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キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる  作者: 藤 ゆみ子


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良い出来


「で、できました!」


 ヴァイオレット様のドレスに刺繍を始めて三ヶ月とちょっと、最後の襟元の刺繍を入れ終えドレスが完成した。

 出来上がったドレスをトルソーに掛けると終盤の作業を見守ってくれていたヴァイオレット様に向ける。


「すごいわ! とっても素敵よ!」


 ウェストのラインから裾にかけて広がる雪の結晶は裾に向かって少しずつ大きくなるように入れている。襟元はラウンドに沿って小さく細かい結晶をちりばめた。


「ありがとうございます。我ながら良い出来になったのではないかと思います」


「ええ、本当に。嬉しいわ」


「良かったです。だいぶギリギリになってしまいましたが」


「式典に間に合えばなんでもいいのよ」


 式典はもう明後日だ。数日前から本当に間に合うのか焦りも出てきたが、なんとか大きなミスをすることもなく仕上げることが出来た。


「ヴァイオレット様、さっそく合わせてみましょう」


 カレンさんがコルセットとパニエを持ってくる。ヴァイオレット様はその場で着替えを始めた。

「あの、私は席をはずした方が……」


「いいのよ、すぐに着替えるから。セレーナさんにも見て欲しいわ」


「はい」


 カレンさんは手際よく着替えを進めていく。コルセットは見ている私が苦しくなるくらい締められているが、ヴァイオレット様は顔色一つ変えず慣れているようだ。


 ヴァイオレット様が纏ったそのドレスはなんとも優美で神秘的な雰囲気を醸し出している。

 自分で言うのもなんだが本当に美しい。ヴァイオレット様のシルバーグレーの髪とドレスの鮮やかなブルーがとても良く合っている。


 カレンさんがいつのまにか持って来た姿見の前でヴァイオレット様は嬉しそうに微笑む。


「本当に素敵! セレーナさんありがとう」


「こちらこそ、重要な役割を任せて頂きありがとうございました」


「あなたにお願いして良かったわ」


 凄く嬉しい褒め言葉だ。この三ヶ月頑張ったかいがあった。

 

「式典ではセレーナさんに関係者席を用意してあるからね」


「え? 関係者席ですか?!」


 式典に参加するとも思っていなかったし、ましてや関係者席なんて座る資格が私にあるのだろうか。


 明後日の式典は現王即位二十年を祝うもので王宮で行われる式典には貴族だけが参加できる。

 一般国民には式典の後街のメインストリートでのパレードで顔見せすることになっている。

 私はそこで拝見しようと思っていた。


「本当は親族席を用意したかったのだけどね」


「いえ! とんでもないです!」


「そう? あの子たちは当日揃って親族席にいると思うわ」


 そうだ忘れていた。彼らは国王の従甥、お妃様の弟で一応王族として並ぶんだ。

 そう考えると彼らが一気に遠い存在に感じる。


「エタンセルのマスターが関係者席にいるから寂しがらないでね」


 私は寂しそうな顔をしていたのだろうか。にこりと微笑むヴァイオレット様になんとなく微笑み返す。


「そういえば、マスターと皆さんはどういったご関係なのですか?」


 古くからの付き合いだと言っていたが街の雑貨店のマスターと由緒あるコードウェル家のはどんな繋がりがあるのだろう。


「マスターはね、以前は宮廷縫い師だったのよ。もう年齢的に指先も細かい仕事ができなくなって引退したけど」


 宮廷縫い師とは王族専属の縫い師で、他のお店から派遣されて仕事をしにくるお針子さんたちの統括をしたりもしている。

 基本的に女性が務めていることが多いためマスターが宮廷縫い師だったとは思っていなかった。


「それと、私たちの母の服を仕立ててくれていたのよ。獣姿のね」


「獣姿の?」


「あの子たちは男だし、邪魔くさいからってあの姿で服は着ないけど母は獣姿でも服を着ていたの。でもあの姿で着れる服なんて普通ではないから、マスターに作ってもらっていたのよ」


 この世界でも犬や猫などの一般的なペットはいるが服を着せるという習慣はない。オオカミの姿で着れる服となると特別な型や技術が必要になるだろう。それをマスターが担っていたらしい。


「一族の中でも女性があの姿になるのは本当に珍しくて、あの姿の服なんて元々なかったから母はマスターにとても感謝していたわ」


「そうだったのですね」


 私は彼らがオオカミの姿で服をきているのを想像してしまう。


「皆さんも服を着たらもっと可愛いのにな」


「ふふ。セレーナさんが作った服ならあの子たちも着るかもしれないわね」


 それもいいかもしれないと思った。

 いつかマスターに作り方を教わって、刺繍も入れてプレゼントしてみよう。


 私はその日、達成感いっぱいで屋敷に帰った。

 疲れなど忘れてしまうほど気持ちが弾んでいた私はその気分のままカーテンの刺繍もしていた。

 この三ヶ月、屋敷ではすることがなかったためカーテンの刺繍もずいぶんと進んでいる。


「嬉しそうだね。ドレス、上手く出来たの?」


 リビングにウィリアム様が入って来て私の隣に腰かけた。


「はい。ヴァイオレット様にとても喜んで頂きました。明後日の式典にも間に合って良かったです」


「セレーナ、明日は何か予定ある?」


 明日は一日お休みだ。エタンセルでの仕事も式典が終わってから再開することになっているし。三ヶ月王宮に毎日通っていたので一日ゆっくりしてねとヴァイオレット様にも言われている。


「いえ、特にはありません。ここでゆっくり過ごそうかと思っていました」


「良かったら一緒に出かけない?」


「お出かけですか?」


「そう。行きたいところがあって」


 一緒に買い物へ行ったことはあるけどちゃんとしたお出かけのお誘いは初めてだ。改めて誘われると緊張するけれど、嬉しかった。


「はい。ぜひお願いします」


「うん」


 その後は私の作業が終わるまでウィリアム様もソファーで何かの資料に目を通しながらゆったりした時間を過ごした。

 


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