優翔 L3-1
「香椎さんはさ、ここに来る前はどこにいたの?」
「香椎さん、派手じゃないけど綺麗だよねー。前の学校ではモテたでしょー」
「兄弟とかいるの?」
転校初日の香椎は、記者会見のように数人の女生徒に囲まれながら質問攻めにあっていた。普通ならこんなふうに矢継ぎ早に質問を浴びせられたら少しはあたふたしてもよさそうなものだが、彼女は落ち着いた見た目通りに冷静に穏やかに向けられた質問に答えていった。いや、答えるというより、作業のように処理しているような冷たさのようなものを感じた。
それに気付いてか、最初は興味津々で香椎を取り囲んでいた生徒達も最終的には困ったような顔をしてすっと彼女から離れていった。
――変なやつ。
僕は彼女を見てそう思った。
「おいおい、そんなにジロジロ見て早速恋路一直線か? あちぃー!」
梶はいつも通りのハイテンションで僕の肩をバンバン叩くわ、自分の額をペシペシ叩くわで喧しい事この上ない。
「お前しばらく北極に住んで脳内までしっかり冷やしてこいよ。ただでさえ夏で暑いってのに」
「てきびすぃー!」
「だからぁ!」
とろけそうな灼熱の中において、いくらこの学校がクーラーを完備してくれているそれなりに設備の整った良心的な高校だとしても、マグマのように鎮まりを知らない沸騰を続ける火山男の梶が横にいれば、そんな恩恵は瞬く間に無と化してしまう。
百歩譲って冬場であればまだエコとしてこの男で暖を取るという役立て方も出来るかもしれないが、出来るならば夏場はこの国から出ておいて欲しいと願うばかりだ。
「まあかわいいもんな! かわいいもんな! 主張はしてこないけど、向日葵のように燦燦と咲くタイプではないけど、道の端で慎ましく佇みながら静かにその可憐さを保ってる感じぃ!? たまんないですよねー!」
「お前こそダイレクトにどんストレートのド直球恋路ロードじゃねえかよ」
「んー優君、恋路ロードだと道が重複しちゃって工事が大変そうだから恋ロード一本道でお願い致しますぅ」
「ああーうぜぇー!」
というくだらないやり取りはいつもの事なので慣れたもんだし正直楽しんでる自分もいるからそれは問題なし。なしとして。
「香椎ねぇ……」
これは神に誓ってもいいが、彼女を見て確かに綺麗だなとは思った。だが恋心が生まれるほどの心の揺さぶりは覚えなかった。彼女の無に近いような雰囲気に気圧される部分も影響してはいるかもしれないが。
「馴染む気がまるでなさそうだよな」
「んー確かに確かに」
何故なんだろう。何故彼女はそんな態度をとるのか。その部分については少し興味があった。が、だからと言ってそれを問いただそうとは思わない。答えてくれるかもしれないが、さっきの女子達みたいにまるで仕事のように対応されるのは単純に気分が悪いし、そんな思いをしてまで香椎に踏み込んで聞きたいとは僕自身思わなかった。
「謎だな」
教室の後ろの方で喋っていた僕らを、ふいに席に座っていた香椎がふっとこちらを振り向いた。あまりの間の良さ、というか悪さに驚き身体がびくりと跳ね上がった。やはり無表情、かと思ったが。
限りなく無に近い。でも僅かに、ほんの僅かに切なげな影が落ちているように見えた。
「あー嫌われちったかな」
「かもな」
ちょっとだけ。やっぱり彼女に声を掛けてみようかな。そんな風に思った。






