は麓より五〇cmほど低く、ただの草むらと枯れた雑草しかなさそうだ。やがて泥壁に囲まれた行き止まりに辿り着いた。


「ここは袋小路か。……施設は山頂、あるいは地下に隠れているのかな」


 ソーラルの鼻は鋭く何かを感じ取っている。直感に従い、真っ直ぐ泥の盛り上がりに辿り着くまで進むと決めた少年は、しかし、唐突に何かに跳ね返される。


「あれ、何もないのに、おかしいな」


 探るように手を空中にかざせば、透明な壁が道を塞いでいるのが解った。間違いない、これは正しい道だ。礫原収納場は迷彩に守られているのだ。透明化された施設だとしても、物体は物理学のルールに反することはない。


「これは間違いなく絶対零度の原子冷化現象……」


 ソーラルは手で透明な壁を伝い歩きながら、考察する。


 通常、原子つまり物体にぶつかる光子が散乱し、目に届くことで物質を可視化できる。

 ところが原子を超低温状態で、隙間なく高密度に配置したとき、光子がぶつかったエネルギーを散乱させる力がなくなるため、原子が透明化する。

 これはSUBの宇宙遠征中に敵対的作業環境にて地球圏外の猛獣に攻撃されないために生かされた理論だ。


 施設全体の物体は絶対零度に近い温度に保持されているのだ。


「大したもんだな、ラディアントライトスーツならまだしもまだしも、施設のすべての原子になんて、とんでもない量だ。今の地球にこれほどエネルギーの余裕があるわけないのに、どうやって……」


 感心しながらソーラルはぶつぶつと独り言を続ける。


「……ふむ。アブレイズクロック、光電効果について復習したい!」


「かしこまりましたソーラル様。光電効果とは物体に光を照射した際に、電子が放出されることで電流が流れる現象です。つまり強度と密度の高い発光源が施設の壁に照射すれば、電力は発生することで物体を可視化可能、一時的で部分的なものに過ぎませんが、中に進む道を見つけるには十分と思われます」


「よっしゃ」


 少年は黒い光を生み出す古いラディアントオーアをリュックから取り出すと、二個の石を擦り、火花を閃かせた。そのまま木材に取り付け松明を作る。更に、布の一切れを使い、両腕に装着する。


 灯りを壁に近づけると、茂みしかなかったはずのところに合金の板が現れた。


「よし、できた!」


 壁に伝い、ようやく入り口らしい扉に辿り着く。鍵を外すのはソーラルの能力を持ってすれば造作もなかった。


「さて、気をつけなくちゃ、きっとトラップだらけだ」


 仮にも極秘軍事施設である。監視カメラや最新鋭の防犯対策が設置されていないわけがないし、絶対零度の原子冷化現象の下、今の服のままでは一秒とかからず低体温で死んでしまうだろう。


 ソーラルは森の奥で遭遇した山賊の死体から拾った、古めかしいラディアントライトスーツを取り出した。無論、物体を透明化するには夥しいエネルギーが必要となる。リュックから全てのラディアントオーアも取り出すと、アブレイズクロックに設置する。


「当たって砕けろだ!」


 スーツの温度を極力低くしながら、生命機能を保てるだけの体温も維持しなければならない。オーアの光源はすべてアブレイズクロックに吸い込まれ、黒い石に帰する。


「まずは成功!これで荷物も軽くなったな」


 ソーラルは透明スーツを身にまとうと、慎重に行政施設に潜入を開始した。

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