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キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる  作者: 藤 ゆみ子


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どうしたいのか


 翌日、私とライアン様は出来た商品を持ってエタンセルへ来た。

 

 マスターが以前と同じように落ち着いた店内で営業しているのを見て安心した。


「マスター、お店を空けてすみません。前回の注文分の商品はできたので、また新たに注文を少し受けようかと思うのですがどうでしょうか」


「セレーナさん。そのことで少し相談があるんですけどね。ライアン様もご一緒に」


 マスターに促され私とライアン様は椅子に腰掛けた。

 

「先日のお店の様子がヴァイオレット様に伝わったようでして、とても心配されていました。このお店のことも、セレーナさんのことも」


「ヴァイオレット様が……」


「それで、ある提案をしていただいたのですが」


 マスターはそう言ってなぜかライアン様の方を見る。そしてライアン様は私に視線を向けた。


「コードウェル家の皆さんの耳にはもう入っているのではないですか?」


「王族お抱えの縫い師になるってことだろ」


「え、」


 王族お抱えの縫い師? それは王族だけの縫い師として働くということだろうか。


「たぶん、この前みたいに刺繍だけじゃなくて洋裁全般の仕事をこなしていかなければいけなくなると思います。ドレスやシャツ、ジャケットなどの洋服からマントや帽子グローブなどの服飾品はもちろん、天幕やテーブルクロス、絨毯など全ての裁縫職を担っていくことになります」


 さすが宮廷縫い師だったマスターは仕事内容について詳しい。きっと私が思っているよりも大変でたくさんの仕事があるに違いない。それに私は刺繍以外はほとんど素人でドレスなどを仕立てるなんてしたことはない。


「セレーナがしたくないような仕事もしなければいけなくなるということだ」


「したくないような仕事……」


 王宮で縫い師をしている人はたくさんいるはずだ。私は刺繍以外ほどんど素人だしきっと見習いとして始まるだろう。

 したくない、というよりは私にできるのかという不安がある。

 ヴァイオレット様のドレスに刺繍をする時とはまた違った緊張が出てくるだろう。


「それに使用人と同じような扱いにもなる」


「使用人?」


「住み込みで部屋も与えられるだろうよ」


 そうか。住み込みになるんだ。そうなるとあの屋敷を出て王宮内で住むようになるのか。


「返事は急がないそうなのでゆっくり考えて下さいね」


「はい」


 その話もあり、新しい注文は受けずにそのまま帰ることになった。このまま今の状態で仕事を続け、落ち着いたらまたお店に戻り以前と同じように働いていくものと思っていた。

 ヴァイオレット様は今の現状を心配して提案してくれたのだろうが、もし王宮で縫い師をすることになったら、私は今後どんな生活を送るようになるのだろうか。


「ずっと屋敷でいろよ」


 ライアン様は屋敷へ帰っている途中、私の手をぎゅっと握ってそう言った。手を、握られたのは初めてだ。


「ライアン様?」


「無理に王宮に行く必要はない。今みたいに屋敷で仕事すればいいだろ」


 まるで拗ねた子どものように視線を逸らすライアン様がなんだか可愛く思える。

 ライアン様は私に王宮で働かないかという話がきているのを知っていて言わなかった。ということは私に屋敷でいてほしいということなのだろうか。

 でも、そのことを考えるとやはりフェリクス様の言っていたことが頭をよぎる。ライアン様はどう思っているのだろう。


「王宮で働くことになれば、もう皆さんとお会いすることはなくなるのでしょうか」


「そんなことはない。会いたかったらいつでも会えばいい」


「そうですよね」


 確かに王宮で暮らすことになったとしても会えないわけではない。会いに行けばいいだけのはなしだ。それでも寂しいと思ってしまうのは私の勝手な我が儘だろうか。

 私はみんなの好意を利用してあの屋敷に居座っていていいのだろうか。最近そんなことばかり考えている。

 そしてライアン様に聞きたいことがある。ライアン様ならきっと正直に答えてくれるはず。


「ライアン様」


「なんだ?」


「私を側に置くのは獣の子を成すためですか?」


 ライアン様は足を止める。握っている手の力が強くなる。

 あまりにも直接的な言葉で聞いてしまったことに、もう少し違う言い方をすれば良かったと後悔してももう遅い。


「そうなればいいと思っていたことは否定しない」


 やっぱり。そうなんだ。ライアン様は小さい声で、それでもはっきりと言った。そうなればいいと。


「そうですか」


「でも今はそれだけじゃない」


「そう、ですか……」


 私たちはお互いそれ以上何も言わなかった。ライアン様はその言葉の真意を、想いを語ることもせず、ただ私の手を強く握り屋敷へと帰った。



 私はその日の夜、リビングではなく寝室でカーテンの刺繍をしていた。

 リビングで作業しているときっとだれか側に来てくれる。でも今は一人でいたい気分だった。

 ヴァイオレット様のドレスの件で王宮に通っていた時は屋敷ですることがなかったため夜はずっとカーテンの刺繍をしていた。

 もうすぐ全てのカーテンをし終える。以前ライアン様の服にも刺繍しろと言われたがさすがにそれはしなくていいとウィリアム様から言われてある。

 カーテンの刺繍が全て終われば本当に私のここでの仕事はなくなるのだ。

 

 私は自分でも一体どうしたいのかがわからない。子を成すために側に置いていると言われたが思っていたよりショックは受けなかった。それよりも何も言わず、ずっとここに置いてくれていることに感謝しなければいけない。

 でも、だからこそなんの役にも立てない自分が嫌になる。だからといって子を作りますなんてことは絶対に言えない。そんな簡単に言っていいことでもない。そういうことではないと思う。

 

 私は完成したカーテンを抱えそのままベッドへ横になる。

 

 せめて、ここでの生活を続けるのか王宮で働くのか決めなければ……私はどうするべきなのか。どうしたいのか。

 私の本当の気持ちは……


 考えながら私はだんだんと意識を手放していった。



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