藪に蛇
―――やぶにへびだった!
リゼは自分の行動が間違っていたことを認めた。
ちなみに、会計の間違いを不正された件については、上役の修道女に会計帳が担当者が日によって異なることで、見にくい書式になってしまっていることを問題提起し、ここ数週間の記録を試しに、新書式に書き換えることを提案した。そしてそのついでに一緒に作業し、その過程で、彼女に、気づいてもらった。
リゼを経由することなく、気づかれたその内容は、別の上役から下手人に懲罰がされたようだ。名前は忘れたが、それをやった修道女は懲罰のほかに記録文書への担当は外されたらしい。リゼにとってはそれで大満足だった。
問題は、そのあと。
気に入ってくださった上役の修道女は、一般的には外で羽を伸ばす機会として、限られた修道女に限られたご褒美として与えられるはずの、外での布教活動にリゼを指名してくれてしまったことだ。
追放された元皇女として、顔を知られているため信者に把握されて迷惑がかかると、辞退しようとすれば、裏方の会計処理係だからと言いくるめられ、
自分にそんな外の空気を楽しむような恩恵は身に余ると言えば、修道院に来たときに現世での罪は流されただの、信者の気持ちに触れてこその精進だの、遠慮すればするほど押し切られてしまった。
どうやら、新しい皇帝は、修道院に対して、元皇女の処遇について特別厳しい禁制を強いていないらしい。
しばらく穏やかに引きこもりをするつもりが、見込みが突然変わってしまった。
―――禁じとけばいいのに。爪が甘い。
心の中で、元婚約者の甘っちょさをなじる。
―――外に出て国内の反乱分子と接触するか、敵対国の間諜に会うか、逃亡するかぐらい、危機感を持つべきじゃない?
リゼ本人も、それが、つらい。面倒なのだ。自分が望まない意図を持った人間が、自分に対して何か求めてくるのは。そして、外出できることが暗にでも広まってしまえば、必ず、そういう訪問客は来るのだ。一番面倒なのは、それを意図しないのに、変に伝わって大事になるということだ。
「ううう。陽気な空想が全く浮かばない・・・。」
そして、リゼの予想はほとんどの場合で、現実になるのだから。