壊していく、
【54】
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例えば、
今までのことが全部夢で
例えば、
今までの感情は全部幻想で―――
そんな事を考え出したら
きりがない
そう、だって
所詮、『例えば』は『例えば』でしかなくて
それが本当になることなんて、ほとんどない
そして私の『例えば』は
どうあがいたって『例えば』でしかなくて
過ぎたことはどうしようもないんだ
「………あと5分」
あの日、あの場所で
海晴に言われた言葉は
記憶だけでなく
心の奥底まで根を張り
消えることはなかった
このままでいい訳ない
でも、それをどうにかしようとしてしまう事が
どうしようもなく怖くて
私は何もできないまま
このまま時が流れていくのを
待つだけになってしまうんだろうか…
「はぁ…」
ため息を一つこぼしたその時
ザッザッ、
と誰かが走ってくる音
そちらを振り向けば
待っていたその人だった
「…ハァ、ごめん、まった?」
「ううん、全然」
俊哉は息を切らしていた
いつも何事も計画的にこなす俊哉が
遅刻気味で走ってきたのが
珍しくて首をかしげると
それに気が付いたのか
「ハハ」
と一つ笑みをこぼして
私に言った
「昨日、なかなか眠れなくてさ、柄にもなく緊張しちゃって…」
「緊張?」
「奈乃香は、しない?」
「…いや!そんなことはないけど!その、うん!」
緊張、というか
確かに昨日の夜は眠れなかった、
と、いうより
寝た気がしなかった
考え事をしていたから
ただ、それは
俊哉とのことではなかった
それがなんだか申し訳なくて
あわてて、ごまかそうとしたら
また俊哉は笑った
「いつもの奈乃香だ」
と言って
…いつも?
そっか、これがいつもの私なんだ
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心ここに非ずのまま歩き
目の前には
「遊園地?」
「そう、クラスで行くとか騒いでたろ?ここらしいけど、奈乃香と二人で来たくてさ」
照れくさそうに
頭をかきながら
そういう俊哉に嬉しくなった
そういえば
いつの間にか繋がれている右手
気が付かなかった私は
それほどまでにボーっとしていたのだろうか
以前の私なら
少し手が触れただけで
真っ赤になっていたのに
(なんで…?)
なんで、なんて
こたえはもうわかっていた
俊哉はもう私の心にいない
いや、俊哉が私の心にいたのは
一瞬で、
「いこう」
「…うん!」
それでも今日だけは
このまま過ごして
最後に言おうと決めていた
最後の言葉を、
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夕方になってきた
空も茜色に染まる
その景色を一望できる
人々はそれ見たさにここに集まる
「…観覧車」
真下からじゃてっぺんが見えなくて
首が痛くなるだけ
向かってくる一つの
小さな箱に二人で乗り込む
「俊哉、今日はありがとう」
「いいんだ、楽しかったよ」
笑顔で答える俊哉に
少しの罪悪感で胸が痛くなった
今日は本当に楽しかった
最近悩んでいたせいか
こうして思い切り遊べなかったから…
だからこの沈黙が
少しだけ辛い
――本当にここで終わらせていいのだろうか?――
俊哉と過ごすのは楽しくて
何も苦しくなんかない
だったら
むしろこのまま
何も話さずに
俊哉といることを選べば…
夕焼けに染まる街並みと
俊哉の横顔が
私の考えを壊していく
――けれど
――本当にそれで
――いいの?
ふと、茜色の景色が目の前で暗くなった
ハッとすると
そこには俊哉の顔があった
「と、俊哉…?」
「知ってる?ここの観覧車でキスすると永遠に2人でいられるって」
「え?あ、あの…」
「ベタだよね、でもそういうのは…」
二人の影が重なろうとする…
ゆっくりと
「なんだか、信じたくなるんだ」
――脳裏に浮かぶ貴方に聞きたい
私はどうすればいい?
教えてよ
【next】