20.宇宙エレベーター
人工の灯りの輝度から見ると今は真夜中だろう。心地よい風が湾から吹いてきた。四人は宇宙エレベーターCassinus dominiへのドックに向かって歩いている。
「さて、ラックーサちゃん、ライターズについてどれくらいご存知ですか? 」
クォーツリナは率直に尋ねる。
「ええと、私はライターズについてそれほど詳しくないです。本当に一般的な知識程度しか……数年前世界政府と連合を組んでいると噂されているオンソロージーさんは選ぶ人間の戦士的な存在? 彼らは概念の侵食を阻止する能力を持っているので、概念戦争においてライターズは人類の希望と言われていますね」
そこまで言ってから、ラックーサははっと息を飲んだ。クォーツリナが優しく頷く。
「ええとまさか、大変僭越ですが、私が選ばれたと……? 」
「あはは、そうですね。先程の活躍を見れば、誰も疑う余地などありません」
クォーツリナは朗らかに笑った。
「あの……ありがとうございます。それから、あの、私が使った武器ですが、電球はすべてあの機械体から作り上げたものってことなんでしょうか」
そこで、クセソーティアソが待っていましたとばかりに身を乗り出した。
「その通り! オンソロージーに紡がれたものだよ。ライターズと深く関係があるんだ! 武器はパルテノナ・フォス と言って、本質は僕と同じだけど、形状が違うみたいだね。あと、この電球はファノースと言って、武器の中に嵌まるらしいよ。ファノースは衰光エラ前の人類は良く使った電球に類似した形状で、それぞれのライターズはユニークなフォームを持っているらしい。僕の感覚にすぎないけどファノースはエンジンと思えばいいかな、変身の時に心臓に近づくとカルディアモードに切り替える、敵に向ける戦う時に パルテノナ・フォスモードだね。先端にガチッと嵌め込めばとりあえず大丈夫。そうすると光源のエネルギーが戦闘で使えるんだ」
少年は先輩風を吹かせながら、得意げに解説する。その横で、アダマンティヌースが重たい口を開いた。
「人類にとって電球は光を運ぶ一番効率の高い人工物だから。それぞれの戦士の電球の種類を観察すれば、それぞれの個性と深く絡んでいると思う。模様、色素がユニークだ。そういえば君は ラックーサ・ゴストバイオレットだね」
ラックーサは思わず手を伸ばし、螺旋網様の紫を帯びた電球の感触を確かめる。いつの間に首にかかっていたのだろうか。クセソーティアソも「一緒だね!」とわざとはしゃいだトーンで己の電球をかざす。
「そうです。あなたの名前は今日からラックーサ・ゴストバイオレット。あの螺旋網様のバイオレット蛍光灯は昔の人類にゴストバイオレットと呼ばれていたらしいですよ」
クォーツリナの言葉に、ラックーサは驚いたように首飾りをまじまじと見つめる。
「つまり、これを使えばまたあの姿に変身できるってことですね? 」
「そうだと思います。ただ一定の条件が必要かもしれません。データ解析がそこまで進んでいないですが。……さて、最初のミッションとして、これからあなた達はサテライトステーションにあるライターズ専用住宅訓練施設で訓練することになります、クセソーティアソ君も、もう逃げられませんよ。早々に引越しの準備を済ませてくださいね!」
ラックーサはもちろん初耳だ。しかし顔に不安は見られない。
「今の地球の状況はかなり切迫している。繊維獣の奇襲が相次いでいるため、宇宙鉱業遠征によるラディアントオーアの探索は一時休止となっている。
SUB軍とLDCも大混乱だ。そもそも繊維獣とオンソロージーは同種であると信じる一般市民と有力者が数多く存在します。陰謀論が、私達の団結を阻んでいると言えるでしょう」
表情を引き締めるクォーツリナの横で、アダマンティヌースも悩まし気な溜息をこぼした。
「ちょうど先日LDCの元軍人の過激派が、宇宙遠征のミッションの続行を望んで、デモを起こした。俺達の経済、日常生活、文明、生命そのものを維持させているラディアントオーアがなければ人類が滅亡するのは確かだ。だが、今軍事の力が地上に残るべきだろう……今回、俺とクォーツリナ博士の友好な関係を公にし、和衷協同で噂を打ち消す目的もある。今こそ、人類は一つにならなければ、この戦いに勝てない。君達もどんな心情を抱いても絶対に仲間を裏切ってはいけない。人類の未来と光は君達の手の中にあるといっても過言ではないのだからな」
責任の重大さをひしひしと感じ、ネオンライトの戦士達は思わず固唾を呑む。重くなった空気を破るように、
「そうですよ、皆で一致団結!頑張っちゃいましょうね!」
水森が力こぶを見せてみた。
「とっころで! 嬉しいお知らせです! 皆さんの新しい住宅施設はピカピカで新しくて、広々ですよ! 訓練したり、勉強したり、もちろん皆さんは個室も用意されております。さらに、今ならとっても優秀なアシスタント、わたくし水森補佐がつきっきりでお世話をします!」
不自然なほどに元気な声に、クセソーティアソもラックーサも微笑んだ。それは彼女のいつもの大げさな物言いのせいではなく、二人をほぐそうという善良な意図を感じたからだった。




