囚われたのは体か心か
薄暗い牢獄に横たわるボロボロの少年。
格子の向かいからローブの者たち数人が互いに会話する。
「…やはり殺すことは出来なかったか」
「…ああ、やはり勇者のスキルは厄介だな。首を落とせなかった。致命傷さえ与えられない」
「腐っても神の傀儡か、我らだけでは勇者を葬れん。魔王のような超越者でなければ」
「今は魔封の枷で抑えているが、いずれにせよ万全の状態の勇者の能力を封じるのは厳しいだろう」
溜息を吐いて、牢獄に視線を落とす。
「次の巫女の再誕には何十年も時間がかかる。それでは遅すぎる、世界は魔に飲まれてしまうぞ」
「何故今代の巫女は失敗したのだ?勇者は懐柔されたはずでは?混沌の魔素は未だに世界に満ちて濃さを増している、これでは世界の浄化が望めん。一刻も早く勇者の魂で中和せねば…」
ローブの者たちの声が遠ざかり、聞こえなくなる。
後には暗闇と静寂のみが残された。
「…僕はまだ、生きてるのか…」
少年は、かつて勇者と呼ばれた者はボロボロの衣服と体を触れて確認する。
少女のような白く細い首には黒い首輪が填められていた。両腕にも黒い腕輪、両方の足首にも同じものがあり、それらは重厚な鎖でジャラリと繋がれていた。
「…ルーナ姫…」
思い出すのは弾けんばかりの眩しい笑顔で自分に語りかける綺麗な少女。
現代社会で他人と距離を置いた自分は異世界に来ても変わらず他者との関わり合いを最低限に留めていた。
そうすればそれ以上他者も深く関わらないように接して来る。誰も傷つかない、Win - Winの関係。
そんな自分に積極的に親しくしてくれたのは彼女だけだった。例えそれが偽りのうわべだけの優しさだとしても自分には嬉しかった。
少年は皮肉げに小さく口元を歪め笑った。
偽りなのは自分の方だと。
心の中では信じてなかったのだから。いつものように。
優しさには優しさで演じるのは定番だ。
だから彼女の死に悲しさを感じても涙ひとつさえ流さない自分がいる。
「…ははっ、最低だな、僕は…」
ゴロリと硬く冷たい牢獄の石床に手足を広げる。
死んでしまいたかったが、死ねない。
この身に宿る勇者の能力の所為で。
もはや呪いだ。
これは自分への罰なのだろう。
彼女を見殺しにした。
「…本当に、最低だ…」




