優翔 L50
「おはよう。今日は皆に新しいメンバーの紹介だ」
男子の囃し立てや冷やかし、女子からの微妙な反応。
担任の藤林の横に立つ少女を見て好奇心で沸き立つ教室の中、僕だけは冷静だった。
冷静なんてものではない。まるで凪のように、一切波立つ事なく彼女の姿を見つめていた。
「じゃあまずは自己紹介してくれるか」
藤林が転校生に促す。
ショートカットで一重の薄い顔立ちは、目立たないタイプだが整っている。
最初に彼女を見た時、僕はそんな風に思った。それは今でも変わらない。
――香椎 静華です。よろしくお願いします。
「香椎静華です。よろしくお願いします」
僕の頭の中の言葉と一言一句違うことなく、彼女は自分の名を口にし、すっとお辞儀をすると、教室内に彼女を迎える拍手が鳴り響いた。
そしてこの後、彼女は僕の隣の席に座る。
「じゃあ席は……藍田の横だな。あそこに座ってくれ」
藤林が僕の隣の席を指さす。
「運命だなこりゃ」
後ろの席の梶が僕の背中を冷やかすように小突いた。
――その通りだ。
皮肉でもなく、これは運命そのものだ。
変えようのない、永遠に続く輪廻の如き運命の輪。
彼女が僕の隣に座る。そして、一瞬だけ僕の方をちらっと見た。
「じゃあみんな、仲良くしてやってくれよな」
はーい、と数人が元気な挨拶と共に手を叩くと、もう一度歓迎の拍手が教室の中で鳴り響いた。
僕は彼女を見る。静かな横顔には何の感情も灯っていないように見えた。
――何なんだよ、お前は。
香椎静華を見るのは、これで何回目だろうか。
彼女の笑った顔を、僕はいまだ見た記憶がない。
7月7日。
今日は、何度目の七夕だろうか。




