1,山頂へ
その日も、岩でゴツゴツの山肌を濃い霧がすっぽり山ごと覆っていた。
一向に晴れる気配のない霧の中は、想定以上に冷たく、山頂を目指し道なき道を行く者たちの志を、今までにもさんざんに折ってきたのだろう。
そしてきっと、これからも………。
だが、今日ばかりは違うようだ。
それはこの先にも、この後にも、決して訪れはしない、そのときばかりの運命のごときものなのか。
はたまた、彼女の託した希望が予想だにしない形で実った結果なのか。
今となっては誰も気にするものはいない。
いずれにせよ、自らの存在に疑念を抱き始めていた彼女にとっては、もう一度考え直す良い機会になるだろう。
「…そう簡単に逃がしはしない。」
…………。
山頂の遥か彼方から、太陽が一直線の道を指し示すかのごとく、霧を真っ二つに切り裂いた。
「これはありがたい!」
王国の考古学者、ライネル・カインソンは、まぶたをソボソボさせながらも、心からその言葉を口にした。
いくら高く続く岩山とは言え、輝いているのは紛れもなく岩山の下の砂漠の辺境に、鬱陶しくなるような熱さを届けている太陽である。
思わず目を手で覆ってしまうのは、仕方のないことだ。
しかし、あまりに長く後ろの女ががそうしているので、ライネルは心配して声を掛けた。
だが、フランセティ・レアイザの耳にその声は届かなかった。
正確には、今、彼女にそれを聞き入れる余裕はなかった。
彼女は邪魔する太陽を手で遮って、心配の色がうかがえる声など気にも止めず、ただ立ち尽くしていた。
そして、ゆっくりもう片方の腕を持ち上げ、山頂の一角を指差した。
ライネルは恐る恐るその方向へ振り返り、彼女が立ち尽くす原因をその目で確認した。
晴れ行く霧に紛れ、それは表れた。
「黒……城。」
いつの間にか勝手に口がそういっていた。