ヒーロー、
今回は過去話です
Sana
【46】
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あれは、俺たちがまだ
5歳だった頃の話だ
俺とカノンは
玄関の前で
ワクワクしながら
あの人の帰りを待っていた
『輝、これ喜ぶかな?』
『絶対喜ぶよ!!』
―――ガチャッ
『ただい…』
『お兄ちゃん!』
『おかえり!!』
―――バッ
思いっきり抱きついた
子どもとはいえ
2人分の体重を
もろに受けたあの人は
一瞬倒れそうになったけど
俺たちを支えて
ニッコリと笑った
あの人
それは、カノンの兄ちゃん
『なんだよ2人して』
秀也兄ちゃん
俺は秀兄が大好きだった
いつも俺と遊んでくれて
優しく微笑んでくれる
かっこいい俺のヒーロー
そして、
その日は特別な日だった
『秀兄!!』
『おたんじょーびおめでとー!!』
兄ちゃんの前に
カノンは花の冠
そして俺は手紙をだした
兄ちゃんは
驚きと嬉しさ、
両方が混ざった顔をして
『ありがとな』
そう言った。
そして俺とカノンを
優しく撫でてくれた
それが堪らなく嬉しくて
そして恥ずかしくて
誤魔化すために兄ちゃんにもう一度抱きついた
カノンも『ずるい』と言って、同時に抱きついた
ものすごく幸せだ
両親のいない俺に
姉ちゃんは親代わりになってくれて、
でも、バイトでほとんど家にはいなかった
そんな俺にカノンと秀兄は
まるで本当の家族みたいに接してくれた
それに今までお礼が言えなかった俺は
手紙にこれでもかと
『ありがとう』
そう書いたんだ
『輝、手紙は今読んでもいいのか?』
『え!?恥ずかしいから後でよんでよ!!』
『なのかもききたい』
『だ、だめ!!』
必死に止めようとした
だけど美倉家の2人はニヤリと笑った
『じゃぁ、奈乃。あとで2人でよもうか』
『うん!』
『カノンー!!』
『あははっ』
そのまま三人で家で遊んでいればよかった?
手紙を今すぐ読んでと言えばよかった?
もしもあの時…
考えればキリはない
もしもなんて無駄なんだ
解っているけど
もしも、もしも、と考えてしまうんだ
『公園に行きたい』
公園に行きたいと思ったのは嘘だ
ただの照れ隠し
でも、カノンは
『行きたい』そう言った
秀兄はカバンと学ランを玄関に置き、立ち上がった
そして俺たちと手を繋ぎ
『いくか』
と言った
『『…うん!』』
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なにが、起こったんだっけ
気が付けば
目の前は真っ赤で
カノンはボロボロに泣いて
そして―――――
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『2人ともあんまり走んなよー』
『秀兄はやくー!』
『輝まってよー』
照れ隠しなんて
すっかり忘れていた俺
ただ、純粋にはやく3人で遊びたくなった
公園につくと
カノンはトイレに行くと
行ってしまった
その間
俺と秀兄はベンチに並んで座っていた
『輝ーいきなりだけど』
『んー?』
『お前って、奈乃のこと……好きでしょ?』
『…………え?』
『あ、あたり?』
『な、なんでわかったの!?秀兄!!』
ベンチに立ち上がり
真っ赤になって叫んだ
すると秀兄は口元を緩め
ニヤニヤとしていた
『へぇ〜…』
『か、カノンに絶対いわないでよ!!』
『はいはい』
『ぜったいだからね!!』
秀兄はもう一度
『はいはい』
と笑った
そんな返事で納得してしまった俺は
ゆっくりと座り直した
『…いつから?』
『…わかんない』
『そっか』
嘘ではなかった
気が付いたら好きだった
笑顔がしぐさが声が優しさが全部だ
全部が気が付いたら
好きになっていた
『でも、奈乃はなぁ…』
『?』
『まだ、恋とかわかんないと思うよ?』
『…そうなの?』
声が掠れた
泣きそうになったんだ
『…じゃぁ、おれはどうすればいいのかな…?』
『うん?そんなの決まってんだろ?』
え?、と顔を向ければ
俺の小さい額を
長い指で小さく
『コツン』と小突いた
びっくりした俺は
痛くもないのに
額を両手で抑えた
『…輝は、自分のやりたいようにすればいい』
『…』
『それだけ、分かった?』
『…うん!!』
『なにがわかったの?』
『か、カノン!?』
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俺は泣かなかった
いや、泣けなかった
だって信じられない
嘘だ、嘘だ、嘘だ、
全部、全部が嘘だ
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『ボール…』
『カノンあぶない!』
『まっ…!!輝!!奈乃!!』
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――――キキーッ
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――――ドンッ
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『秀兄…っ…!!』
―あれ?
―秀兄は赤い服をきてたんだっけ?
―秀兄はこんなに顔が青白かったっけ?
―秀兄はこんなに――
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――冷たかったっけ?
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秀兄は
右手に花の冠を
そしてポケットに、
もう開くことのない
すこし赤くなった
俺の手紙を、
入れていた
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【next】