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神様のボートの上で  作者: shiori


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第十六話「最後の力」3

 猫の姿に久しぶりに戻って四本足で歩く。ちづるとは入れ替わってすぐに別れた。結局ちづるには酷な選択をさせてしまった。でもこうするしかなかった、私はずっと一緒にいられない、それだけはわかっていたから。


 こんな出来損ないの身体がいつまで持つかわからない、まだまだ研究段階の気休めの存在でしかない。


 だからちづるには長生きしてほしい、そのためにはこうするしかなかった、これが唯一の正しい選択だった。



 異変は礼二さんを檻から出すために連続で入れ替わりの力を使った時だ。酷い頭痛とてんかん発作に襲われ意識が朦朧とした。それからも頭痛は定期的に続いている。

 脳が限界にきているのか、身体との相性の問題なのか、いずれにしても発展途上の技術で実験的な研究の産物であるこの身体に、万能な機能を求めるのは都合がよすぎるというものだろう。


 兄のところまで行くのが精一杯かもしれない、身体の不調からそんな自信のない気持ちが発露する。



 あぁ、兄に会ったら何を言おう、何を話そう、兄と久々にに会うことを思いそんなことばかり考える。ちづるにだけはこれ以上迷惑を掛けたくない、それが一番の願いだった。


 そのために私が出来ること、いや、もう気づいているのかもしれない、兄を説得できるのはもう私だけだ。その方法も限られている、兄にはどれだけ感謝すればいいだろう。ちづるが生きているのも、私が生きているのも兄のおかげだ、それでも私は兄を裏切らなければならない。


 完璧なものなど最初からできない、安全の保証はどこにもない、それを知っていても研究を止めることは出来ない、それが私が見てきた兄の姿だった。いつも懸命に救いを求めて禁断の研究を続ける強いようで弱い人間だった。



 しかし私は考える、それでも踏み込んではいけない場所はある。脳科学という未開の領域への研究、そこには常に倫理の壁が立ちふさがる。それももしかしたら麻生氏の無念なのかもしれない、こうなってしまうことを麻生氏は知っていたのかもしれない。

 麻生氏は行き過ぎた研究を止めようしていた、前例のない限りなく可能性の低い処置、私という存在はそんな酔狂な研究の賜物といえるのかもしれない。



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