宝石
パリン・パリン…シャラン・シャラン…
「ん…不味くは無いけれど、別段美味くもないな…。」
希少で硬度の高いダイヤモンドを、それよりも硬い歯がまるでクッキーでも砕くみたいにパリパリと食む。
僕達の様な人種は少し珍しいかも知れない。人間と言うのは普通、動植物を食すものだけれど僕らの食事は鉱物なのだ。
叩けば痣が出来るし、切れば血が流れる。身体は ごく普通の人間と何ら変わりは無いのだけれど、やたらに長生きで歳を取らない。そして生まれつき生き物を食べ無いのだ。
温かなスープの香りを嗅いでも、甘やかなクリームの香りを嗅いでも食指はそそられない。
けれど、かと言って鉱物ならば何でもいいというのでも無い。純度の高い天然の宝石はやはり美味であるし、人工的に精製された模造品は酷い味だ。
上等な宝石を食らえば数ヶ月食事を必要としない僕が、半ば道楽的な目的でもってこうして悪戯に宝石を齧っているのには訳がある。
──…数十年前、一人の少女と恋に落ちた。
彼女は僕が変わった嗜好の人間と知っても拒絶する事無く心良く受け入れ、そして愛してくれた。
彼女の手から捧げられる宝石は、例え小さな原石だろうが、安っぽい模造品をそれと知らずに寄越した物でさえも全てがこの世で食べたどの宝石よりも美味だった。
彼女が亡くなって数年。あれに勝る宝石を僕はもうずっと食べていない。
この世の宝石を全て食べ尽くしても、もうあの味わいには巡り会えないのかも知れない。
腹の底にはシャラシャラと、噛み砕いた宝石達が重なっていく。喉元まで宝石ですっかり埋まってしまえば、僕もこの味気の無い世界を旅立って、君の元へいけるのだろうか…
愛しい君よ。