忍び寄る不穏
「……姫の葬儀はつつがなく?終わり事なきを得た。ふう、それで新しい勇者は呼べんのか?次はどうしたらいいのか余はわからんぞ、魔術長よ」
玉座に座る醜く太った気の弱そうな中年の男。似合わない王冠とマントを身に付けてそわそわと目の前に臣下の礼で片膝をつく法衣の壮年の男に問いかける。
「……我が娘も安心して眠れるでしょう、感謝いたします。次期の勇者召喚には莫大な魔力が要りますゆえ……しかし御安心くだされ、陛下。全てはじきに修正されます。私に全てをお任せくださいますよう」
「そ、そうか。其方が言うならば間違いはないな。要らぬ心配をしてしまったか。だが余は不安だ。あの勇者がまだ生きているのだ。魔王は死んだとはいえ、同じ化け物が生きているのだ。……ああ、何故ヤツラは二匹とも世界の理通りに死ななかったのだ。其方の娘もこれでは浮かばれないだろう」
「……せんなきことです。世界の理を覆す術はありません。必ず時世も平穏な日々になりますとも」
「うむ、あい分かった。全て其方に任す。好きに致すが良い。ふう、余は疲れた。下がって良いぞ」
「はっ」
疲れた息を吐く王を後にし謁見の間から退出する魔術長。
「……無能が。国を動かしているのは貴様らではないのだ。自己の保身にしか興味が無い奴らめ。我らは進むしかないのだ」
廊下を歩く魔術長に灰色のローブの者がスッと近く。
「……魔術長様、あの者を例の場所へと……」
「……そうか、ではたっぷりと歓迎するとしよう。仮にも元勇者だからな。退がれ」
「はっ」
魔術長は表情を冷酷にし言い放つとローブの者は去っていく。
「……悪いがこれも世界のためだ。其方の絶望だけが世界に安寧をもたらすのだ、勇者の少年よ」




