エピローグ「君とそばにいるためのたった一つの方法」1
8月中旬、夏休みも真ん中を越えて、すっかり新しい日常に変わっていった頃、山口さんに誘われて麻生さんのお墓参りに二人で行くことになった。
待ち合わせ場所に行くと喪服を纏った山口さんが待っていた。
相変わらずどんな服装も似合っていて、小さな黒のハンドバックを持っていた。
「待たせちゃったかしら?」
「私もついさっき来たところ。さぁ、行きましょうか」
そう言って、山口さんは歩き始めた。私ははぐれない様に山口さんの横を歩く、喪服姿と上品に髪を結んだ山口さんの姿を見るのもどこか新鮮だった。
私にとってこうして山口さんと一緒にいるのも久しぶりだ。事件があってから私は複雑な気持ちをずっと抱えていた。山口さんは麻生さんと仲が良かったから、私は父に容疑がかけられたことで、どう接していいのか分からなかった。
でも、私が退院した時、そんなことは関係なく山口さんは一番に優しく接してくれた。
それが委員長の立場だからって私は最初思っていたけど、これまでの日々を見てきて、山口さんの本心であることがよく分かった。根っこから山口さんは人に優しくできる善人なのだ。
新島君には感謝してる。こうして山口さんと一緒に出掛ける日が来るなんて、私ならここまで打ち解けられるほど心を開けなかっただろう。
父の事でそれだけ私は罪悪感を抱えていて、当時は周り居る人が怖かったから。
どこで自分の悪口を言われているかわからない、そんな恐怖感が日々、ずっと自分の中を支配していた。いつだって不安で、いつもオドオドしながら周りの視線を浴びないように振舞っていた。
本当にあの頃の私は”どうかしてたんだろう”、いずれにしても、もうそんな事を考えなくてよくなったのはよかったことで、本当に心を軽くしてくれている。
「進藤さん、お父様はお元気にしてますか?」
背筋を伸ばしたまま私の方を向いて、そう聞いてきた山口さんは長い黒髪を揺らしながら真夏にもかかわらず涼しげに見えた。
「うん、大丈夫。結構痩せちゃったけど、元気にしてるよ」
実際はお父さんの身体は柚季さん、そして今は新島君へと受け継がれたからややこしい訳だけど、それを山口さんには説明できない。
最近は新島君も現状に慣れてきたみたいで、お母さんとも会話できるようになってきている。柚季さんのこともあったから入れ替わりたいとも言ってこないし、もう諦めてくれたと思う。
「そっか、よかった。早く仕事が見つかれば進藤さんも安心ね」
「そ、そうだね・・・」
仕事探しをするのは実質新島君だからなかなか大変だ。突然の入れ替わりだったからすぐに仕事が決まるとは思えないだけに、ちょっと不安だ。肉体労働とかして無理しなければいいけど。
線香の香り漂う墓地の中を歩いていく山口さんに後ろから付いて行くと、目的の場所にたどり着いた。
麻生さんの家族のお墓が目の前にある、実際に来るのは初めてだ。
山口さんが神妙な表情で麻生家のお墓に仏花を添える。菊の花が優しく麻生さんを包み込むようだった。
線香をあげて、私は揃って手を合わせ、目を閉じて、祈りを込めた。
長いようで短い時間、祈りをささげて目を開けると、もう横には目を開けて墓標を見つめる山口さんがいた。
「私はお坊さんに挨拶してくるから、少し離れてもいい?」
「うん、わかった」
山口さんは話し終えると階段を上って家の方へ向かった。
線香特有の刺激臭もして一人になると心細い、でも仕方ないので私は山口さんを大人しく待つことにした。




