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静華? L-1

『……ろ……え、ろ……』


 暗闇から誰かの声がした。


「初日だから緊張すると思うけど、いい奴らばっかりだから心配しなくていいぞ」


 さっと暗闇が搔き消え、気付けば目の前には歩く男性がいて何かよく分からない事を喋っている。

初日? 緊張? いい奴ら?

 

 ――どういう事?


 私はよくも分からずその男性の後ろを歩いている。というかそもそも――。


 ――ここは、どこだ?


 私をきょろきょろと周りを見渡す。この感じ、ひどく見覚えがある。

 懐かしい。そうだ、とても懐かしい。


 ――学校?


 私はどうやら学校にいるらしかった。でも何故学校に。という事はこの男性は担任お先生か。そこでふと視線を自分の身体に向けた。


「え!?」


 思わずあげた声に先生がくるっと首をこちらに回した。


「おいおいどうした香椎。大丈夫か?」

「は、え……か、かし?」

「おいおい、ほんとに大丈夫かお前?」

「だい……いや……」


 どういう事だ。何がどうなってる。


「香椎。緊張するのは分かるが落ち着け。こういうのは最初が肝心だからな」


 まただ。また「かしい」と言った。


「かしい……」

「なんだ? 緊張しすぎて名前も忘れちまったのか? ほーら落ち着け落ち着け」


 先生は呆れたように笑いながら私の肩をぽんぽんと叩いた。


「お前は香椎静華。今日から転校生としてこの咲良峠高校2-3のクラスメイトとしてやってきた。ちゃんと理解できてるか?」

「……は、はい」

「よし、教室に着くぞ。一回、いや三回ほど深呼吸しておけ。その様子じゃ皆にからかわれちまうぞ」


 がらがらっと先生は2-3と書かれたクラスの教室の扉を開いた。

 香椎静華。転校生。咲良峠高校。

 並べられた単語が頭の中で暴れ回り、脳組織を壊さんばかりに暴れ狂った。


 ――ちょっと待って。待ってよ。


 しかし、先に入った先生はまだ教室の外にいる私を見て早く来いと手招きをした。

 

 ――誰かちゃんと教えてよ!


 教室に入ると何十人もの生徒達が一斉に私の方を見た。訳も分からず好奇な視線に晒され、思わず急激なストレスに大声で喚き散らしたい衝動に駆られる。

 心の中でどれだけ叫ぼうか答えは帰ってこない。だったらここで同じ言葉を本当に口に出してやろうか。そうすれば誰かが何か教えてくれるだろうか。


 ――これは、夢か?


「おはよう。今日は皆に新しいメンバーの紹介だ」


 混乱の極みにある私の事など構うことなく、先生は話を進めていく。


「じゃあまずは自己紹介してくれるか」


 ずっと置いてけぼりだ。いい加減にしてくれ。そう思いながら、私はさっき教えられた名前を口にした。


「……香椎静華、です。よろしくお願いします」


 頭を下げると教室に拍手が起きた。

 何も知らない私の事を、何も知らない生徒達が歓迎する。その光景があまりに滑稽でもういっそ大声で笑い飛ばしてやろうかとすら思えてきた。


「じゃあ席は……藍田の横だな。あそこに座ってくれ」


 ――……藍田?


 私はよろよろとその子の席の隣に座る。前を見つめる藍田と呼ばれた少年の横顔を見つめた。


「ん?」


 藍田少年がこちらを振り向いた。私は慌てて目を背けた。まじまじと見つめていた事に気付かれたか。

 頭の中は以前混乱でぐちゃぐちゃだった。ただ今置かれている状況の中で、何故か知っている事もいくつかあった。


 咲良峠高校。

 2-3クラス。

 そして、藍田と呼ばれた私の隣の男子生徒。


 ――何がどうなってるの。


 頭の中ではまる部分的なピース。でもそれが何を意味しているのか、依然として私には分からないままだった。


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