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転生幼女は騎士になりたい  作者: ジャジャ丸
第三章 空に憧れた少女
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第六十七話 不穏な影と晩餐会

 スクエア領は元々、帝国に対抗するために建てられた一つの砦から始まった。

 やがて、砦に集まる騎士達を相手にする情婦や商人らが集まり、小さな集落が生まれると、今度は彼らを取り纏めるための領主が必要となり、領主が住むための城が建設される。

 すると、城を作るために集められた大工達が他の住人達の家を建てるようになり、やがて居着いた人々が家族を呼び、子を産んで、徐々に人が増えていく。

 人が増えれば自然と必要となる物資も増え、それを運ぶ行商人達によって人や物の流れが活性化する。


 そうして拡大を続けて来たこの街だが、だからこその弊害というのもやはり存在する。

 その代表格とも言えるのが、急な拡大によって乱立した家々が生み出す、迷路の如き無数の裏路地だ。

 城の近くや、大通り周辺こそしっかりと区画整理も行き届いているのだが、そこから僅かにでも離れれば、すぐに地元の人間でさえ迷いかねないジャングルと化す。

 そうした場所は衛兵の目も届かないため、裏稼業を生業とする者達のいい隠れ家となっていた。


「ついに、決行の時だ」


 暗い部屋の中、蝋燭の明かりがそこに集まった者達の顔を仄かに照らし出す。

 円卓を囲み、黒いローブに身を包んだ彼らは、そのうちの一人が発した言葉に何も答えない。

 しかし、彼らの全身から発する熱気が、僅かに覗く口元から漏れる狂気の笑みが、何よりも雄弁に彼らの心情を物語っていた。


「我らは今日ここで、大いなる大願を果たすための第一歩を踏み出す。その尖兵となるのだ」


 ただ一人声を上げる男もまた、集まった彼らを見てはいない。

 彼が見据えるのは、円卓の中央。

 そこに置かれた、一冊の書物。


「今日、魔導城で貴族共の晩餐会が執り行われる。そこには、我らが神の復活に必要となる生贄が……上質な“血”が存在するはずだ。帝国の連中が寄越した情報によれば、“魔力”についても手に入るかもしれないが……そちらはあくまで手に入ればでよい。今回はあくまで、“血”を優先する」


 黒い表紙に覆われた、妙に古ぼけた見た目のその書には、こう記されている。

 “魔王黙示録”と。


「諸君、我らが大願のため、必ずや成し遂げるぞ」


 ニヤリと笑みを浮かべ、男達は立ち上がる。

 その手に戦闘用の魔導杖を握りしめ、彼らは建物を後にするのだった。






「はぁ~、憂鬱です……」


 ついにやって来た、晩餐会当日。リリィは盛大な溜息と共に準備を進めていた。

 マリアベルの魔道具は予定通り完成し、その試験も成功。後は本番を待つのみと、そちらの方は順調そのものなのだが、だからこそ、初めての社交に対する不安が押し寄せて来たのだ。

 なまじ、つい先日も公爵家とひと悶着あったばかり。よほど大丈夫だとは思うが、もしもまたネチネチと嫌味を言われると、本当に爆発しかねない。

 魔法をぶっぱなすような真似は流石にしない……はずだが、魔力を抑えきれずに魔力嵐を引き起こし、会場を混乱の坩堝に落としてしまう懸念は十分にある。


「どうしたリリィ、緊張しているのか?」


 頼むから普通に喋ってくれと、貴族相手にはほぼ叶わないであろう虚しい願いを募らせていると、カロッゾが声を掛けてきた。

 普段と異なり、きらびやかな騎士服に身を包んだ父の凛々しい姿に、リリィはほわぁ、と憧憬の眼差しを向ける。


「そうですね、緊張してます。変なことを言って相手の方を怒らせずに済めばいいんですが」


 まさか貴族を魔法で吹っ飛ばしてしまう心配をしていたなどと言えるはずもなく、微妙に言葉を濁す。

 当然、いくらなんでも娘がそんな物騒な想像をしているなどと夢にも思わず、カロッゾは明るく笑いながらリリィの頭を撫でる。


「ははは、心配するな、何かあれば俺がどうにかしてやるから、あまり気負わず、教えられた通りにやればいい」


「はい! ありがとうございます!」


 最低限のマナーや言葉遣いさえ守れば、後はどうとでもなると請け負うカロッゾに、リリィは大きく頷きを返す。

 まあ、流石に暴力沙汰にしてはフォローも出来ないだろうが、変な絡まれ方をすれば助け船も入るだろう。そう考えれば、リリィも気楽に構えることが出来た。


「カロッゾ様、お嬢様、そろそろお時間ですので、参りましょうか」


 バテルに促され、リリィは会場へと向かう。

 服装は侯爵領に来たときと同じ黒のドレスだが、あの時と違い木剣に加え、強化魔法の魔道具まで準備してある。

 戦闘にでも行くつもりかと思うかもしれないが、この国では魔法のお陰か、女であっても剣を握ることは多くあり、王妃や王女直属の近衛として、女性限定の騎士団が存在するほどだ。

 なので、リリィが戦闘を意識したような作りのドレスを着ていても、仮に帯剣していたとしても、それを理由に咎められることはない。


 もっとも、流石に社交の場に木剣を引っ提げて向かう者はそうそういないが。


「おぉ……! 本番まで立ち入り禁止でしたけど、やっぱり侯爵家のホールはうちとは次元が違いますねー」


 バテルとカロッゾに連れられて訪れたのは、広々としたホールだった。

 立食形式の晩餐会なようで、真っ白なテーブルクロスが敷かれた丸テーブルが無数に並べられ、その上には色とりどりの料理やワインがこれでもかと載せられている。

 入り口にまで漂ってくる香辛料の香ばしい匂いが、否が応でも食欲をかき立てて仕方がない。

 もちろん、食事だけでなく調度品も侯爵家の名に恥じない豪華なもので、中でも天井からぶら下げられたシャンデリアは蝋燭の代わりに魔道具が使用されているのか、夜の室内をまるで真昼のように煌々と照らしていた。


「あの魔道具、どこから魔力供給しているんでしょうか? 魔水晶が見えませんけれど」


「恐らく天井の中だろうな。上の階から都度補給しているんだろう」


「なるほど、それなら晩餐会の最中にも補給できますね」


 カロッゾの説明を聞いている間も、リリィは天井のシャンデリアを眺めて瞳をキラキラと輝かす。

 楽団の奏でる優雅な音楽を聞きながら、カロッゾに手を引かれたリリィはホールの中へと足を踏み入れた。


「あ、お父様、フライドポテトがありますよ。早速採用してくれたみたいですね」


「ああ、リリィが吹っ飛ばした扉の代金代わりに譲ったレシピだったか」


「うぅ、それは言わない約束ですよ」


 続々と貴族が足を踏み入れる中、リリィは近くにあった料理に興味を移し、カロッゾと他愛ないお喋りに興じながら時間を潰す。

 生まれて初めてとなる上流階級の催しに、そわそわする心を抑えられなかった。


 やがて、予定していた貴族が集まったのか、壇上に上がったセヴァンによって開会が宣言され、飛び入り参加の公爵の紹介も行われる。

 誰もが、予想だにしなかった人物の登場に驚いていたが、すぐにその衝撃から立ち直り、滅多にない機会だと次々に挨拶に訪れていた。

 そのあまりの盛況ぶりに、あの人も大変そうだなぁ、などと他人事のようにリリィは思う。

 実際、他人事ではあるが。


(それにしても、マリアベルさんとルル君は本番まで別室待機なんですよね……残念です)


 魔法の披露は本番開始からそれほど間を置かずに行われるというが、それまでリリィは家族しか知り合いがいない。

 どうせなら、この光景について二人と語り合いたかったのだが、まあ事が終わればいくらでも話す時間も取れるだろう。

 もっとも、話し相手に困るのはリリィだけで、カロッゾの方は貴族達とひっきりなしに言葉を交わしていたが。


「おお、カロッゾ殿、お久し振りでございます」


「これはこれは、ドルトン殿におかれましては、ご壮健で何よりです」


「何、カロッゾ殿こそ、田舎に籠って戦場から遠ざかったかと思いきや、まさか軍艦事業に関わることになろうとは、随分と精力的に活動されていたようで。やはり若いというのはいいですな、私も見習いたいものです」


「ははは、ドルトン殿こそ、最近では畑の収穫量を増やす新たな魔法を開発されたとか。スペード伯爵領が益々豊かになりそうで、農地の少ないアースランド領としては羨ましい限りです」


「なんのなんの、これしき」


「ははは、ご謙遜なさらず」


 本音を何重にもオブラートに包んで交わされる、貴族同士のやり取り。

 しかし、先日の公爵のように直接的な嫌味を言われるでもなく、やや薄っぺらではあってもお互い笑顔で語り合っているため、リリィからすると少々拍子抜けだった。

 平和が一番なので、残念ということはもちろんないが。


「ご機嫌よう、私はドルトン・スペードが息女、マーベル・スペードよ。貴女のお名前を教えてくださる?」


「あ、ご機嫌よう。カロッゾ・アースランドの娘、リリアナ・アースランドです。以後お見知りおきを」


 だから、というわけでもないが、リリィは淑女らしさを心掛けながらも、いつも通りの笑顔で応対出来た。

 権謀術数渦巻き、隙を見せたら食い殺される猛獣の檻の中にあって不意に咲き誇る、裏表のない無邪気な笑顔。


 ――あら、お可愛らしい。


 僅か十二歳、馬車の旅で疲れが残る中で晩餐会に参加した伯爵令嬢にとって、癒しとなるには十分な破壊力を秘めていた。


「ふふ、ひょっとして、こうした催しは初めてかしら?」


「はい、お恥ずかしながら、領外に出たのも初めてで。珍しいものばかりあって、自分の知識の無さを嘆くばかりです」


「そう、よろしければ、色々と教えてさしあげてもよろしくてよ?」


「本当ですか? ありがとうございます!」


 なので、自然とその対応も柔らかくなり、優しい言葉が溢れる。

 親達の思惑がどうであれ、初対面の可愛らしい幼女を相手に敵意を抱くのは難しいのだ。


「スペード伯爵領って、レインボーポテトの産地なんですよね? フライにして食べたんですけど、とっても美味しかったです! 他にも何か有名なものはあるんですか?」


「そうね、やっぱり小麦かしら。うちの小麦から作られたパンはとっても柔らかくて美味しいって評判なのよ。ほら、ちょうどここにあるから、お一ついかが?」


「あ、では遠慮なく。……んん、本当に美味しいです! レインボーポテトを使ったポトフに浸けて食べてみたいです」


「ポトフもいいけれど、どうせならクリームシチューなんてどうかしら。あのまろやかな味わいがパンに染み渡って、思わず顔が蕩けてしまうわ」


「いいですね! ああでも、アースランド領ではチーズや牛乳はあまり……」


「でしたら、我がビーフストノ子爵領の牛乳を使うといいですわ!」


 マーベルと話し込んでいると、他の令嬢が会話に入り込んで来る。

 ノエル・ビーフストノと名乗った彼女は、ひとまず割って入ったことをマーベルに謝罪をすると、鼻息も荒く続きを語り出す。


「我が領地特産の牛乳は、味わい深く濃厚で、直接飲むにも料理に使うにも最高ですわ! シチューを作るなら是非とも我が子爵領の牛乳を!」


「お待ちください、シチューならお野菜が必須ですよね? でしたら我がトーリス子爵領を忘れて貰っては困ります! うちの領地で採れる野菜は王国随一ですよ!」


「いいえ、それなら我が領地の」


「いいえ私の」


 やいのやいのと、気付けば瞬く間に令嬢達に取り囲まれ、地元の特産品をアピールされる。

 どうしてこうなったと目を回すリリィだったが、当然これにも理由があった。


 年齢にややバラつきがあるものの、周りに集まった令嬢達は誰もが十代前半といった年齢で、まだまだ腹黒い交渉事をするには経験不足だ。その結果、彼女達が家から伝えられた指令は実にシンプル。特産品の良さを宣伝し、その得意先を一つでも増やすことである。

 故に、料理の話題ともなれば食い付かないわけにはいかず、猛烈な勢いで押し寄せて来たのだ。


 一応、公爵への挨拶が最優先で、彼女達にしてみればここにいるのはその順番待ちでもあるのだが、これではどちらが優先されているのか分かったものではない。


「ほら、まずは実際に食べてみてくださいまし」


「こちらのサラダもとても美味しいですわ、まずは一口」


「ではこちらのスープなど」


「もがもがもが……」


 元々、この集まりは西部貴族達の親睦会というだけあって、西部で採れる食材をふんだんに使った料理が並べられていたため、これ幸いとリリィは次々と口の中に料理を押し込まれる。

 なまじ、集まった子供達の中では年齢が一番低く、身分も下。可愛らしい顔立ちに加え愛想が良く、更に物を食べれば笑顔で褒めてくれるので、勧める側としても気分良く食べさせられる。

 そういった事情が重なった結果、リリィは頬をリスのように膨らませながら、華やかなドレスの群れに見事に飲み込まれる結果となっていた。


「くすっ……楽しい子ね」


(うん……?)


 そんな状態で食事を楽しんで(?)いると、人だかりの隙間から覗く景色の中、大人達に混じって果実ジュースを飲む一人の少女の姿が見えた。


(あの髪……それにこの声、もしかして、公爵家の……?)


 紫色の、緩くウェーブが掛かった長い髪。

 妖艶な声の響きとは裏腹に、その背丈はリリィとさほど変わらず、恐らくはほぼ同い年か、少し年上だと思われる。

 猫のように鋭い切れ長の瞳はその高貴さを表すかのように黄金に輝き、どこか楽しげな色を浮かべていた。


(馬鹿にしてる……感じはしないですね、なんというか、玩具を前にした子供みたいな?)


 あ、子供なんだから子供みたいな目をしているのは当たり前か。

 そう、明後日の方向に思考が逸れている間に令嬢達の体で視線が遮られ、次に視界が開けた時には、既にその場から移動したのか、彼女はどこにもいなくなっていた。


(うーん、お礼を言いたかったんですけど)


 先日の一件について話そうと思っていただけに、見失ってしまったのは少々残念だ。

 それ以前に、今は目の前に集う令嬢達の方をどうにかしなければならないが。


「貴女達、揃いも揃って、あまり騒がしいのは感心しませんよ」


「あ……申し訳ありません、モニカ様」


 さてどうしたものかと、リリィが口に物を詰め込まれながら頭を悩ませていると、集団の外から声が聞こえてきた。

 聞き覚えのあるその声と同時に、あれほど密集していた人集りが二つに割れ、その先に一人の少々が姿を現す。

 マリアベルの姉、モニカ・スクエアだ。

 彼女の目が、カラフルな集団の中心……リリィへと向けられる。


「あなた、ちょっと話があるのだけれど、付き合って貰えないかしら?」


「…………」


 口いっぱいにもぐもぐと咀嚼しながら、リリィは無言でこくりと頷く。

 中々に失礼な、しかし事情が事情のため本人を責めるわけにもいかない肯定の仕方に、モニカは若干こめかみをヒクつかせると、リリィの手を引いてホールを後にするのだった。





「ここなら邪魔も入らないでしょう」


「ほんなほほろへ、ふぁにひにふぃふぁんれふか?」


「……さっさと飲み込みなさい、まだ食べていたの」


 ホールを出た後、その一つ上の階にあるバルコニーへとやって来たモニカは、未だにもぐもぐと口を動かすリリィに呆れた顔を向ける。

 リリィとしてもさっさと飲み込みたかったのだが、小食気味な体には少々多すぎる量の料理を突っ込まれていたため、若干飲み込むのに抵抗を感じ始めていたのだ。

 美味しいのは、間違いないのだが。


「んくっ……ふぅ、それで、こんなところへ何しに来たんですか?」


 リリィが尋ねると、モニカは少し表情を曇らせる。

 何事かを考え込んでいるのか、セミショートの髪を弄りながら逡巡する姿を見て、ふとマリアベルの姿と重なった。

 やっぱり、姉妹なだけに二人は癖まで似ているんだなと、そんなことを考えながら答えを待っていると、やがてモニカはゆっくりと口を開いた。


「あの子……マリアは、本当に魔道具を完成させたの?」


「ああ、はい。昨日のうちに試用試験も済ませてあるので、何も問題はありません。心配しなくても大丈夫ですよ」


 彼女なりに心配しているのか、憂慮の表情を浮かべる彼女を見て少し嬉しくなるリリィだったが、直後に出て来た言葉は想像の埒外だった。


「そう……それは残念ね。あの子には、魔法なんてない方がいいのに……本当に、余計なことを……」


「え……?」


 余計なことを、というだけなら、単にマリアベルのことが疎ましいだけとも取れる。

 しかし、魔法なんてない方がいいと語るその表情に浮かぶのは、嫌悪でも侮蔑でもなく、ただひたすら妹のことを想う、親愛の色だった。


「スクエア家にとって……いえ、この国にとって、魔法は敵と戦うための武器なのよ。それを扱うにも、研究するにも、マリアは気弱過ぎるし……何より、優しすぎる」


 そう言われて、リリィもまた思うところはあった。

 一昨日、強化魔法の魔道具を試すために街中に繰り出した時は「もっと穏やかな魔法がいい」と零していたし、何より完全制御術式や魔力簒奪術式など、リリィが手伝うまでもなく、ほとんど理論が完成していた。

 それがなぜ、これまで形にならなかったのかと言えば、暴発の危険がある魔道具の実験に、他人を関わらせることをよしとしなかったからだ。

 リリィが強引に参加してからも、新しいことを始める度に危険だと、止めた方がいいと何度も口にしていた。

 侯爵家の名を出せば、大抵の人間は……特に、西方騎士団に所属している人間ならば言うことは聞かせられるはずなのに。


「魔力不感症以前に、あの子に魔導士なんて向いてないのよ。あの子には、武器を取って戦うことなんて出来ないわ。だから……あの子の魔道具は、完成して欲しくなかった」


 気が弱く、優しい、凡そ争いごととは無縁な少女。

 この一週間同じ時間を過ごしただけでも、その印象は確かにリリィの中にもある。

 しかし。


「確かに、マリアベルさんは優しい人だと思います。貴族なのに全然偉ぶったところがなくて、騎士爵家の私にもずっと腰が低くて……でも、魔法がどういう物かなんて、マリアベルさん自身も分かっているはずです」


 そう、マリアベルはずっと優しかった。優しいからこそ、魔道具を完成させられなかった。

 なぜなら、魔道具の試用試験は危険だから。

 魔法は、一歩間違えれば大事故に繋がる力だと、ちゃんと自覚していたからこその優しさなのだ。


「それでも、全部分かった上で、マリアベルさんは魔法を求めていました。前に進むために、魔法の力は絶対に必要な物なんです。もし、そのせいでマリアベルさんが道を見失うことがあったなら、その時は……友達として、私が必ず助けてみせます!」


 以前会った時と変わらない、冷たく鋭い眼差しを真っ直ぐに見つめ返しながら、リリィは力強く宣言する。

 それを受けて、モニカは少しだけ視線を彷徨わせ、何事かを言おうと口を開こうとして……。


『それではこれより、少しばかりの余興として、我が娘、マリアベル・スクエアが、新開発した魔道具の実演を披露します。どうぞ、皆様中庭の方をご覧ください』


 魔法で拡張されたセヴァンの声が会場から響き、ざわざわと人が蠢く気配がしたことで、会話が僅かに途切れる。

 口を噤んだモニカに代わって、リリィは口を開いた。


「見ていてあげてください。マリアベルさんの想いが籠った、とっておきの魔法を」


 バルコニーの柵の隙間から中庭を覗き、そこに立っているマリアベルとルルーシュの二人を見つけたリリィは、そう言って大きく手を振るのだった。

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