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Loop end 1

「家に帰りましょう」


 僕は香椎の姿をした母さんと教室を抜け出し、家へと向かっていた。


 全てを思い出した時、まず全てを信じる事が出来なかった。

 この世界が繰り返している理由。

 そのきっかけは7月7日と、今日転校してくる香椎静華だった。だが現実は思っている以上に残酷で無残なものだった。

 僕と母さんは彼女に殺された。そして最後には家ごと燃やされた。それはもはや鬼畜の所業だった。

何故僕らがこんな目に合わないといけなかったのか。その理由は僕の言葉と、彼女の凄惨な家庭環境のせいだった。


 僕も母さんも静華も、このループの中でそれぞれ体験してきた記憶から答えを紡ぎ出した。

 僕は香椎をずっと見てきた。残っている記憶の中では、ほとんどアクションは僕から起こしていたように思う。しかし香椎の方から声を掛けてきた記憶も残っていた。


『優翔』


 彼女はいきなりそう呼んだ。その時の僕はおそらく分かっていなかったはずだ。しかしまさかその呼びかけが母からのものだったなんて。

 記憶を重ねこの世界の仕組みを理解しだした時、自分の中に強く脳裏に焼き付いていたその時の香椎、いや母さんの声と表情が自分に何度も語り掛けてきた。


 直感で分かった。あれは母さんだ。

だが、常に母さんではなかった。香椎は香椎自身である時と母さんである時を不規則に繰り返していた。


 何故そんな事になっているのか。何の運命のイタズラなのか。

 自分を殺した人間として生を繰り返す。


 ――全部、夢なのかな。


 だとしたら、どこまでが夢なのだろう。ならば僕や母さんが死んだ事も、夢であってくれないだろうか。

 でもそうなったら、香椎静華という存在自体も夢になるのだろうか。


「終わりにしましょう。答えは出てる」


 母さんは強く言い切った。


「うん」





『皆が幸せになれば、きっと終われるはず』


 母さんの考えはこうだった。

 僕、母さん、そして香椎。全員が幸せに繋がれば、無事にこの世界を終わる事が出来る。


『今日は七夕よ。願いを届けるにはうってつけだわ』


 僕は分かったようで分かっていなかったが、短冊に願いを書いて吊るした、幼い頃の事を思い出した。


“かぞくが ずっとしあわせでありますように”


 僕は母さんが好きだ。父さんが好きだ。家族が好きだ。

 だが香椎は違った。


 香椎と共に身体を共有してきた母さんは、彼女の過去を見た。

 彼女は父親にも母親にも愛されてこなかった。死にたくなるような苦痛を何度も、本来なら愛情を注いでくれるはずの両親から受け続けてきた。

 そして彼女は最終的に、その両親にきっちりとかたを付けた。二人を包丁で滅多刺しにして殺し、家ごと焼き払ったのだ。

 見事に復讐を遂げ、最悪の檻からようやく脱した彼女だったが、周りの目は冷たかった。

 悪魔の子。

 彼女は周りからそう呼ばれ、忌み嫌われた。自分を守るためにしたことなのに、誰も彼女を理解しようとしなかった。

 理不尽が彼女を歪めたのは当然の結果だった。


 香椎は幸せを心底憎んだ。

 自分は幸せになれない存在だ。ならいっそ周りの幸せを破壊してやる。

 そうして、僕は不用意な言葉を吐いたせいで彼女に目をつけられた。


「どのみちうまくいかなかったらやり直しか、もしくはこの子に殺された後の現実に戻ってしまうかのどちらかよ。生きているこのチャンスを活かすしかない」

「そうだね」


 僕達がやろうとしている事。

 それは、自宅にいるであろう母さんの身体に母さんを戻すことだ。

 今母さんの意識というか魂みたいなものは、どういうわけか香椎静華の身体の中に宿っている。しかし母さんが完全に香椎の身体や意識を支配しているわけではなく、香椎の意識はちゃんとそこにも存在しており、身体も精神も完全に香椎のものになっている時もある。つまり香椎もちゃんとそこにいるという事だ。

 ならば、母さんはどうなっているのか。母さんは今どこにいるのか。普通に考えれば家にいるはずだ。現に僕は何度かこの世界でも家にいる母さんを見ている。

 

 今考えるとあれはどういう状況だったのだろか。あの時、母さんの身体は誰の意識で動いていたのだろうか。考えられたのは、母さんの身体も香椎と同じ状況なのではないかという事だ。つまり、母さんと香椎の意識はそれぞれの身体に半分ずつ入っているような状況になっている。

 だったら、それぞれの身体と意識を正しい状態に戻せば――。


 家に着いた。まだ燃やされる前の無事な状態だ。


「大丈夫、優翔?」

「うん」

「おそらく、向こうにあの子がいるわ。気を付けて」


 ふうーっと息を吐く。

 覚悟を決めろ。今までとは違う。

 今回は全てを覚えている。自分達の状況も把握している。

 最後のチャンス。そう思った方がいいだろう。


「よし」


 ぎゅっとドアノブに手をかけた。


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