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6 冬

 冬


 季節は冬になった。

 私たちは手を取り合って、病室からこっそりと抜け出して、薄暗い夜の明け方の病院の長椅子の上に並んで、お互いの肩に頭を寄り添うようにして、座っていた。(私たちが病室を抜け出して密かに会っていることを先生たちは知っていたらしい。もちろん、今日のことも知っている。私の最後のわがままで迷惑なお願いだった)暗い廊下の中で、私はずっと目を閉じて、私の耳をすーくんの胸のところにあてて、すぐ近くにいるすーくんの心臓の鼓動の音を聞いていた。

 とくん、とくん、と言う静かな音だけを聞いていた。

「大丈夫? 寒くない?」

 小さな声ですーくんは言った。

「……うん。大丈夫。寒くない。全然寒くないよ」と私は言った。

 それは私のいつもの強がりではなかった。

 本当の、本当に本当の本心からの言葉だった。

 今朝の気温は低くて、体は少しだけ寒かったのだけど、私の心は全然寒くなんてなかった。ずっとあったかいままだった。

 それはもちろん、すーくんが私の隣にいて、こうしてぎゅっと、私の手を握ってくれているからだった。(私の手と体と心をあっためてくれているからだった)

 もうすぐ夜明けが来る。

 太陽が世界に昇って、夜が終わって、新しい朝がやってくる。

 眩しい朝。

 綺麗な朝。

 待ち望んだ朝の日差しが、この暗い病院の中に差し込んでくる。

 その光を私は見たいと思った。

 でも、それはもしかしたら、無理かもしれない。

 私は、もう、あんまり持ちそうにもなかった。

 ……あと、数時間。

 でも、その数時間が私には遠すぎる。

「……すーくん。お願いがあるの」私は言った。

「なに?」

 優しい声ですーくんは言った。

「このまま、ずっと、私の手を握ったままでいてくれる?」私は言う。(私のかすれている小さな声は、もしかしたら、少しだけ震えていたかもしれない)

「うん。もちろん。いいよ」

 にっこりと笑って、すーくんは言う。

 あんまり喋らない(最初にあったときは、すーくんは言葉を喋らないんじゃなくて、喋れないのかと思うくらいに、なにも言葉を喋らなかった。私と口を聞いてくれなかったのだ。私はそんなすーくんのことがあんまり好きではなかった。……でも、それも、今、こうして思い出すとなんだかすごく懐かしいことのように思えた。まだ半年もたっていないのに、ずっと昔のことのように思えた)すーくんは私を見て、そう言った。

「……ありがとう。すーくん」

 すーくんを見て、私は言った。

「なんのありがとう?」すーくんは言う。

「私を見つけてくれて」私は言う。

「僕が君を見つけたんじゃない。君が僕を見つけてくれたんだよ」すーくんは言う。

「じゃあ、私を愛してくれて」にっこりと笑って私は言う。

「こちらこそ、僕を愛してくれて、どうもありがとう」とすーくんは言う。

 すーくんの目はすごく綺麗で、透明で、長い前髪にその目が少し隠れているのが、もったいないと思えるくらいだった。(それじゃ、せっかくのすーくんの綺麗な目も、すーくんから見える素敵な世界もよく見えないでしょ? と思った)

「もっとこうしていたい」私は言った。

「ずっと、こうしているよ」すーくんは言った。

「ありがとう。すーくん」最後に私はそう言った。

「こちらこそ、どう……」

 私の視界は霞んでいた。

 耳もあまりよく聞こえなくなっていて、すーくんの表情も、すーくんの最後の言葉も、あんまりよくわからなくなっていた。(先生たちに最後まで迷惑をかけちゃうなと思った)

 すーくん。

 ……大好きだよ。

 私は心の中でそう言った。

 そこで私の意識は途切れた。 

(まるで眠りにつくように私の意識はゆっくりとなくなって、この世界から消えていった。きっと、すごく遠い場所に、拡散して、消えてしまった)

 まだ、夜は明けてはいなかった。 

 ……朝を見たかった。

 新しい朝を、見てみたかった。

 すーくんと二人で。

 ……大好きな、すーくんと、……一緒に。


 すーくんとわたし 終わり

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