7月8日
「あれ?」
目が覚めると白い天井が見えた。
「よかった、優翔」
母さんの潤んだ瞳が僕を上から見下ろした。
「だいぶ顔色も良くなったな」
母さんの横には父さんの姿もあった。
「ここは?」
「病院だ。ちょっと血を流しすぎたみたいだったが、傷は浅いし命に別状はないそうだ。良かったな」
――病院? あれ、って事は……。
「母さん、今日ってまさか……」
「7月8日よ。終わったの」
終わった。本当に終わったんだ。
でも待てよ。最後の記憶は香椎が――。
「大丈夫よ。ほら」
僕が言いかける前に、母さんは僕の気持ちを察してくれたようだ。母さんの視線が僕の隣の方を見た。僕は顔を視線の方に向けた。
――あ。
そこには静かに眠る香椎の姿があった。
「あの後、どうなったの?」
「お父さんが助けに来てくれたの」
「え、父さんが?」
「そうだ。ヒーローはいつも遅れてやってくるもんだ」
「何よそれ偉そうに。優翔が刺される前に来てよ」
「仕方ないだろ。ようやく俺もちゃんと思い出したんだから」
――ん?
「確かに危ない所だったけどな。間に合ってよかった」
「いや、待って父さん。今思い出したって言った?」
「ああ」
「え、ちょっと待って……まさかそれって、え?」
まさか、僕達だけじゃなかったのか。世界を繰り返していたのは。
「こんな経験二度とないだろうな」
父さんは疲れたようなほっとしたような何とも言えない表情で呟いた。
――そうか。父さんも繰り返していたのか。
「あの子が目を覚ましたら、出来る限りの事をしよう。彼女に罪はない」
彼女が大罪を抱え生きていく7月8日以降の世界もあったかもしれない。でもきっと、今迎えている7月8日は希望に溢れたもののはずだ。僕達にとっても、彼女にとっても。
「優翔。お前、今彼女はいるのか?」
「え? いないけど、急に何?」
「香椎さん。なかなか綺麗な顔をしているじゃないか」
「ちょ、父さん何言ってんだよ」
「あら、いいじゃない。同じ時間を共有した仲だもの。悪くないんじゃない」
「いやいや母さんまで……」
香椎の顔をもう一度見た。今までまじまじと見たことはなかったが、確かに改めて見ると綺麗な顔立ちをしている。
――いやいや待て待て。
何考えてんだ僕も。まあでもその時は、なるようになれだと思っている自分もいる。
「まだまだ大変な事は山積みだけど、皆で頑張って行こう。四人がかりなら、一つの願いを叶える事ぐらいわけないさ」
ようやく長い七夕が終わった。
本当にあの世界は僕らの願いが生んだ世界だったのだろうか。
結局本当の所は神のみぞ知るで、誰にも分からない。けど、僕らの願いが運命の流れを変えたのはきっと事実だ。
幸せは誰にだって訪れるものだと、彼女にちゃんと教えてあげないと。
願いの檻 完




