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転生幼女は騎士になりたい  作者: ジャジャ丸
第二章 婚約者来訪
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第二十九話 二人だけの遊び(?)

 ルルーシュを半ば強引に屋敷の中へ招き入れたリリィだったが、そこでとある問題に気が付いた。


(あれ? よく考えたら私、ルルーシュ君と何して遊べばいいんでしょうか?)


 リリィはこの世界の子供達が何をして遊ぶのか、ほとんど知らない。

 辛うじて、ユリウスが普段していることなら知っているが、木彫り人形は冬の時期ではほとんどが薪にされていて材料がないし、釣りや動物を追い回すにもシーズンは過ぎ、他の遊びにしても大体が外で行う物である以上、領主館から出ないと言った手前イマイチ不適切だ。


 では、リリィは普段何をしているかといえば……魔力制御の訓練、勉強、読書、家事の手伝いと、偶に筋トレ(?)。それくらいだ。

 遊びと呼べる物は皆無に等しく、辛うじて読書は娯楽の範疇になりそうだが、二人で遊ぶには不向きだろう。そもそも、リリィが普段読んでいるのは王国の歴史書や教材だ。


(せめてそれくらい考えてから誘うべきでした……!)


「……どうかした?」


「いえ、何でもないです!」


 頭を抱えて嘆いていると、ルルーシュから訝しげな表情を向けられるが、すぐに顔を上げて誤魔化す。

 誤魔化すのは嘘に入るのだろうか? と益体もないことを考えながら、その代わりとばかりに体と口はひとりでに動く。


「ここが私の部屋です、ちょっとお茶淹れて来ますから、ここで待っていてください」


「は? いや、流石に女の子の部屋に入るのは……ていうか、お茶なんて淹れられるの? 貴族なのに?」


「貴族だってお茶会とかするじゃないですか、それくらい基本ですよ!」


「そう、なの? まあいいけど……」


 貴族のお茶会は大抵の場合、付き従う侍女や侍従がお茶を淹れるものだが、実際に見たことのないルルーシュはあっさりと騙される。

 もちろん、リリィも見たことがないし、アースランド家でお茶会などという洒落た催しは行われた試しがないため、本人にも騙した自覚は皆無である。


「そういうわけなので、淹れてくるまで部屋の中で自由に座って待っていてください」


「わっ、ちょっ」


 ルルーシュの背中を押し、自室に詰め込んだリリィは、急いで調理場に赴き、お茶を淹れる。

 とはいえ、お湯を沸かすのはまだ一人では難しい上に時間もかかるため、途中で捕まえたカミラに頼み、魔法で即座に沸かして貰ったが。


「ルルーシュ君、お待たせしました」


 二人分のお茶をトレイに載せたリリィが自室へと戻ると、そこにはどこへ座るべきか決めかねてか、呆然と立ち尽くすルルーシュの姿があった。

 自由にしろというよりは、最初から椅子を勧めておけばよかったかと苦笑しつつ、改めてルルーシュには普段自分が使っている勉強机の椅子を差し出すと、お茶を勧めつつベッドの端に腰掛けた。


「お味の方はどうですか?」


「……五歳にしては上手じゃない? 少し雑だけど、正直驚いた」


「あはは……ありがとうございます?」


 褒められているのかどうか、若干怪しい評価に乾いた笑いを浮かべるリリィだったが、ルルーシュはそれには構わずゆっくりとお茶を飲み進めていく。

 どうやら、それなりに気に入ってはくれたらしいと安堵したリリィは、自らもまたお茶を一口飲む。

 そうして、しばし……というには、少しばかり長い時間が流れる。


(……く、空気が重いです)


 貴族嫌いという言葉通り、ルルーシュはずっとリリィを警戒しており、楽しくティータイムとは中々いかない。

 とはいえ、このまま何もしなければ、仲良くなるなど夢のまた夢だ。


「る、ルルーシュ君! これ見てください!」


「……何?」


 心なしか、その声すらも機嫌が悪そうに思えて心が折れかけるが、ここで引いては男が廃る。

 そう自分に言い聞かせ、リリィはいつも持ち歩いていた魔道具……自主トレのためにと、カミラやカタリナに頼みこんで携帯を許されている訓練用のそれを取り出し、掌を掲げながら魔力を込めた。


「ほいっ!」


 それと同時に、ボッ! とリリィの掌の先に光の玉が出現する。

 みるみる内に光を失い、消えたかと思えばまた灯り、また消えていく。

 やや息を乱しながら、明らかに必死と分かる表情でそれを維持しつつ、掌の中でふよふよと宙を漂わせる。


「ほら、蛍ですよー、どうですか?」


 にこりと笑いながら言うのだが、ベッドから立ち上がり、自ら体を動かして蛍っぽく見せようと光を動かしている様は、冷静に見れば中々にシュールだ。


「……何やってんの?」


 故に、ルルーシュの目が多少冷たくなったとしても、それは彼のせいとも言えないだろう。

 一方のリリィはと言えば、渾身の一芸で盛り上がるどころか、むしろ室温が低下してしまったかのような空気に愕然とする。


「うぅ、村の子供にはバカ受けだったんですけど……」


「……一応聞くけど、その子、何歳?」


「見せた時は二歳でした。今は三歳ですね」


「そんな小さい子と一緒にしないでくれる!?」


 ですよねー、とがっくり肩を落とすが、そんなリリィに追い討ちをかけるように、ルルーシュは更に言葉を重ねる。


「大体、今の《灯火トーチ》、絶対わざとじゃなくて本気でやってあれだったよね? 魔道具まで使ってるのに、いくらなんでもそれは下手過ぎるでしょ」


「ぐふっ」


 容赦ない指摘に、リリィは胸に矢を受けたかのように蹲る。

 それでも、ルルーシュの追撃は止まらない。


「魔力は駄々漏れで無駄ばっかりだし、点滅してるのも制御が雑で安定してないからだし……しかもそんな、貴族じゃなくても知ってるような簡単な魔法でそれって……はあ、せめて……」


 これみよがしに溜息を吐いたルルーシュが、指先を宙に向ける。

 どうしたのかと首を傾げたリリィの耳に、水面に波紋が広がっていくような、静かな魔力の音色が響いた。


『光の精よ、我が道を照らし給え。《灯火トーチ》』


 詰まることなくするりと紡がれた詠唱によって魔法が発動し、ルルーシュの指先に光が灯る。

 更に、


「蛍って言うなら、これくらいやりなよ」


 光が点滅を繰り返しながら、指先を離れ部屋の中を自由に飛び回る。

 リリィのように、ただ雑な制御の結果光が強くなったり弱くなったりするのではなく、完璧に一定の間隔で点滅させながら、尚且つ自分から離れた位置に移動させるなど、とても同年代の技術とは思えない。

 リリィはキラキラと瞳を輝かせながら、ルルーシュの元へ詰め寄った。


「すごい、すごいです! ルルーシュ君、これどうやったんですか!?」


「どうって、ちゃんと無駄なく魔法を発動させて操れば、これくらいは……」


「それ、私にも教えてください!」


「教えるって、貴族なら魔法の先生くらいいるんじゃないの?」


「もちろん、カミラさんっていう人が教えてくれてますし、お母様もたまに色々と教えてくれますけど、どうせならいろんな人から教わった方が伸びると思うんです。無理にとは言いませんし、少しアドバイスしてくれるだけでもいいんです、お願いします!」


 ぺこりと頭を下げながら頼み込むリリィの姿に、ルルーシュはまたも困惑した表情を浮かべる。

 どうにも、ルルーシュの記憶の中にある貴族と、目の前にいる少女とが一致しないのだ。

 貴族にも、変な奴はいるんだな……そんなことを考えながら、ルルーシュは小さく溜息を吐く。


「分かったよ、少しだけね。後、僕だって人に教えるなんて初めてだし、ダメでも怒らないでよ?」


「あ……はい! よろしくお願いします、先生!」


「先生はやめてよ、そんな柄じゃないし。さっきまでと同じように名前で呼んで」


「そうですか? それなら、ルルーシュ君も私のことは、お前じゃなくて名前で呼んでくれると嬉しいです」


 期待の籠った視線で見つめてくるリリィに、ルルーシュはどこかむず痒いような感覚を覚え、軽く頭を掻く。

 そして、しばし悩んだ末、やや投げやりに口を開いた。


「……分かったよ、リリアナ。これでいい?」


「はい! えへへ」


 たかが名前で呼ばれただけで、リリィは満面の笑みを浮かべる。

 その嬉しそうな様子に、「本当に、変な奴」と、ルルーシュは小さく呟くのだった。





「リリアナ、また余計な魔力漏れてる、力抑えて」


「む、むむむ……!」


 魔法の訓練を見てもらうことになったリリィは、早速魔道具を使って《灯火トーチ》の魔法を練習することになった。

 まずは実力をしっかり見極めるため、余計な操作を加えない、純粋な光魔法として発動しろとの指示通り、余計なことは考えず、とにかく安定させるために意識を集中させる。

 が、リリィの手元で灯った光は、なんとも頼りない明滅を繰り返していた。


「それ、逆に増えてるから。力むんじゃなくて力抜いて」


「はふぅ~……」


「……どっちみち増えたね」


「えぇ!?」


 光の強弱で見れば強くなったり弱くなったりを繰り返しているのだが、ルルーシュの目には発動からずっと魔力の無駄が増え続け、魔水晶に収まり切らなかった魔力がどんどん空気中に漏れだしているらしい。

 どうも、リリィには無駄に溢れる魔力を抑えつけようと力むせいで、却って魔力を放出し続けてしまう癖があるようで、意識すればするほど悪化してしまっているようだ。


 カタリナやカミラからは一度もそんな指摘をされたことがなかったのだが、ルルーシュ曰く、「僕は人よりも魔力の違いがよく分かる」のだという。

 その話をする時、ルルーシュの表情に陰りが見えたことが気になったが……あまり踏み込んで欲しくなさそうだったため、リリィはひとまずその些細な疑問を頭の片隅に押し込むことにした。


「その無駄に多い魔力を抑えるのが大変なのは分かるけど、出し過ぎたのを押し戻そうとするんじゃなくて、まずは出た分を落ち着いて制御することに集中しよう。リリアナは同時に別々のことをこなすのは苦手みたいだし、その方がいいと思うよ」


「なるほど、ありがとうございます」


 ルルーシュからアドバイスを受けながら、リリィは何度も魔法を発動する。

 その度に失敗してはダメ出しされ、失敗してはダメ出しされ……それでも諦めずに挑戦し続け、少しでも前に進もうと足掻き続ける。

 そうした試行錯誤を繰り返しながら練習していくのだが、やがて何十回目かも分からない雑な光を灯したのを見て、ルルーシュはボソリと呟く。


「リリアナ……君、もしかしなくても、魔法の才能ないんじゃない?」


「ぐっふ」


 子供らしい素直さ……というより、もはやルルーシュの個性というべきなのか、情け容赦ない率直な感想にリリィが精神にダメージを負い、その場に突っ伏す。

 とはいえ、今回はルルーシュも貴族相手だから意地悪を言ったわけではなく、割と本気でそう思っていた。


「貴族は魔法を覚えるのが義務なのか知らないけどさ……平民ですら普通に知ってる《灯火トーチ》でこの有様じゃ、他の魔法なんてできっこないよ。諦めて他のこと勉強した方がいいんじゃない?」


「あはは……もちろん、いずれお父様の政務を手伝えないかなって、勉強だって毎日してますよ。ただ、ルルーシュ君が言っていた通り、私の魔力量ってバカみたいに多いじゃないですか。だから、どれだけ向いてなくてもちゃんと訓練しておかないと、ちょっとした切っ掛けで魔力暴走を起こして倒れちゃうんですよ」


 予想外に重い事情を聞かされ、ルルーシュは視線を彷徨わせる。

 それに気付き、リリィは気にしなくていいと手をパタパタと振った。


「小さい頃から、そのせいでたくさん周りの人に迷惑をかけてきちゃいましたけど……だからこそ、早くこの魔力をちゃんと制御できるようになって、私はもう大丈夫だってところをみんなに見せてあげたいんです。この体はハンデなんかじゃないって……むしろ、この体だから強くなれましたって、いつかお母様にお礼が言いたいんです」


 カタリナも、カミラも、魔力量の多さは一つの才能であって、恥ずべきことではないと言ってくれる。

 しかし、それはあくまでリリィの気持ちを慮っての言葉だ。

 何一つ役に立たない才能など、ただの呪いでしかない。実際にそのせいで苦しむ姿を何度も見せてしまっているせいで、他ならぬカタリナが、リリィをそんな体質に産んでしまったことを悔やんでいる節がある。

 だからこそ。


「だから私、苦手でもなんでも、もっともっと頑張って、早く上達しないといけないんです!」


 そう言って、リリィはぐっと気合を入れるように握り拳を固め、ふんすっと鼻を鳴らす。

 そんな、どこまでも純粋なリリィの言葉を聞いて、ルルーシュは……。


「……今日は帰るよ」


 そう言って、部屋を後にしようとする。


「え? ま、待ってください! 私、何か気に障るようなこと言っちゃいましたか?」


「別に、そういうわけじゃないよ。ただ、僕も今日はまだこの領に来たばっかりだから、荷解きとかまだだし、そろそろ帰らないと。それから……」


 慌てて引き留めるリリィに対し、ルルーシュは素気なく答える。

 そして、最後に振り返りざま、リリィの額を指で突く。


「あうっ」


「魔力暴走なんて病気持ってるなら最初に言いなよ。気付いてないみたいだから言っとくけど、もう大分魔力が乱れてるから、自力で抑えられないなら今日はもうやめといた方がいいよ」


「えぇ!?」


 自覚症状もなかったためまだ行けると思っていたのだが、実際には既に症状が出始めていたらしい。

 驚くリリィに溜息を零しながら、ルルーシュはほんの少し……見落としてしまいそうなほど僅かに、笑顔を浮かべる。


「明日もまた教えてあげるから、それまでちゃんと休むこと。いいね?」


 その言葉に、リリィは驚いて目を丸くする。

 そんなリリィに、ルルーシュは少しだけバツが悪そうにそっぽを向きながら、「それから」と。


「……さっきは色々と、ごめん。言い過ぎた」


 そう、小さく謝罪の言葉を紡いだ。

 突然の事態にポカーンとしているリリィの姿に不安が募ったのか、ちらちらと伺い見るように何度も視線を彷徨わせるルルーシュに、リリィは思わず吹き出してしまう。


「な、なんで笑うんだよ……」


「ふふふ、ごめんなさい。ちょっと意外だったので」


 素直になれない子だとは思っていたが、自分が悪いと思えばきちんと謝れるらしい。

 不器用だけど、やっぱりいい子だ。

 そんな風に思いながら、リリィはルルーシュの顔を両手で挟み、自分の方に向かせる。


「なにする……」


「挨拶の時のことは、もう気にしてないですよ。だから許してあげます。それから……」


 ルルーシュから手を離したリリィは、改めてにこりと笑顔を零しつつ、一歩離れる。


「言いつけはちゃんと守りますから、ルルーシュ君も、ちゃんと明日も来てくださいね? それでは、また明日!」


「……うん、また明日」


 再会を約束し、ルルーシュはマカロフの元へ戻り、そのまま領主館を後にする。

 離れていく二人の距離とは裏腹に、その心の距離は、初めの頃よりずっと近づいていた。

小ネタ

ルルーシュ「そんな小さい子と一緒にしないでくれる!?」

リリィ(ルルーシュ君も五歳だから大差ないんじゃ……?)←中身中高生

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