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触りたい


「まず、ライアン様の先ほどの姿は一体なんだったのでしょうか?」


「やっぱり気になるよね」


 ウィリアム様はあからさまに困ったような顔をする。


「半分人間で半分獣なんだよ」


 言いにくそうなウィリアム様に対し、ライアン様はあっさり答える。


「半分獣……」


「俺らは人間と獣、自由に姿を変えられる」


「俺ら?」


 俺、ではなく俺ら、ということは他にも半分獣である人物がいるということだ。

 そして可能性があるのは今目の前にいるこの人。


「涼しい顔してるけど、ウィリアムだってそうだぜ」

 

 ライアン様が親指をウィリアム様に向ける。私はやっぱり、と思ったが、ウィリアム様はバツが悪そうだ。


「君に言うつもりはなかったんだ。怖がらせたくないし。ライアンにも言ってあったんだけどね」


「屋敷に上がる時、人間に戻ろうと思ってたけど忘れた」


「屋敷に上がる?」


「実は、ここは表面上の侯爵家の屋敷で僕たちは普段、ここの地下にある住居で生活してるんだよ」


「地下の部屋の方がここより広いぜ」


  地下で生活していると言われてずっと疑問に思っていたことが全て腑に落ちた。

 人の気配がしなかったのも、どこからか物や食事が運ばれてきたのも地下から運んできていたからなのだ。


「住んでらっしゃるのはご兄弟だけなのですか?」


「うん。侯爵家なのに使用人の一人もいないなんて変だと思ったよね」


「少し……」


 いや、かなり思ったが変だと思うことが多すぎていた。


「なぜ、このお屋敷では生活してらっしゃらないのですか?」


「んー、暗いほうが落ちつくからかな。あとはちょっと僕たちの仕事が関係してるんだけどそれは秘密にさせてね」


「わかりました」


 本当は凄く気になったが、秘密だと言われてこれ以上聞くわけにもいかない。

 暗いほうが落ち着くというのは半分オオカミだからだろうか。

 そして私は今一番気になっていることを聞く。


「どうして皆さんは半分人間で半分獣なのでしょうか」


「ははっ。それは俺たちが知りだいぜ!」


「僕たちの一族は昔からある一定の年齢になると獣に変身することができるようになるんだ。それがどうしてかはわかっていないんだよ」


「そうなのですね」


 まだまだ謎は多いままだが、悪い人たちではないし私は私の仕事をするまでだ。

 大好きな刺繍もたくさんできるし、ここにいる間それを楽しもう。


「じゃあ俺はそろそろあっちの姿に戻る」


「怪我、まだ痛むの?」


「怪我?」


 そう言われて見てみるとライアン様は足を怪我している。


「ああ。ちょっとしくじってさ。獣でいるほうが治りが早いんだ」


 ウィリアム様は呆れた顔をしているが、私は内心ワクワクしていた。

 先ほど見たもふもふが忘れられないのだ。

 男性の姿になった時は驚いたが、あのふわふわの毛並み、鋭く凛々しい目、ピンと立った耳、そしてなによりあのしっぽ。

 触りたくて仕方がない。


 そんなことを思っているとライアン様が椅子から立ち上がる。

 一瞬光に包まれたと思うと、オオカミの姿になった。


「ライアンっ!」

「可愛い!!」


「「可愛い?」」


 私が言った可愛いに二人が同時に反応する。


「この姿が可愛いの?」


「はい。もふもふしていてかっこよくて、それでいて可愛いです」


「変なやつだな」


 私は立ち上がるとお座りしている状態のライアン様のところへ行き、しゃがんで目線を合わせる。

 そして断りもせず両頬の毛をもふもふした。


「おいっ」


「ふふ。やっぱり気持ちいいいいです」


 調子に乗って抱きつこうとしたら、ウィリアム様に止められた。


「ダメだよ。仮にも男と女なんだから」


「すみません……」


「俺は別にいいぜ」


「ライアンっ」


 ライアン様は起き上がりしっぽをフリフリすると

「またなセレーナ」

そう言って着ていた服を咥え部屋から出ていった。


 名残惜しそうにしているとウィリアム様が心配そうに聞いてくる。


「あの獣が怖くないの?」


「そうですね……」


 もし野生のオオカミに遭遇したとしたらもちろん怖いだろう。

 だがそうではないことをわかっているし、ただただあのもふもふを撫でたい。そんな感情が沸き上がるだけだ。


「怖くないです。むしろ触りたいというか、愛でたいというか……」


「そうなんだ……」


 するとウィリアム様は立ち上がると体から光を放つ。


--ボンっ


そしてオオカミになった。


「撫でてもいいよ」


 銀色の艶々の毛並み、大きく丸い青い瞳、少し開きぎみの尖った耳。

 俯き加減でそう言ったイケメンオオカミはすごく可愛い。



「いいの、ですか?」


「うん。そんなに触りたいなら。カーテンのお礼に」


 私は遠慮なくもふもふした。

 頬、頭、耳、背中、最後にしっぽを触ると体がビクッと跳ねた。


「すみません、だめでした?」


「いや、大丈夫だよ」


 ふわふわの毛並みで分かりにくいが、心なしか顔が赤い気がする。

 それがまたなんとも可愛いくて思わず正面からぎゅっと抱きしめた。


「だから、それはだめだよ!」


 そう言いながらもされるがままだった。ぎゅっとしながら背中を撫でる。

 何だかんだウィリアム様も気持ち良さそうだ。


「ありがとうございました」


 しばらくもふもふを堪能した後、お礼を言い離れる。


「こちらこそ色々ありがとう。セレーナ」


 ここに来て初めてウィリアム様から名前を呼ばれた。


 どれくらいここにいるかは仕事の進み具合で未定だが、なんだか楽しくなりそうだとワクワクした。


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