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キミがくれた  作者: 紗渚
53/57

準備室で、Ⅱ

【53】









「デートしよう」







「デ?」


「…デ?」


「「デートぉぉ!!?」」




クラスに叫び声が響いた

それもそのはず

いつも優しくてどちらかと言うと謙虚な俊哉が

周りを気にもせず私をデートに誘ったんだから




「奈乃香?」


「へ!あ、うん…」


「じゃぁまたメールする」




それだけ言うと俊哉はすぐに席に戻った

そして勉強を始めた

周りが唖然とする中、華が私の肩を揺すりながら




「よかったなぁ奈乃香」




ニコニコする華

私はそれに少し笑った

すると、彼女は

あの日屋上でしたように

不思議そうな顔をした




「なんで…?」


「華…?」



そして悲しそうな顔をする

その理由(ワケ)が、

私には、解らなかった




――――――――

――――――

――――

…放課後




「奈乃香、ホンマに一人で平気?」


「平気だよ」




私は先生に頼まれた書類の整理をするために

授業がおわり残ることに

一人でもどうにかなりそうだから

華には帰ってもらった


華は最後まで複雑そうな顔をしていた




「先生、」


「あぁ、美倉さん。ごめんね急に」


「いいえ、私は何をすればいいんですか?」


「ええと…」



―――――――――

―――――――

―――――


私が向かったのは

国語準備室

そこに越後先生が間違えて持っていった大切な資料を持ってくるように頼まれた




「どこだろ…」




相変わらず散らかっているけれど、海晴が掃除したのだろう

埃っぽさはなくなっていて

本も少しずつではあるけれど、片付いていた




「あ、これかな?」




手に取った紙束は少しザラザラしていた

でも破れているところは見当たらない

安堵の息を漏らす

すると…




―ゴソッ…




何か物が動くような音が足元から聞こえた

そちらに目を向けると




手。…手?




「…海晴ッ!?」


「…た…たすけ…て」




急いで山から海晴をひっぱりだす

海晴は涙目で肩で息をしている




「死ぬかと…思った…」


「だ、大丈夫?」




手を伸ばすと

海晴は力弱く私の手を掴んでゆっくりと立ち上がった




「ありがとう…」


「まだやってたの?」


「量が多いのよ…」




溜め息をつきながら制服についた埃をはらう海晴

私はそれを見て、なんだか放っておけなかった




「…私も手伝おうか?」


「……………」




海晴は驚いた顔をして

私の顔をみた

そして少し笑って




「いいわよ、このぐらい一人でできるわ」


「でも…」


「奈乃香ちゃんだって用があったんじゃないの?」


「………あ!!」




海晴はクスクスと笑い

「じゃあね」

と言い、小さく手をふった

私もそれに

「うん、またね」

と言って準備室を出た




――ブー、ブー、ブー…




「あら?メールかしら…」




――ガラッピシャッ…




―――――――――

―――――――

――――

廊下から見える空は

すっかり茜色に染まり

生徒の影は少ない


遅くなってしまい

どう先生に言い訳しようかと迷っていたが


『準備室散らかってたでしょう?よく見つかったわね、ありがとう』


と言われて拍子抜けした

もう遅いから帰りなさいといわれ急いで教室に戻り

鞄を持って廊下に出た




「……………」




下駄箱につき

靴に手をかけた

真っ直ぐ帰ろうと思っていたけれど、どうも気になっていた

鞄をその場に置き、上履きに履き替えた




「やっぱり一人であの量は無理だよね…」




国語準備室に向かった

準備室の明かりはまだついていた

やはり終わらせるのは無理だったのだろう


扉に手をかけようとしたのと全く同時に




――ガラッ!




「わっ!!」




そこからでてきたのは

少し焦ったような顔をした海晴だった




「奈乃香ちゃん…どうしたの…?」


「えっ…と、やっぱり手伝おうと思って…」


「もう終わったわよ」


「あ、そなんだ…」




中を覗くと

確かに綺麗に揃った本棚

準備室がここまで広かったかを初めて知った


少しの沈黙

耐えきれなくなった私は

「じゃぁ…帰るね」

と準備室をあとにしようとした


しかしそれは制された




「…海晴…?」




海晴が私の手首を掴んでいたんだ

すると海晴は




「…俊哉が奈乃香ちゃんをデートに誘ったって…」


「え、あ、うん…」




また海晴から止めるように言われるかと思い

待ち構えていた

でも、聞こえてきた言葉は


予想外すぎた言葉




「奈乃香ちゃんは…それでいいの?」


「…………え?」


「今の奈乃香ちゃんは、無理してるようにしか、見えない、から…」




無理してる?

私が?なんで?


その言葉の意味がわからなくて、わからないのに



―それでいい訳、ない



そう、思ったんだ


=======


帰り道、

すっかり暗くなったいつもの道を歩く

何故か妙に海晴の言葉が頭から離れなくて

何故か妙に寂しくなった


寂しくなった時

いつも誰が隣にいたか


それがわからなくて

寂しくなった


空に輝く星は綺麗なのに

その隣がないと

その綺麗さが心に突き刺さるようだった

何故だか、頬に何か暖かいものを感じた



―誰だっけ……



鞄の中で携帯が静かに震えているのに

気付かないでいる私は



本当に自分なのだろうか













【NEXT】

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