滅路
三題噺もどき―ごひゃくごじゅうろく。
外は快晴が広がっている。
昨日の雨が嘘のように晴れ渡り、きっと気持ちのいい陽気なのだろう。
遮光カーテンではなくなった自室は、太陽のせいで暑くなりつつある。遮光がいかにこの部屋の温度を下げていたか実感する日々だ。
「……」
ベッドの上に寝転がり、足元にだけかかっていた布団を蹴る。
すぐ横に置いてある本棚にはお気に入りの作者の本が並び、我ながら満足のいく本棚づくりができたなと思う。あと三つほど、欲しいシリーズものが抜けているので、そのうち揃えたいものだ。金銭的な余裕は全くないが。
「……」
その中から適当に選んで本でも読んでおこうかと思ったが、そんな気分にもなれない。
手元に置いてあった人形をひったくり、支えになるように抱きかかえる。
最近寝ている間、寒いのか、気づけばこの人形はいつも抱きかかえられている。私に。
鯨の形をした人形なのだけど、買った当初は確か、涼しくなると言うのが売りのモノだったんだけど。もうそんな機能などない。
「……」
視界には入らないように、人形を抱え、ぼうっとスマホを眺めてみる。
画面に映るのは、数ある一つのバイト探しのサイト。
なんとなく、住んでいる地域に絞り込み、自分のできそうな職種で絞り込み、眺めている。
「……」
軽く見ながら、スクロールをしていき、ふと気になれば詳細を確認してみる。
最近、さすがに母の声があまりにも痛すぎるので、ようやく重い腰を上げた所である。
やろうと決めたはいいが、さてどうしようと、また路頭に迷っているんだけれど。
「……」
母としては、さっさと再就職してほしいのだろうけど。
残念ながら、今すぐにとはいかないのだ。精神的に背負った負傷は、そんなすぐには回復には向かわない。いつからこんなものを抱えていたのかと思うくらいに気づけば大きくなっていた傷は、多少休んだくらいでは治らない。休めてもいないし。
「……」
日々それなりに、うだうだと、ぐだぐだと過ごしてはいるが。
唐突に、元職場の上司から連絡が来たり、出勤できないかと連絡が来たり、年末年始は開いてるだろうかと連絡が来たり。
特に予定もないので断るに断れずに、母も行きなさいと言うし、父は我関せずなので知らないだろうし。フルタイムで出るときもあれば、午前で帰るときもあるが。
そんな状態で何が休めているのか全く分からない。
「……」
大抵夜に連絡が来るから、今日は来ないだろうかと怯える日もあるし。
朝起きて連絡を見たら、なんて返事をしようと頭を抱えることもあるし。
「……」
それならばいっそ、他の仕事先を見つけていた方がいいと思い立ち、こうして探している。
そうすれば、シフトが入っていると断れる。そのためだけではないが。
気持ち的には、多少は楽になるかもしれない。
嫌でやめた場所に、何度も行く必要はなくなるだろう。
「……」
しかし、特にこれと言って、やりたいこともないからなぁ。
とりあえず、できそうなもので探してはいるけれど……これ、という決め手が自分の中にないので詳細を見たところで何も参考にはならない。
まぁ、教えてもらえれば大抵のことは出来てしまうから、何でもいいと思うんだけど。
「……」
強がりを言っているわけではなくて。
なんと言うか、器用貧乏というか……自分でも言いたくはないが。ほんとうに、やればできてしまうところがそれなりにあって、ろくに苦労も失敗もしないでここまで来てしまったのだ。だから、挫折を知らないし失敗を怖がる。だから、自分では何もできないし挑戦なんて絶対に出来ない。
「……」
これじゃぁ、やればできるじゃなくて、やってもできないことをやらない、という感じなのかな。出来る事と出来ない事の区別が、最初になんとなくわかってしまうから、やらないのかもしれない。失敗が怖いから。
「……」
こんな調子じゃ、仕事探しも何もない。
社会不適合もいいところだ。
「……」
だから、さっさと死んでしまえばいいのにと毎朝思う。
「……」
いっそ、殺人鬼でも現れて、殺してくれたらいいのになんて、夢みたいなことを思う。
いっそ、何かの事件にでも巻き込まれて、死ねたら良いのになんて、夢みたいなことを思う。
いっそ、起きたときには、呼吸音が心音が脈動が聞こえなくなっていたらなんて、夢みたいなことを思う。
「……」
どれもこれも、受動的に見えて結構なことだ。
どこまでも、能動的には動こうとしないなんて。
まぁ甘えたれもいいところだ。
「……………………」
スマホ画面を見るのが疲れてきた。
頭も痛くなってきた。
心なしか息も苦しくなってきた。
「……」
しにた……」
お題:強がり・呼吸音・殺人鬼