真優 4
「はぁ」
「どうした真優。疲れた顔して」
「ん? んー。子育てって難しいなぁって」
「おいおいそんな不安を口にするなんてらしくないな」
言いながら史徳は冷蔵庫から取り出したビールを注ぎ、返事も聞かずにことりと私の前にグラスを置いた。
「勝手に部屋の掃除したら怒られちゃった」
「お前、勝手にあいつの部屋に入ったのか?」
「だってあの子、あんまりにも部屋掃除しないもんだから」
「はは、そりゃ怒るよ。もう中学生だぞ」
「なんだか口調も生意気だしさ」
「もう中学生だからな」
「変にカッコつけちゃって」
「もう中学生だからな」
「中学生で片づけていい事なの?」
「むしろ片づけちまった方が俺達の為だ」
「何それ?」
「こじらせてる今の自分を死ぬほど恥じる瞬間が来る。俺達が手を下さなくてもな」
「それって育児放棄?」
「放任と言う名の自由主義だ」
「いーのかなーそんなんで」
「大丈夫だよ」
「なんで?」
「だって俺達の子だろ?」
「せこいセリフだけど、嫌いじゃないんだなーそういうの」
ぐびっとビールを喉に流し込んだ。しゅわっとはじけた炭酸が苦味と共に身体の中へ流れ込んでくる。
何もかもが順調に進む事などない。人生は躓いたり転んだりの連続だ。起き上がるから転ぶのか。なら、ずっと転んでいた方が楽じゃないのか、なんて考えたりもする。
地面に寝そべり続ける人生はさぞ楽な事だろう。でもそうならないのは、起き上がった先にまた希望があるからだ。絶望したってそれを塗り替えてくれる、家族がいるからだ。
「あんまり目に余るようなら、鉄拳の一発でもお見舞いしてやるよ」
皮肉にもそう口にした次の週、ちょっとした事で言い合いになり、優翔が史徳をハゲ呼ばわりした事で未来は現実となった。
大丈夫よ。昔よりは薄くなってるけど、あなたは決してハゲてなんかない。




