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キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる  作者: 藤 ゆみ子


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兄弟たちの姉


 エタンセルへ行き、商品をマスターに預けてから王宮へと向かう。

 マスターは少し心配そうな顔をしていたが、実は私もかなり緊張している。

 王宮に入ることも、お妃様に会うことだって初めてだ。


 今日はまずはお妃様にご挨拶し、どんなドレスに仕上げたいかデザインの相談からはじめることになっている。

 

 王宮に着き、門の前で衛兵に名前を告げると直ぐに中に通してもらえた。

 門から建物までの長い庭を歩いているとメイド服を着た女性がパタパタとこちらに駆けよってくる。


「セレーナ様でしょうか」


「そうです」


「私、ヴァイオレット様の専属侍女のカレンと申します。ご案内しますのでどうぞこちらへ」


「はい」


 専属侍女直々に出迎えられ緊張が増してくる。


 この国の皇太子の妻であるヴァイオレット様は眉目秀麗、王族の中でも特に人徳のあるかただとマスターから聞いていた。

 皇太子の妻はヴァイオレット様しかおらず、ゆくゆくは皇后になるお方だ。

 そんなお方から仕事の依頼が入るなんて思ってもいなかったが、私は私の出来る限りを尽くそうと気合いを入れながら侍女のカレンさんの後を着いていく。


「ここがヴァイオレット様のお部屋です」


 カレンさんは部屋の前で立ち止まりドアをノックする。


「ヴァイオレット様、セレーナ様がお見えになりました」


「お通しして。あ、待って髪を整えるから」


「髪はさっき私が整えたでしょう。入りますよ」


 中から聞こえてきた穏やかでそれでいてどこか可愛らしい返事に安心し、ドアを開けてくれたカレンさんに頭を下げ部屋に入る。


「はじめまして。セレーナと申しまっ、うぐっ」


 自己紹介も終わらないまま私はヴァイオレット様に抱きしめられた。


「会いたかったわ」


 会いたかった?そんなに私の仕事に期待してくれているのだろうか。

 ヴァイオレット様は体を離すと私の両手を取りにこりと微笑む。

 

「あの子たちから話を聞いていたの」


「あの子たち……?」


 何のことかよくわからないままヴァイオレット様と目を合わせる。


「私の結婚する前の名前はヴァイオレット・コードウェル。あの兄弟たちの姉よ」


「お、お姉様!?」

 

 確かに言われて見ると、シルバーグレーのさらさらの髪、大きな瞳、高い鼻は彼らと良く似ている。

 けれどまさかお妃様が三人のお姉様だなんて全然知らなかった。今朝、ウィリアム様に王宮に行くと言った時なぜ教えてくれなかったのだろう。

 ヴァイオレット様は話を聞いていたと言うが、誰からどんな話を聞いていたのだろう。

 疑問はたくさんあるが一番気になっていることがある。


「私にドレスの刺繍を依頼したのは、私がコードウェル家に住んでいるからなのですか?」


 この仕事の依頼を聞いた時不安や緊張もあったが、私の刺繍が認められたのだと嬉しかった。でももし、そうでないのなら私はこの仕事を断らなければならない。


「あら、違うわ。依頼したのはあなたの刺繍が本当に素晴らしいと思ったからよ」

 

 ヴァイオレット様は私の手を引くとソファーに座るように促す。


「立ち話もなんだし座って」


「はい。失礼します」


 ソファーに座るとカレンさんがいつのまにか用意してくれたお茶がテーブルに置かれる。

 私は軽く頭下げるとカレンさんはワゴンを押して部屋を出て行った。


「うちの侍女がね、あなたのハンカチを持ってたの。一目見て、これを作った人にドレスの刺繍をお願いしたいと思ったわ。それで侍女にどこで買ったのか尋ねたらエタンセルだって。あなたがエタンセルで働いているとは聞いていたからもう運命だと思ったのよ」


「運命だなんてそんな……」


 大げさな。ということは口にはしなかった。

 姉として弟たちと暮らしている私のことは当然気になるだろう。とりあえずちゃんと私の刺繍を見て依頼してくれたことに安心しながらさっそく仕事の話を切り出す。


「あの、ドレスにはどのような柄の刺繍をご希望なのですか?」


「それが、まだはっきりとは決めてないの。それもセレーナさんに相談しようと思って。ドレス自体はもう出来上がっているのだけどね」


 ヴァイオレット様は立ち上がりクローゼットを開けるとそこには透き通るような鮮やかなブルーの綺麗なドレスが掛けられていた。

 一目で高級な生地だとわかる光沢感、大きく開いたラウンドネック、ボリュームのあるAラインのドレスはそれだけで上品さと美しさが醸し出されている。


「とても、素敵なドレスですね」


「ええ。ここにあなたの刺繍があればもっと素敵になるわ」


 この鮮やかなブルーにはどんな模様が合うだろう。

 華美過ぎず、落ち着いた模様がいいだろうか。


「ヴァイオレット様はご自身が好きな模様などはありますか?」


「好きな模様、そうねぇ。母がよく着ていたドレスの模様が私も好きだったわね……」


「もしかして、雪の結晶の模様ですか?」


「ええそう。よくわかったわね」


 リビングのカーテンを刺繍した時にウィリアム様から聞いていたことだ。ライアン様もそれで気に入ってくれたと。


「このドレスの色とも合いますし、雪の結晶をモチーフにしたデザインで考えていみてもいいですか?」


「嬉しい! それでお願いするわ」


 私はドレスの元のデザイン画をもらい、それに雪の結晶の模様を書き加えていく。

 ヴァイオレット様と相談しながら襟元や裾、腰回りにどんな模様を入れていくか決めた。


「こんな感じでどうでしょうか」


「とてもいいわ! 出来上がるのが楽しみね」


「ご期待に添えるように頑張ります」


 デザインは決まったものの、私の仕事はこれからだ。刺繍を入れていく時、少し針を入れる位置がずれるだけでその模様が台無しになる。

 

「セレーナさん、そんな固い顔しないで。あまり気負いすぎないでね」


 よほど緊張が顔に出てしまっていたのか、ヴァイオレット様に指摘される。


「ねぇ、この後時間あるかしら? ゆっくりお茶でもしながらお話しない?」


 そう言われ、カレンさんが入れてくれたお茶がもう随分冷えてしまったことに気が付く。

 いつも帰る時間よりはまだ早いし、お妃様からのお茶のお誘いを断るなんて出来ない。


「はい。よろしくお願いします」


 すると私たちの話を聞いていたのか直ぐにカレンさんが部屋に入ってきてお茶の準備を始めた。


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