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婚約者が反逆者で追放された皇女ですが、さてどうしよう  作者: 江栗 成
第一章 エピローグ
7/79

報告

前皇の時代から突如として始まった各地の魔脈の枯渇は、魔導技術大国のこの国にとってはゆっくりと首を締め付けられるような衰退の始まりだった。

人心の乱れに加え、人の住む地域への魔物の出現、これまで力で支配していた他国の不穏な動き・・・魔力という求心力を失ったこの国は様々な問題を抱える。

統治体制の徹底も、これまで友好国であった隣国のつなぎとめも、全てを諦めた前皇から、その権力を奪うことを思ったのは十代の半ばだった。

そこから、人に好かれる容姿の裏に、裏切りと打算を抱え、自分の目的のためにあらゆる者を駒として利用してきた。

そうして手に入れた地位に息つく暇もなく、常に新しい脅威に立ち向かうことが求められる。

過渡期の人材不足は、各署の担当のみならず、頂点となる自分に人が乗り越えられる量を超える負担を生む。

最後に充分に睡眠をとったのはいつの時か。


執務室の扉をたたく音が聞こえる。

確認していた書類から目を離さずに、入るように促すと、筆頭補佐官が入ってきた。


「あんま、根詰めすぎんなよ。」


幼馴染の気安さをにじませるその言葉は立場を考えると不敬この上ないが、ハロルドはそれを許していた。

侯爵家の次男である同い年の彼、イザーク・コーンウェルは、幼いころからの学友であり、思想を共にしたものであり、共犯者だ。

褐色の切れ目は、セクシーだと婦人からの人気は厚く、一夜の遊び相手に事欠かない。本人はその外見を遺憾なく活用し、毎夜のように飛び回っているようだ。皇宮内はもちろん市街に一体何人の『姉妹』がいることだか。

ハロルドがたまに諫めるものの、どこ吹く風と「出さねえと腐るぜ」と、ほざく。

とはいえ、彼の夜の関係は、イコール彼の情報網の広さとなっており、昨年の出来事の際にはこの上ない助けとなった。

今は筆頭補佐官として、政務を助けてもらっているが、あと十数年、年齢が見合うようになったら宰相として支えてもらうつもりだ。


「イザーク、朝から執務をしていたのに、なんで第二ボタンが外れているんだ?」

「いやん」


どうせその辺の侍女をひっかけていたのだろう。ドコまでナニしたのか、訪ねる気も起きない。焦るでもなく、ボタンを掛けるイザークに白い眼を向けながら、いつも通り諫言を呈す。


「皇宮の風紀を乱すようなことを許容した覚えはないぞ。」

「いやいや、反対反対。皇宮に誰もが見ほれる美貌の皇帝がいるのに、高貴すぎて手を出せずにもんもんとしているお嬢様がたの、ガス抜きをしてあげているのが、この俺なの。見て、この手の届きやすい、誰に対しても開かれた、皇宮のマスコット。」


開かれているのはお前のズボンのチャックだろう。

互いに砕けた口調で遣り合いながらも、書類を受け取り、執務を徐々に再開する。


「ここに書かれた、クルス地方は、『彼女』の修道院の近くじゃないか・・・。」

「ああ、それか。」


イザークは、ハロルドの手にした報告書を見てにやりと笑う。


「俺もそれが気になっているから、部下に調べさせるつもりだ。

 元皇女のいる修道院の近くで、隣国と関係のある犯罪者集団の目撃談がある。

 ただの略奪目的なら討伐で済むかもしれねえ。が、今のところそんな動きもねえ。他のねらいがあるのか・・・。元皇女が修道院に行ったばかりのこの時期に、ウロウロしてんのはいただけねえな。」


イザークの褐色の瞳がより切れ味を放つ。魔術にも長けた彼が、幼馴染のために浴びた血は、少ない人数ではない。チャラついた言動に、多くのものがごまかされるが、彼の本質は獰猛な獣だ。


「ただ掃討するだけじゃあ意味がない。

 まずは泳がせて、本丸がどこに繋がってるか確かめて、綺麗にしないとな。

 もしかしたらもう役に立たねえと思ってた元皇女が役に立つかもしれねえ、な。」


残忍な笑みを浮かべる獣が、唯一尊重するのは、現皇帝のみ。

イザークがする無慈悲な提案は、ハロルドの予想することではあったが、それでも是と言うことができない。


「彼女には・・・、せめて穏やかな生活を送らせてあげたいんだが・・・。」


何を甘いことを、とイザークは唸る。


ハロルドは、何回人生を巻き戻しても、前皇を斃し、皇太子を打つ。

だが、彼女の身分も尊厳も、家族すらも貪り取った罪悪感は、ハロルドの心に刺さった小さな棘として残っている。

最初から嘘の優しさで理想的な婚約者として振舞った自分を、元婚約者は慕ってくれた。何の罪もない女の子を、無知と嘲笑う気持ちと無垢な心を嫉妬した気持ちは、皇帝となった今でも彼の心に、複雑に組み込まれている。


「まずは、組織の解明をし早急に報告しろ。

 それによっては彼女を他の修道院に移すことを検討したほうがいいかもしれない。」


ハロルドは、なにか言いたそうな幼馴染の視線は無視し、この話は終わりだ、と次の書類に移った。



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