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転生幼女は騎士になりたい  作者: ジャジャ丸
第四章 王立学園入学
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第九十五話 魔物騒動の裏

はい、無事(?)一次落選しましたので、タイトルの変更と共にキーワードを追加しました。

ご意見などございましたらお気軽に。

 フォンタニエ王立学園のとある場所には、上級貴族の中でも一握りの人間のみが出入りを許された、特別なサロンが存在する。

 贅を尽くした豪華な調度品が並ぶ部屋の中、それらに全く劣らない存在感を放つ少女、シルヴィア・ウィル・ランドールは、優雅な仕草で茶を嗜みながら、クスクスと笑みを溢す。


「ふふふ、思っていたよりもずっと強いじゃない、ユリウス・アースランド。お爺様が、アースランドを痛し痒しと言ったのも分かるわ」


 自らの"眼"から見ていた映像を振り返り、シルヴィアはそう呟く。


 彼女達ランドール公爵家は、情報収集に長けた一族だと知られている。

 そんなランドール家の情報収集力を支える最大の要因こそが、とある特殊な魔法――どれだけ離れていても、特定の"楔"を仕込んだ人間の視界を一時的に借り、自分の視界に映し出すことが出来る《覗視パラサイトアイ》だ。

 今回、ナルミアに魔物討伐を指示した時、こっそりと彼女に仕込んでおいたそれを使って戦闘の一部始終を眺めていたシルヴィアは、予想以上の結果に心踊らせていた。


「どう? 今期入学試験で全科目ダントツトップのあなたなら、彼に勝てそう? ……殿下」


 そして、ランドール家の《覗視》で最も特筆すべき点は、自身の魔法によって得た情報を投射映像として近くにいる人間にも見せられることだ。

 それを用いてサロンに映し出されていた光景をシルヴィアと見ていたのは、一人の少年。

 艶やかな黒髪を男にしてはやや長めに揃え、他の貴族とは一線を画す豪奢な衣服に身を包んだ彼の名は、ラウル・ウィル・ストランド。

 ストランド王国の王位継承権を持つ、第一王子である。


「厳密なルールの下、一対一で行う決闘なら勝てるだろうね。だが、ルール無用の実戦では、よくて引き分けだろうな。彼の戦略的撤退を、引き分けと強弁出来るのなら、ね」


「あら、随分と謙遜するのね、自信家の殿下らしくもない」


 そんなラウルの言葉に、シルヴィアはからかうように笑う。

 それに対し、ラウルは困ったように肩を竦めてみせた。


「ペーパーテストはともかく、実戦における経験の無さは自覚しているさ。彼の戦いを見ただろう? 《雷縛》も《雷天葬送》も、威力のために効果範囲を相当に限定していた。同じ魔法を使える人間は騎士団ともなればいくらでもいるだろうが、あれだけの魔物を相手にたった一人で発動を成功させるような者はそういないだろう。あの巧みな立ち回りと、激しい戦闘の最中でも周囲の状況を把握し続ける視野の広さ。そして何より、ああも複数の魔法と作業を並列して行う才能は、僕では到底敵わないよ」


 ラウルの手放しの賛辞に、シルヴィアは「へえ」と面白そうに笑う。

 そんなシルヴィアを見て、今度はラウルの方が質問を投げ掛ける。


「それで、君はどうなんだい?」


「あら、何の事かしら?」


「とぼけないで欲しいな。確かに彼は強い。もっと高位の身分であったなら、王立騎士団で団長の座だって狙えただろう。でも、君が興味を持っているのは、むしろ妹の方なんだろう?」


「ふふふ、敵わないわねえ」


 ラウルの指摘にそう零しながらも、実際には尋ねられるのを待っていたと言わんばかりに笑みを浮かべるシルヴィア。

 そんな戯れにも律儀に付き合いながら、ラウルは元々怜悧だった瞳を更に細めつつ、言葉を重ねていく。


「戦闘中、彼女が魔法を放ったのは一発だけだが……その一発が異常だ。百メートル近い距離を、それ専用の長距離狙撃魔法も使わずに撃ち抜いた挙句、あの巨体を吹き飛ばした。発動時点で一体どれだけの魔力が込められていたのか、想像もつかないよ。下手をすれば、単独で上級魔法すら発動できるんじゃないかい?」


 ストランド王国の騎士団は、使用する魔法をその用途に応じて、三段階に分けている。

 騎士個人が、剣戟の最中に発動することを想定して作られた、下級魔法。

 単純に距離を置いた撃ちあいなどで用いられる、威力と射程に優れた中級魔法。

 そして、騎士に守られた複数の魔導士が魔力を合わせ、長距離から敵の部隊や拠点を叩くための、強力無比な上級魔法だ。


 上級魔法は複数人で使うことを想定しているため、個人で発動するのは不可能とされているのだが……この娘ならあるいは、とさえ思う。

 しかし、シルヴィアの予想はそれを更に上回っていた。


「いいえ、私、彼女の魔法訓練の様子を見ていたんだけど……これでも、まだまだ余裕がありそうだったわ。もしかしたら、だけど……この子なら、超級魔法すら一人で撃てるかもしれない」


「……それほどか」


 超級魔法――それは、上級魔法より更に上、半ば伝説上の代物とされる強大な儀式魔法のことを指す。

 発動に必要なあまりにも膨大な魔力量のせいで、数十人規模の魔導士がいなければ魔法陣の起動すら覚束ないのだが、儀式魔法というのは関わる人数が増えれば増えるほどその難易度が格段に上昇してしまうため、今まではほぼ使用不能とされてきた。

 歴史上、ストランド王国の建国時に一度だけその力が解き放たれたとされ、ただの一撃でこの地上を地獄の業火で包み込んだという言い伝えのみが残っている。

 これさえ使えれば帝国との戦争など一瞬で勝敗が決するはずだと、主戦派貴族の中には熱心に研究を重ねる家もあるのだが、この超常のロストテクノロジーは未だ実現の足掛かりすら掴めていないのが現状だ。

 もし、リリィがシルヴィアの予想通り、単独で超級魔法を使えるのだとしたら。

 彼女を巡って、主戦派と穏健派の間で内乱すら勃発しかねない。


「それで? 穏健派筆頭の王族たる僕に彼女のことを教えるのは、どういうつもりなのかな?」


「どうもこうも、殿下の方からもこの子を見ておいてあげてくれないかと思って、ね」


「おや、ご当主に報告しないのかい? 超級魔法へ繋がる可能性なんて、それこそ喉から手が出る程欲しがっているだろうに」


「いいのよ、私だって派閥争いは楽しく見ている立場だけれど、国が荒廃するような大規模な内乱なんて望んでないもの。お気に入りの玩具が壊れちゃうのは見たくないし」


「なるほど、火遊びは好きだが、火事はごめんということかな」


「そんなところよ」


 分かりやすく例えるラウルに、シルヴィアは軽い調子で答える。

 公爵令嬢らしく我儘なシルヴィアは、他人を意のままに動かすのは好きだが、自分の手の届かないところで望まないまま状況が動いていくのは嫌いなのだ。

 遊戯ゲームは、自分がプレイヤーだからこそ楽しいのだから。


「しかし、彼女のことをいつまでも隠し通すことは出来ないだろう? 何せ、彼女自身に隠すつもりもないのだからな」


「だからこそ、お爺様や主戦派の面々に知られる前に伝えたのよ。もしかすると、火種を嫌った穏健派から暗殺者が送られて来るかもしれないし、私の学園あそびばが血で汚されるのは我慢ならないから、ちゃんとそちらでも手綱を握っておいて」


「分かったよ。僕としても、国を二分するような事態は看過できない。下手に彼女を処分して、アースランド家の逆鱗に触れるのも得策とは言えないし、打てる手は打っておこう。しかし……」


「あら、どうしたのかしら?」


「君にしては珍しく固執するじゃないか。いつもの君なら、多少火種が燃え広がろうと、それを見て楽しむものだと思っていたんだが」


 その言葉に、きょとん、と目を丸くするシルヴィア。

 何が言いたいのか分からない、と言わんばかりの彼女に対し、ラウルは小さく溜息を零す。


「彼女が、ルルーシュ・ランターンの婚約者だからか? 彼の母親のことなら、同じくベラ熱に冒された君の責ではあるまい。第一、彼の母とて最終的には死なずに済んだのだから、状況を考えてもとやかく言われる筋合いは……」


「殿下」


 部屋の温度が、一瞬にして低下する。

 魔法ではない、言葉による圧力で凍り付いた空気の中、シルヴィアは冷めきった目でラウルへ微笑みかけた。


「私はただ、彼女に興味があるだけです、間違えないでくださいませ」


「……そうか、ではそういうことにしておこう」


 それだけ言うと、ラウルは席を立つ。

 サロンの出口へと向かう傍ら、最後に一度だけ振り返ったラウルは、一言だけシルヴィアへ言葉を残す。


「まあ、あまり根を詰め過ぎないことだな。一応、君も僕の婚約者候補なのだから」


 パタン、と、扉を閉める音が、ただ一人残されたサロンに寂しく響く。

 それを意図的に無視しながら、シルヴィアは小さく溜息を溢すのだった。






 一方その頃、通商ルート上に存在していた魔物の討伐と、襲われていた商隊の生還の報を受けた王都は、ちょっとしたお祭り騒ぎとなっていた。

 海路のお陰で致命的な事態には陥らないとはいえ、やはり陸路から運ばれてくる物資で生活を成り立たせている人間も少なくはないため、無理もないことだ。


 しかし一方で、そんな騒ぎを利用する者達の姿もあった。


「ここまで助かった、礼を言う」


「フッフッフ、何のこれしき、大したことではありませんよ、魔物の騒ぎはそちらで用意してくださったわけですし、私共はただあなた方を運んだだけだ」


 リリィ達が助けた商隊が王都へ入り、しばらく行って無事それぞれの卸先へ向かうために解散したところで、外套で顔まで覆った二人の人物が、目立たないよう商隊の長へと声をかけていた。

 一人は、商人にしてはやけに鍛え上げられた肉体を持つ、精悍な顔つきの男。

 もう一人は、商隊の中でも一際目立つ、小さな子供だ。


「いやしかし、まさかあそこで救援に来たのがよりにもよってあいつだなんて思いもしなかったな。危うくバレるかと思ったよ」


「全くだ。お前が下手に驚いた素振りなど見せなければ、もう少し安心も出来たのだが」


「ははは、悪いなおっさん、つい」


「全く、これからは敵地のど真ん中なんだぞ、注意しろ」


「はいはい、分かってるって」


 気の置けない会話を交わしながら、二人の人物が外套を外す。

 その下から現れたのは、かつてアースランド領へと潜入を行った帝国の工作員。

 グレン・マクバーンと、五年前から随分と成長した、フレア・マクバーンだった。


「ハハハ、その余裕そうな態度、何とも頼もしい。では、この後も手はず通りに頼みますよ」


「ああ、潜入の手引きと引き換えに、お前達の望む物を入手する。分かっているさ」


「そう、それでいい……くく、これで我々の悲願も、また一歩近づく……! あなた方には、期待していますよ」


 クックック、と不気味な笑みを残しながら、商隊の長はその場を離れていく。

 そんな後ろ姿を眺めながら、フレアは不快感を隠そうともせず、ケッと吐き捨てるように呟いた。


「全く、胡散臭い連中だなぁ、魔王崇拝者って」


「言うな、あれでも貴重な現地協力者だ。少なくとも、俺達がここを離脱するまでは利用させて貰う必要がある」


「それは分かってるけどさあ……何をどうしたら、魔王なんて神話の存在が本当にいるって信じられるのか、全く理解出来ないよ。おっさんもそう思うだろ?」


 心底バカにするように告げるフレアだが、同意を求めたはずのグレンからは返答が返って来ない。

 まさか信じているのかと、やや距離を取ろうとするフレアに、グレンは溜息を溢す。


「俺も、伝承そのままの魔王が実在するとは思わんがな……ストランド王国とチェバーレ帝国、成り立ちからして全く異なる二つの国で、ほぼ同一の能力を備えた魔王の言い伝えが残っている辺り、魔王そのものでなくとも、それに近しい存在はいたのではないかと思ってな」


「近しい存在って、仮にいたとしても、それって何万年前のことだよ。復活させるなんて、どんな魔法使っても無理に決まってるじゃん」


「復活ではなく、造ろうとしているのかもしれんぞ? たとえばお前の持つ“魔眼”とて、魔王の力の残滓と言われているからな。そうしたものを全て、意図的に人体に付与出来たとすれば、魔王モドキ程度にはなるかもしれん」


「なんだそれ。たとえ出来たとしても、俺の魔眼じゃどう頑張ったって伝承みたいに世界中の魔物を操ったりなんて出来ないぞ。一体や二体だって結構魔力がキツイんだから」


 そこまで口にしたところで、「ああ、でも」とフレアはふと昔を思い出すように上を見上げる。


「あいつならやれるかもなー。ほら、アースランド領で戦った」


「リリアナ・アースランドのことか」


「そうそう。あいつの魔力量、頭おかしかったからなー、本当に人間かってくらい。あの時五歳だったんだし、成長した今なら案外魔王くらいになってるんじゃないの?」


「…………」


「うん? どうした、おっさん?」


 突然黙り込んだグレンに、フレアが訝しげに問いかける。

 それに対し、「いや、なんでもない」と返すと、グレンは歩き出す。


「あまり長話をしている暇もない。さっさと行くぞ」


「あっ、ちょっとおっさん、待てよ!」


 慌ててついて来るフレアの気配を感じながら、グレンは頭に浮かんだ考えを無意識のうちに振り払う。


 もし本当に、魔力さえあれば、人の身であろうと魔王の力を再現できるのだとしたら。


 その人間は、果たして人間と言えるのだろうか? と。






「……んぁ、やばい、いつの間に寝ていたんだ、私は」


 フォンタニエ王立学園の敷地内には、教師達が寝泊まりするための宿舎も用意されている。

 そんな宿舎の一室にて、机に突っ伏したまま寝こけていたユンファ・コーネリアスは、凝り固まった体をぐっと伸ばし、ふと目の前に広がる惨状を見て顔を顰めた。


「いかんいかん、せっかく書き上げた論文を、自分の涎でダメにしてしまうところだった。久しぶりの力作、提出するまで大事に保管しておかなければ」


 誰にともなくそう呟き、机の上に広がっていた紙の束を一纏めにすると、机の中に仕舞い込む。


「さて……もうひと眠りするかな。ふあぁ……」


 欠伸を噛み殺しながら、ユンファはベッドの方へと移動し、そのまま倒れ込んだ。

 寝ぼけていたせいか、しっかりと閉じ切らなかった引き出しの隙間、彼女が書き上げた論文の表題には、こう記されていた。


 ――人間の魔物化と、その可能性について。

これにて第四章は終了です。

次章、リリィが友達を増やします。え、いつも通りじゃないかって? ハハハ何のことやら……。

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