決めた、
【57】
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暑かった夏は去りかけ
秋風が吹くようになってきた
爽やかな風とは裏腹に
私の気持ちは淀んでいた
放課後の教室
そこは私と華だけがいる
「奈乃香?…具合でも悪いんか…?」
私の顔を心配そうに覗く華
それに私は
なるべく笑って返す
納得してないその顔は
私の嘘に気が付いてる証拠
「大丈夫だよ…」
どうしても弱弱しくなってしなまう
華は黙って優しく
私の頭をなでる
それに胸のあたりが締め付けられて
勢いで華に抱き着いた
すると華は
抱きしめ返してくれた
頭を撫でていた手を背中にまわして
「………」
小さな子どもをあやすように
優しく、やわらかく撫でてくれた
でも、涙は出なかった
泣きたかったけれど
今にも泣きそうだったけれど
もう枯れてしまったかのように
私の瞳から涙がこぼれることはなかった
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なんでかな
いつも、いつもそうだ
私のそばにいた人は
風みたいにやってきて
風みたいに当たり前にそこにいて
そして
また風みたいに
去っていく
今、私のそばにいる人もきっとそうだ
また、風みたいに…
自分が悪く考えすぎてるって
そんなことはわかってる
わかってるけれど
どうしようもない
怖い、怖い、怖い、こわい
怖くて、それに立ち向かうのも怖くて
私は怖がりだから
だから、…
決めたよ、どうするか
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『それでいいの?』
『いいよ、』
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「明日はついに遠足だからな!遅刻すんなよお前ら!」
「せんせーサボっていいですかぁ」
深井くんがダルそうにそういう
「ダメに決まってんだろ?俺もできることなら家にいたい、娘とあそんでいたいがな」
「なんやねん、このダメ教師」
「せんせーこの女がせんせーのことダメ教師とかいってまーす」
「何いうとんねや!!亮輔!!」
「うーわー殺されるー、助けて美倉サンー…?」
私の後ろに隠れた深井君が不思議そうな顔をしている
その顔に笑顔で返す
すると不思議そうな顔だった深井君は
一気に不機嫌になった
「ふ、深井君?」
「……なんでもないよ」
「で、でも…」
「また今度言う…」
そう言って席に戻る深井君
「……?」
明日…
ついに明日は遊園地へ向かう
あの場所へ
明日、明日
決めたからね
大丈夫
『その先に待っているものは』
(終止符の『。』か)
(続いていく『、』か)
【next】