ひらり、
【11】-奈side-
ニヤリと笑いながら
ひらりと給水タンクの高さから物音たてずに
私の前に降りた彼。
その顔は忘れる訳もない
「…輝…?」
「久しぶりだね、カノン」
昔と変わらない優しい笑顔でふわりと笑う
「元気…だった?」
小さく私が言うと
彼は
「うん。カノンも…って元気じゃなさそうだな」
彼の長い指先が私の目元に触れる。
彼は昔から私の事を
[カノン]
そう呼ぶ
「だいじょぶ…?」
優しく、優しく
囁くような声で言う。
最後に聞いた彼の声とは違った。
丁度よく低めの、大人の男の人の声。
「大丈夫…だよ」
ウソ。
本当は大丈夫なんかじゃない。
今すぐ逃げ出したい位
苦しい
助けてとすがりつきたい位
辛い
今すぐに抱き着きたい位
泣き出したい
「カノン…」
彼は何か言い出そうとした
でも、私はそれを聞けなかった。
――――――バンッ!
「奈乃香!!」
その瞬間
屋上の扉が大きく開く
そしてそれと共に
私の親友が走ってきた
「…華…?」
「やっと見っけた……」
息を切らした様子を見ると
走って探してくれた事がわかる
「…ありがとう」
「奈乃香!ほら、帰るよ」
「華…標準語」
「…あッ」
クスクスと笑う
関西弁を忘れる位に
必死になってたんだ
――ありがと…
私の腕をつかみズンズンと扉に向かい歩きだす華
「…あッ…輝ッ…」
心配してくれたお礼をと
振り向いて見ると
「………輝…?」
すでに彼はいなかった
「奈乃香?」
「…なんでも、ない」
最後にもう一度
彼の顔が、見たかった
――――――――――
―――――――
――――
「カノンの…」
「ウソツキ」
【next】
Sana