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転生幼女は騎士になりたい  作者: ジャジャ丸
第二章 婚約者来訪
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第三十三話 近づく心、すれ違う心

 トーマスの家を後にした三人は、その後も村を回り、体調不良を訴える村人達の診察を続けた。

 風邪を引いた農家のおばさんの元に赴いては薬を処方し、怪我をした木こりに出会っては傷薬を塗って包帯を巻き、腰痛に喘ぐ老人を見つけては湿布薬を貼っていく。

 そういったことは基本的に全てルルーシュが行っていたのだが、魔法をかける部分以外は自分にも出来るからと、リリィも少しばかり教えて貰いながら調合を行い、ユリウスも薬を煎じるためのお湯を魔法で沸かすなど、数をこなしているうちに役割分担も生まれ始める。


 しばらくそうして活動していると、次第に噂も広まっていき、子供達だけの診療所という物珍しさも手伝ってか、村人だけでなく商会の従業員までが自ら足を運び、三人に診察を頼むようになっていた。


「リリ様、最近肩が痛いんですが、ちょいと診て貰えませんかね?」


「はーい、肩こりですねー、肩揉みしてあげますから、そこに座ってください。他に具合が悪いところはないですか?」


「他は大丈夫だ、ありがとうよ。実はさっき、森の方でイノシシが獲れたんだ、後でお礼に持っていってあげますよ」


「本当ですか? ありがとうございます」


「ユリウスー、何か面白そうなことやってるって聞いたから見に来たぞー」


「コアン、俺は別に遊んでるわけじゃないからな!?」


 とは言え、そのほとんどは単純に様子を見に来ただけだったり、お礼の名目で差し入れに来ただけだったりで、症状と言ってもちょっとした肩こりや虫刺されなどの軽いものが多く、中にはそれすらなく冷やかしに来ただけという悪戯小僧もいたりした。


「リリアナ、肩揉みするならもう少し力入れて……無理なら体重かけられるように踏み台用意するといいよ」


「あ、はい!」


「それと君……コアン? 足擦り剝いてるからこっち来て、薬塗るから」


「えっ、マジで? いつの間に」


 それでも、今まで練習してきた成果を発揮できるとあって、ルルーシュは真剣に取り組んでいた。


(こんな機会、もうないかもしれないしね……)


 将来、ランターン商会を継ぐことになれば、薬師として活動などしている暇など無くなってしまうだろう。

 一応、母親がランターン商会の名で小さな薬屋を営んでいるのだが、所詮は一支店に過ぎず、そればかり構っているわけにもいかないのだ。

 だから、せめて今だけは。


(ここにいる間くらい……母さんみたいに)


 ルルーシュの脳裏に、母親の姿が思い浮かぶ。

 薬草の香りが染みついた手で、病気で苦しんでいる人はもちろん、些細な悩みを抱えている人にも手を差し伸べ、笑顔を振りまく。そんな母親に釣られてみんなが笑顔になっていく光景が、ルルーシュは好きだった。


「ルルーシュ君、どうかしましたか?」


「え? あ、いや、別になんでも……」


 そんなことを考えていると、いつの間にか目の前にリリィの顔があった。

 ハッとなり、自分の手がいつの間にか止まっていたことに気が付いたルルーシュは、慌ててなんでもないと答えようとするのだが、それよりも早くリリィの手が額に触れる。


「んー、熱はないみたいですね。薬師はただでさえ患者さんから病気を貰いやすいですから、疲れたのなら休憩した方がいいですよ?」


「い、いや……別に平気。ちょっとぼーっとしてただけだから」


「そうですか? ならいいですけど……」


 リリィの手が離れると、仄かに薬草の香りが漂う。

 薬の調合をしている最中なのだから当たり前だが、そのせいか、たった今思い浮かべていた母親と、リリィの姿が僅かに重なる。


「……って、ルルーシュ君、指ちょっと切ってるじゃないですか」


 またも呆然としていると、不意にリリィはそう言ってルルーシュの手を取った。

 ルルーシュ自身は気付いていなかったが、確かに指先が少しだけ切れて赤い血が滲んでいる。

 恐らく、薬草に触れているうちに葉か何かで軽く切ったのだろう。


「ちょっと動かないでくださいねー」


 それを見て、リリィはすかさず自分で作ったばかりの傷薬を塗り、布で縛る。

 魔法をかけていないのですぐに効果が出るものではないが、元々大した傷でもないのでこれくらいで十分だろう。


「これくらいなら放っておいてもいいのに」


「もう、コアン君の擦り傷もちゃんと治してくれた人が言うセリフじゃないですよ。それに、ルルーシュ君の手は、たくさんの人を助けられるとっても素敵な手ですから。大事にしなきゃダメです!」


 ね? と笑顔を見せながら口にしたリリィの言葉に、ルルーシュは目を丸くする。


 ――あなたの力は、いつかきっとたくさんの人を助けられる、素敵な力よ。胸を張って――


 細部は所々違うが、以前とある理由で落ち込んでいた時に母親からかけられたのと似たような言葉に、ルルーシュは胸が熱くなるのを感じた。

 加えて、それよりも前、なんだか遠い過去にも、同じようなことを――


「……ルルーシュ君? やっぱり疲れてますか?」


「いや……なんでもない」


 首を横に振るルルーシュだったが、流石にこの短期間で二度目となると中々信じて貰えず、リリィは「本当ですか?」と何度か食い下がってきた。

 それを適当にあしらいながら、ルルーシュは何事もなかったかのように作業に戻る。

 その表情は、傍にいたリリィにも分からないほど微かに、柔らかい笑みを湛えていた。




 評判が評判を呼び、思っていたよりもずっと慌ただしかった“薬屋ルルーナ”の開店(?)初日は、無事何事もないまま夕方頃に終わりを迎えた。

 様子を見にやってくる人々の抱えている症状が、当初の予想とは異なりほぼ擦り傷や腰痛、肩こりだったため、オウガに持たせていた傷薬や湿布薬の在庫が尽きそうだったことがその時間に終わった最大の理由だが、それがなければいつまでやっていたか分からない。

 リリィとは違い、生来の魔力保有量が少ないルルーシュにとって、一日中魔法薬を作り続けるというのはかなりのハードワークだったのだが、今は疲労感よりも、やってやったという達成感の方が大きかった。


「ただいまー……」


「遅かったな、ルル」


 そんな心地良い気持ちを抱えながら、ランターン商会に貸し与えられた借家の一つに戻ったルルーシュを出迎えたのは、父親であるマカロフだった。

 明らかに待ち構えていたと分かるその立ち振る舞いに、ルルーシュはそれまでのいい気分も忘れて顔を顰める。


「領内で医療行為を働いていたそうだな。まだ小さいんだ、そういったことは感心しないぞ」


「別にいいでしょ、領主の許可は貰ったんだから」


「何か問題が起きたらどうするつもりだ。いくら許可があっても、もし失敗した時に責任を問われるのはお前や、引いては我が商会なんだぞ」


「そう難しい薬を作ったわけじゃないし、何人かただの風邪とも言い切れない人には素直にリリアナの母さんに診察して貰えって薦めたよ。僕が作る薬に問題がないことだって事前に見て貰ったし、何も起きないっての」


「医療行為に絶対はない、それはお前の方がよく知っているだろう」


 マカロフの言葉に、ルルーシュはギリッと歯を食いしばる。

 ルルーシュはまだ五歳だが、母親の元で学んでいれば、力及ばず死んでしまう人間がいることくらい嫌でも知っていた。


「薬について学ぶのが悪いとは言わん。だが、少しはそれ以外のことにも目を向けろ。今日だって、広場で行われている市を覗けば、他にも色々と学ぶことはあっただろうに」


「別に、僕がリリアナ達を引っ張り回したわけじゃない! 第一、他のことにも目を向けろって、父さんが言いたいのは結局、僕に商人になるための勉強をしろってことだろ!?」


 語気を荒げるルルーシュに、マカロフは溜息を零す。

 このやり取りは、既にこれまで何度も行われていることだからだ。


「……そんなに、この商会を継ぐのは嫌か?」


「嫌だね。父さんみたいに家族をほったらかしにした挙句、あんな貴族達にヘラヘラ笑って頭を下げながら金を稼ぐなんて、死んでもごめんだ!!」


「ルル、あの事は確かに私としても思うところはある。だが、状況を考えれば貴族達の判断も間違っては……」


「言い訳なんか聞きたくない!!」


 マカロフの言葉を遮って、ルルーシュは叫ぶ。

 怒りの籠ったその表情に、マカロフは言いかけた言葉を飲み込んで口を閉ざした。


「いつもいつも、そうやって上っ面だけ取り繕って、綺麗事並べて……最近は特にそうだよ、母さんがあんなことになったっていうのに、顔もほとんど見せないで、仕事ばっかり……一体何を企んでるんだよ!!」


「……今はまだ、詳しいことは話せないが……今回の話は、決してお前にとっても悪いことではない。それだけは確かだ」


 必死に問いかけるルルーシュに、マカロフは表情を変えないままそう答えた。

 あくまで本音を語ろうとしないマカロフに、ルルーシュは体を震わせながら顔を俯かせる。


「……もういい」


「待てルル、どこへ行く。話は終わっていないぞ」


「話す気のない相手と何の話があるんだよ! もう放っといて!!」


 マカロフの脇を走り抜け、ルルーシュは自分にあてがわれた部屋へと飛び込む。

 肩にかけていた鞄を適当に放り捨てると、そのままの恰好でベッドに潜り込んだ。


「……父さんのバカ」


 その呟きは誰に聞かれることもないまま、拗ねたように掛け布団を頭から被り、中でふて寝するように蹲る。

 だからこそ、ルルーシュは気付けなかった。


「ゴホッ、ゲホッ!」


 不意に部屋の外で響いた、咳の音に。

五歳で医療行為って聞くとかなりヤバイですねコレ(特大ブーメラン

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