虚なる器
「ここ、は……?」
勇者の少年、今は少女になってしまったが、連れて来られたのは、奇妙な部屋だった。
――――機械のような管が幾重にも張り巡らされ、床や壁、天井にも無数の配線が生き物の血管のように縦横に走る。
それらは中央部に位置するいくつも並ぶ巨大なガラスケースに繋がれており、異様な雰囲気をはらんだ不気味な場所であった。
「なんなんだ、これは…」
あからさまに怪しく不気味な装置の数々。それらには魔術文様が刻まれており、今も鳴動し起動しているのが解る。
「……ここはこのローランド王国の最重要機密施設であり、人が触れるべきではない禁忌に満ちた場所でもある」
「えっ!?誰っ!?」
背後から男の声が聞こえ、慌てて振り返る少年。
「身体の調子はどうかね?勇者殿」
そこには法衣を着た壮年の男性が立っていた。
「あ、貴方は……」
その男性には何度か見覚えがある。この異世界に自分を召喚した魔術士のひとりであり、今のこの女性化した身体の原因を作った人物。魔術師長だ。
「……あ、貴方たちは一体何をしようとしてるのですか!?ぼ、僕の体に一体何をしたんですか?……それに、ルーナ姫はっ」
勇者の少年は矢継ぎ早に疑問を投げかける。
「落ち着きたまえ。其方が知りたい真実はこの部屋にある。……よく見るのだ、その目で、しっかりと、な」
「えっ、真実?」
魔術師長が勇者の少年の背後に指差す。
少年は促されるままに背後にいくつも陳列されている巨大なガラスケースのような容器をまじまじと見る。
そして信じられないものを見たように驚愕の表情になる。
「……え……ルーナ、姫……?」
透明な容器の中には緑の液体に満たされた裸身のルーナローランドが目を瞑り眠るように浮かんでいた。
容器全てに。




