アフターストーリー2「夏の終わり、変わったこと、変わらないこと」1
せっかくの全編上げ直す機会となったので、ずっと胸の奥に閉じ込めていたエピソードを書き下ろしました。
後半は進藤ちづるがなぜ自殺しようと思ったのか、根本的な原因についての解説に入っていきます。
ちづる編をもし書くことになったらと置いておいたエピソードになりますが、思い切って書くことにしました。
これが本編最後になりますので、どうぞお付き合いくださいませ。
夏休みの終わり。
世間的には夕焼け空の海の見える公園で、ほろ苦く切ない思い出に浸りたいような気持ちにさせられるものかもしれないけど、私、女子校生の進藤ちづるはというと負の遺産を清算しなければならないがために、貴重な時間を浪費していた。
具体的に言えば、夏休みの宿題がもう明日には始業式にも関わず完遂されておらず、佐伯裕子の家にお邪魔して、最後の追い込みをかけているところなのだ。
本当は新島君がしないといけない事を私が代わりにしているということなのだけど、進藤ちづるとして生きていくと決めた以上、それを今更言っても仕方ないだろう。彼一人に全部任せてどうにかなる状況はすでに過ぎ去ってしまっているのだ。
だからといって彼に何も頼んでいないかというとそういうわけではなく、数学や英語の問題集は裕子の物を借りて新島君に家で写してもらっている状況だ。
私の主な担当は読書感想文と社会の作文だ。
私は高校生にもなってなぜこんなに夏休みの宿題が多いのかとウンザリしながらラストスパートをかけている。
「そろそろ一旦休憩にする? 昼食の準備も出来ているから」
襖を開けて入ったきた裕子が柔らかい表情を浮かべながら声を掛けてくれた。
彼女は彼女で今、色んな感情を秘めながら話しかけてくれていることだろう。
それは、説明すると時間がかかってしまうから、追々裕子には説明することにしようと決めていた。
でも、とりあえず懐かしい気持ちで安心した様子なので私は普通に接することにした。
「そうね、お腹空いてきたところだからちょうどいいかな。今日は何ラーメンかしら?」
裕子は親友、だから私は話し方も親しい相手にする振る舞いをとっている。
「今日は塩とんこつだよ。夏だから冷たいつけ麺にしてあるけど」
ラーメン好きの裕子とするこういう会話も懐かしい心地がした。
休日になるとよく裕子とはラーメン屋巡りをしたものだ。
まだ、新参入を含めて行ったことのない店舗を見つけては通って感想を言い合った。
二郎系の店舗に行くときには朝食を抜いて、お腹一杯にして帰ったこともあった。
ラーメン屋はマナー的にシェアをしたりしないから、自分で責任もって頑張って食べたっけ、遠い日の思い出な気がするけど、久々に思い出すと面白おかしかった。
「段々、本格的になって来た気がするね、裕子のラーメン道も」
「ふふふっ、そうかも。最近だと食べに行っただけでレシピとか材料が頭に浮かんできて、こっそり疑問に上がったことを質問したりしてるからねぇ」
そこまでいくと本当に将来、裕子はラーメン屋を開店しているかもしれないと思い、思わず私は笑ってしまった。
「うふふっ、それじゃあ、裕子がラーメン屋さん開いたら冷やかしに行かないと!」
「あはははっ、開けられるかは分からないけど、お店を開いたらちづるは看板娘に決定だから、冷やかしに来る暇なんて与えないよ?」
「それは恐ろしい……、でも、そういう未来は楽しそうね、本当に」
気兼ねなく裕子と話せるようになったことが 嬉しくて、私はしみじみと言った。
やっぱり裕子は裕子のまま変わらないなと、私は改めて思った。




