プロローグ
「はあ。」
と、ため息をつくと、頬に刺さるような冷たい外の空気に薄くモヤがかかる。そしてそれはすぐに夜に消えていく。
温かい缶コーヒーを手と一緒にポケットに突っ込んで暖をとっていると、だんだんと過去の事ばかりを思い出してしまう。
二十四時を回った東京湾沿いの道路は昼間に比べて音が少ない。
こんな静かな夜に独りでいると、何故だか寂しくなったり悲しくなったり、昔のことを思い出したりしてしまう。
僕は、前よりも友人が沢山できた。
僕は、昔よりも人前で堂々と話ができるようになった。
僕は、少し悲しいことがあっても軽く笑い飛ばすことができるようになった。
僕は、人付き合いの中では多少の嘘偽りも必要だということを知った。
思春期でまだ幼く、青々しく、何事も素直に深く考えすぎてしまっていた頃の自分よりも、今の捻くれ者で、何事も適当で、その場凌ぎばかりの僕の方が周りに受け入れられていた。
別にそれに関しては何も感じてはいない。
ただそれよりも、昔の事を思い出す度にチラつく君の事を考えては寂しく、苦しく、痛く感じてしまう。
君の細くて軽そうな短い髪や、気づけばあの人を追っている黒くて大きな瞳と長いまつ毛。薄くて小さな桜色の唇。ふとした時に感じる、触れてしまえば、目を離してしまえば消えてしまいそうな、柔らかい笑顔。その全てが鮮明に僕の脳裏に思い浮かぶ。
僕は君と出会ってからずっと、君を大切な友人だと想っている。
君はきっともう、僕を思い出さないぐらい最初から僕をなんとも思っていなかったということはよく分かっているのだけれど。僕の独りよがりだということは充分分かっているのだけれど。
ああ、やっぱり静かな夜は心に毒だ。感傷に浸って考えたくもないようなことばかり考えてしまって、泣き出してしまいそうになる。
大きく息を吐く。
僕は、僕の人生に一番の変化をくれた君に、僕は、今もずっと、
会いたい。