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17.ライターズの新しい戦士

 秋葉原の新・新電気街の宵闇に、彼女の輝く鎧が浮かび上がる。


 繊維獣が殺気と危険を察知したのか、大きく雄叫びをあげて後退さる。腹部と臀部を再びブラックホールの中に収めようとする。


「絶対させない!」


 力強く呟くラックーサに、クセソーティアソはゆっくりと飛行で近づく。


「これで君もライターズの仲間だね!これからよろしく!」

 無邪気に喜ぶ彼に向い、ラックーサは自信に満ちた眼差しで「援護をお願いできますか」 と告げる。

「ああ、任せて!」

 と快諾しつつも、クセソーティアソは彼女の変化に驚いていた。


 彼自身も初めて変身した際に、心が変容したと気づいた。それは身体とともに変化したのではなく、変身する直前に、今まで己について理解できていなかった側面に改めて気がつかされたような感覚だった。そしてその結果、オンソロージーSが応えてくれたのだ。


 ラックーサは空を一直線に駆け抜ける。


(後体部が隠れる前になんとかしなくちゃ)


 繊維獣は激昂し、漆黒の光線が容赦無く向かってくる。これはまるで光磁遮道だ。彼女は今まで光磁遮道には閉眼で挑んできた。耳を澄まして、音で感じる相手の隙に狙いを定め、撃つ。

 取り囲まれたフィラメントの強襲は、電磁波光のビームを盾にしたオンソロージーに遮られ離散する。


 光磁遮道のルールでは、相手の背中に描かれた模様を三度打ったら勝負がつく。

 ラディアントオーアをつけず槍だけで戦ってきた彼女にとって、己に生み出した光を元に開眼で立ち向かえる今こそ、この暗闇に打ち勝てる気がする。

 今の彼女に光と混沌は味方だ。未知の要素に頼ることに恐れはなかった。


「攻撃は効かないのね、あんた」


 細めた瞳に挑発の炎が燃える。

 光磁遮道ににおいて、オブジェクトから発生する電磁波は本来防御のためにも用いられる。しかし、ライターズはその磁石の一空振りを敵に向かい放った。


「反射心累光!!!」


 防御のつもりでも、痤瘡が繊維獣の胴体に現れ、怪物はたる咆哮をあげる。


「ついに攻撃が効いたわね」


 攻撃が最大の防御と武士の世界では言うが、順序が乱れているこの空間には防御が攻撃となる。ようやく訪れた攻勢の機会に、地上兵の大きな鬨の声が夜の静寂を破る。

 うねりながら身を窄め、追撃を躱そうとする繊維獣を、空中浮遊するラックーサは固い表情で見下ろした。


「はああああっ!」


 ありったけの気合を込めて、電磁波の防御を天蓋に下す。天秤の形の光線が夜を照らす。

 神話で雷神が罪人に落とす稲妻のように、まばゆい光線が垂直に怪物を切り裂いた。


「すごい……」


 自分では全く歯が立たなかった相手を捻じ伏せたラックーサの雄姿に、クセソーティアソは感嘆のため息を漏らした。そんなライターズの腕に、

「お兄ちゃん、今の光はなに?僕達どうなっちゃうの?」

 いま瓦礫の山から救い出したばかりの少年が不安げに縋り付く。


「大丈夫、今の光はね、すごくかっこいい新しいヒーローが生まれた証拠なんだよ」


 安心させるように背中を擦りながら、地上兵の保護トラックへ少年を送ってやった。クセソーティアソはせめていま自分のできることをしようと、一般市民の救助活動に勤しんでいた。


 彼女はどうやって怪物の弱点を見つけ出したのだろうか。もしかして彼女の専用の能力、もしくはあのナノマシンとの共同作用による仕業なのだろうか。今なら手伝えることがあるだろうか?


 その時、遠く離れたラックーサがこちらを振り返り見つめているのが解った。視線が距離を貫く電波のように伝わる。

 思わず彼女に向かい駆け出すと、ボコボコと足元から黒い金属の柱が聳え立った。繊維獣の黒い光線で、空は網模様となる。


「くそ、こいつは本当に往生際が悪い」


 レベル三の文明に相当する予知能力をもつ繊維獣は、ここからの危機を予知している。ラックーサが仲間にこのギミックを伝え、繊維獣の敗北の確率が上がるのを防ごうとしている。


 黒柱の森となった空間では視界が遮られ、お互いを見つけることができない。

「早くこの情報を伝えたいのに」

 足元にある板を盾のように利用したい。少なくともこの世界のルールに従えば目的を達成できる。


 外れた機械のユニットは逆に白熱の弾丸となり、フィラメントの森を貫き通る。防御の攻撃。

 繊維獣は痛々しく数本の繊維を引き下げる。

 生まれたお互いの顔が認識できる隙間が現れた。もっとも繊維の蠢きで埋もれてしまうほどの小さなものだ、時間がない。


 ラックーサはあらん限りの大声で「自分を守って!」 と叫ぶ。

「へ?」

 勝敗を覆す重大なヒントを期待した少年は、予想外のアドバイスに思わず顔を傾げた。狭まる隙間から必死に「それってどういう意味……?」 と問いをねじ込むが、

「順序が逆なの!だから攻撃じゃなく、自分を守っーーーー」

 ラックーサの答えは再び動き出した繊維にかき消された。


(攻撃しない?―――そうか、順位の概念が侵略されているから、自分を守れば逆に攻撃できるんだ!!)


 点と点が繋がったクセソーティアソは、地上のSUB部隊に「防御体制に入ろう!」 と必死に訴える。

(敵を狙いつつ、防御しよう)


 地上兵はお互い顔を見合わせる。戸惑いが走ったのは一瞬だった。ライターズの言葉を信じて命令通りに銃を斜めに構えて防衛態勢に切り替える。


 守備のつもりだが、そもそも何が起きているのか把握していない兵達の中には、狼狽え目を泳がせている者もいる。防御体勢に移るだけではなく、その概念を繊維獣と関連づけしなければならない。


 これは概念戦争、形而上学の戦いだ。


「皆さん、己を守りながら、あの怪物を見つめよう!恐れと向き合うんだ、これは僕達の世界だ、だから守るんだ!こんなポンコツ宇宙人なんか潰してやろう!」


 兵士達は「こんな新参に言われてはな……」 と微笑む。そこからは日頃の訓練の成果の見せ場だった。


「第一部隊、守備体勢!」

「イエッサー!」

「第二部隊、第三部隊は後退!」


 と号令をかけあい、士気が熱気とともに大きくうねり、高まっていく。


 地上兵全員一糸乱れぬ構えに入ったその瞬間だった。繊維獣の胴にぴしぴしと一〇〇個以上の真っ赤な亀裂が走った。機械体は断末魔の咆哮を上げながら四散する。


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