プロローグ
……黒城の死神。
遥か砂漠の辺境の
遥か岩場の上の上
高くそびえる城壁が
黒くたたずむ城門が
魔に魅せられし神々の
魔に囚われし成れの果て……。
………五つの炎に身を焦がし、
………五色の王は地に眠り、
………北の大地は凍りつく。
………僅かに揺らめく灯火が、
………五色の王のその証。
残された灯火の魔に魅せられた神は、
やがて、蝕まれ、身を落とす。
その亡骸は光に焼かれ、
その魂は、
黒き城へと導かれる。
黒き城には、黒き猫。
黒き猫こそ、死の化身。
死の化身こそ、止の化身。
黒き城に導かれた魂は、永遠に止す。
灯火の管理者ネウスは眠り。
その力こそ、止の化身。
「ある夜、私の家は火事になった。
考えられる理由はいくつかあるけど、その中に、家族の不手際は含まれない。
私はそう思う。
じゃあどうしてかって?
そんなのひとつに決まってる。
誰かの放火。
それ以外にあり得ない。
かつて、おじいさんは遺跡の研究者だった。
そのときにわかったことや、面白かったことを、幼かった私におじいさんは語って聞かせてくれた。
もうほとんどは忘れてる…でも、
最後に聞かせてくれた黒い城の話は忘れない。
火事の中、おじいさんは逃げることもせずに、そのお話を私に語り続けた。
で、最期にこう言った
『約束だ、セティ。いいかい?お話の黒城に行って、彼女を救いだしほしいんだ。ワシが殺されたと知ったら、きっと悲しむだろうからね。もうそんな思いをしなくていいように、お前がそばにいてやりなさい。きっと仲良くなれるから。』
意味がわからなかった。
その言葉を聞いたあと、どうやら私は気を失っていたようで、気が付いた頃には涙の母親に抱かれて、真っ黒なおじいさんを眺めていた。
綺麗に焼け残った指輪だけが、その黒こげをおじいさんだと証明していた。
…………。
そのあとどうなったかって?
その後は戦争が起こって、祖国ジェフリアが消え、父母を喪い、私は成長した。
やがて、戦争が終わり、私は帰ってきた。
かつてのジェフリア、私の故郷へ。
………おじいさんとの約束を確かめに。」
「じゃあ、君も黒城を探しているってことだね?
ぼくもそうなんだ。
まあ、君みたいに立派な約束がある訳じゃないけどね。
僕はただ、世の中の真実を見つけたいんだ。
今、黒城は存在すら疑われている遺跡のひとつだからね。
文献には残っているけど、誰もたどり着いた者はいないらしい。
でも僕は、きっとあるんだと思う。
君のおじいさんも、そう思い続けて、黒城にたどり着いた一人なのかもしれない。」
「つまり、あなたは黒城の存在を信じているってことだよね?
珍しい。
今まで、私の話すら信じてくれない人が多かったのに。」
「君こそ珍しいよ。
僕なんか、黒城を探してるってだけでバカにされてきたのに、
君はぼくの話をちゃんと聞いてくれる。」
「お互い様ってことね?」
「そうだね。」
私たちは、岩山の手頃な岩に腰掛けながら、霧に包まれた目的地を見上げた。