聞き、
【49】-奈side-
.
―――ガチャ
「!!奈乃香!!」
「…えっと…わっ!?」
扉を開けて
なんと言い訳するか
考えようとした瞬間
急に華が抱き着いてきた
「し、し、心配したんだからぁ……!!」
「ごめんなさい…」
標準語になっている
そんな彼女をみて
本当に心配してくれたんだなと、感じた
半泣きの華に抱きしめられている私に
深井君はそっと近付いて
「どうしたの?」
そう聞いてきた
その質問の意味がわからなくて、首を傾げた
すると、
「泣きアトがある」
そう言って
私の目元に触れた
それにまた泣きそうになる
今、優しくされる事が、
凄く辛い
「だ、大丈夫!海水がちょっと目に入っちゃっただけだから!!」
「…そう」
深井君はホッとしたような
気に入らないような
複雑な顔をした
そして
まだ私に抱き着く華を見て
鬱陶しそうな顔をする
「華…もう大丈夫だから」
「、うん…あ」
「どしたの?」
華は思い出したように
後ろを向き
私はその目線の先を見た
そこには
「輝も心配してた、走って奈乃香探しに行った。会わなかった?」
そこにいた彼は
一瞬目を見開き
そしてゆっくりと椅子から立ち上がり
歩いてきた
「大丈夫だった?」
それは
何事も
なかったかのような声で
その小さな微笑みの奥に
彼は見えなかった
「…ん、」
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最終日の朝
二日間お世話になったこの別荘ともお別れの日
帰るため荷物をまとめる
―コンコン
「はーい?」
―――ガチャ
「…どしたの?」
そこにいたのは輝
輝は彼らしくない
笑顔をうかべて
「もう行くって」
「あ、うん。」
急いで支度を進める
気を使ってくれた輝は
その場で待っていてくれている
でも、今の輝が
側にいるのが
なんとなく嫌だった
「輝、早めに終わらすから先に行ってて」
「…うん、じゃぁ行くね」
そう言って
部屋からでて、
扉を閉める寸前に
「あとでね、
.
奈乃香。」
「え…?」
聞こえた言葉が
なんだか信じられなくて
聞こえた方を見た
だけど、そこには
既に閉じられた扉だけ
「聞き間違え…」
そう呟いて
目の前の荷物だけに
集中した
========
「じゃぁ、美倉サン」
「うん、ありがとう。またね深井君」
「ついでにお二人も」
「…一言余計」
「ひどいなぁ亮輔は」
初日に待ち合わせた駅で下ろしてもらい
そこから三人で帰った
途中から華とは道が違う
「じゃぁ、また」
「うん、じゃぁね」
「またな、華さん」
そこから私の家まで
輝はずっと喋っていてくれていたけど
話しているのが輝なのに
輝じゃなくて
心地悪かった
「送ってくれてありがとう。またね」
「うん、また」
手をふって
家の扉を開ける
そして扉がしまる
その時
「やっぱダメだ…ゴメン…カノン…いや、"奈乃香"」
「ッ!?」
振り返った時
やっぱり目の前は
閉じられた扉
家は静かで
親はまだ帰ってないようだ
なにも考えられなくて
ゆっくり二階に上がって
ゆっくりと自室に入る
ふと携帯のランプが青くチカチカと光っていた
開けると
メールが一件
『おかえり
楽しかった?』
それは俊哉から
その1文で
今まで考えなかった
全ての事が
全ての感情が溢れた
雫となって
震える指で
ボタンを押そうとした
だけど、
なんて書けばいい?
『楽しかったよ』
そう返せばいいのに
わかっているのに
書けなくて
楽しかったよりも
沢山の感情があって
考えれば考えるほど
分からなくなる
「…ッ…なんで…」
呼んで、
呼んでよ、
いつもみたいに、
ちょっと照れたように、
『久しぶり』
『あははっ』
『変わんないなぁ』
.
『カノンは』
.
.
『ゴメン…奈乃香』
.
それは聞き間違え
.
そうあって欲しかった
.
また分からなくなる
.
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