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神様のボートの上で  作者: shiori


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第九話「Families change」1

 ある日の放課後、梅雨も明けていよいよ夏本番! というくらいの照り付ける太陽が広がり、うだるような暑さだった。


 放課後になって、一人家に帰ろうとしていた私は下駄箱の中を開けると、今朝にはなかった見慣れない手紙が入っていた。私は一体何だろうと思いながら周りに見られてないかを警戒しながら手紙を開いた。


「公園まで一人で来てほしい」


 送り主は分からなかったが、要約すると書いてあることはそういうことらしい。


「(さすがにラブレターではないよね・・・)」


 でも女子同士でそういうロマンスが発生する物語も無限にあるし・・・、って何を考えてるんだろう、内容は何だか素っ気ないし、字体も女子のものには見えないし、そんなこと気にしても仕方ないか。


「特に今日は用事もないし行ってみるか」


 気軽な気持ちで私はスニーカーに履き替えて、校門を出ると、公園の方角へ向かった。


 一体誰がこんな手紙を入れたんだと思っていたら、公園で待っていたのは新島俊貴だった。新島俊貴の身体は今や私の手から離れて柚季さんのものになっていたはず、何か問題でもあったのだろうか?


 私はこのまま待たせるのも悪いと思って、立ち往生している彼に近づいていく。


「あれ? 何か雰囲気が違う・・・?」


 そういえば柚季とは雰囲気違うような・・・、私はただならぬ気配に胸がザワザワした。


「本当に来るとはな」


「あれ? 本当に柚季さんじゃない・・・?」


 到底柚季さんとは思えない男らしい口調に私は驚いた。


「あなたは一体誰ですか?」


 ただならぬ気配を感じて自然と次の言葉が出ていた。

 私の問いにも彼は動じる様子はまるでない、一体何者なんだ。


「人に聞く前に自分から名乗るのが筋ではないのか?」


 この人は一体、、、心の余裕さえを感じるその口ぶりに私は恐れを感じて声が詰まった。


「私は・・・」


 私はそのまま本当のことを言いそうになったが、なんとか自制した。


”本当のことを知られてはダメよ、あなたは進藤ちづるなんだから”


 寸前にところでちづるからの言いつけの言葉を思い出した。この前念押しされたのに、あまり日も経たずにすぐこの事態、しかしさすがにこれは特別な事情があるに違いない。


「信じがたいことだが、ちづるの言っていたことは本当のことのようだな」


「あなたは一体・・・」


「この前話したじゃないか、お互い警察に連れられて面会の席で、面会時間の方は短かったがもう忘れてしまったか?」


「えっ、もしかして、お父さん?」


 私はいきなりの急展開に思考が追い付かなかった。まさかちづるのお父さんが元自分の身体に入れ替わっているなんて、何の策略だ。


「本当のことを知った後で、君からお父さんと呼ばれるのは違和感があるが、あの時は本当に気づかなかったよ、新島俊貴くん」


 気づかなかったという言葉に複雑な気持ちになった。確かに気づかれては困るのだが、それだけ演技とはいえ自分が女らしくなってしまっているという現実に複雑な気持ちを抱かずにいられない。


「なんですか・・・? またちづるの悪知恵ですか?」


「そんなところかな、俺もそれに乗っかっているわけだが」


 呆気なくそう言ってのける礼二さんはあの時とは別人のようでもあった。


「騙してしまったようですみません・・・、ちづるさんからもこの身体でいる以上、素に戻って男言葉を使うと怒られてしまうので」


 言い訳っぽく情けないことを言ってしまった。事故のショックでボーイッシュな性格に変わってしまった! なんて展開もちづるは許してはくれなかった。

 考えればありえない話ではないと内心思っているのだが、それはちづるから違和感バリバリだからダメだと言われ、仕方なく女言葉を使っている。



「俺も単なる思い付きで君に体を預けたわけではないとちづるから聞かされている」


「そうなんですね、自分からすれば、なんで自分が選ばれたのかは今でも不思議なんですけど。もちろんたまたまそこにいたからという事情ではないとはわかっているんですけど」


「君が俺のところに面会に来たのも、根っこの部分ではちづるが望んでいたことかもしれないぞ。

 よく夫婦喧嘩していた時、ちづるは間に入って止めに入ってきて泣いていたこともあったし、今のように家族がバラバラになる事態になったことはちづるにとってショックなことだっただろう」



 そんな風に客観的に話す姿には驚かされた。あれだけ警察から長期間尋問を受けて傷ついていたはずなのに、それだけこの数日で自我を取り戻したということなのか。


 ちづるの内にある感情の深さを全て理解するのは難しい。それにちづる自身もそんなことは望んでいないようだから、今は少しでも自分に出来ることをやっていくしかない。


「でも、まるで自分と話しているみたいでゾクゾクします・・・、柚季さんは女性だっただけによりリアルで・・・」


 例えるなら鏡の中の自分を目の前にして話しているような、そんな不思議な気持ちだった。



「俺からすれば娘の中身が別人の男だったっていう時点で信じたくねぇよ」



 礼二さんの若返ったような鋭いツッコミが入った。それはそうだろうなと納得してしまったが、心なしかこの前の面会の時によりも覇気があって元気そうだ。

 このめちゃくちゃな状況に吹っ切れたのか、本当のちづると会ったことで自信を生まれ変わらせたのか。

 そう考えたりもしてみたが、一番は自由の身となったからといったところだろう。不器用だけど、今まで見たことのない優しい笑みだった。



「お前はこの身体に戻りたいと思うか?」



 礼二さんの問いは難しい問いだった。


「入れ替わったこと自体が奇跡みたいなものなのでもう一度入れ替われるというのは怖いですね。もし失敗して自分の人格が壊れたり、身体がダメになったりしたらと想像すると怖くて」


「そういう気持ちになるか。案外まともなんだな・・・。

 俺もちづるから強く説得されなければ入れ替わったりはしなかった。こうしているのもあのままずっと求刑をまって刑務所へ行く未来よりはいいかっていう気持ちがあったからだしな」


 ここまで言われてしまってはなんとかしたい気持ちになる。


 冤罪となって無罪を勝ち取れれば、元の身体で自由の身となって過ごす未来も近づくことだろう。

 現時点ではそれが最も健全な目指すべき目標であると思う。



「そろそろ行こうか」



 礼二さんはそう言って立ち上がった。



「えっ・・・、一体どこにですか?」


「そりゃあ決まってるだろ、俺の家であり、君の家でもある新島家へだよ」


 その言葉の衝撃は、じわじわと私の中で、この後の展開の想像を膨らませて、それがとんでもなく大変な事態であることを思い知らせてくれた。

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