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希少種の圧倒的な強さ

 目前にある何かの模様が描かれた両開きの扉の前で深呼吸を数回。


 福岡の迷宮でも同じ模様の扉を何度か見たことがあるが、殆どの場合、その向こう側には階層のボスが待ち構えている。

 

 自衛隊員の人が福岡迷宮の一階層ボスをごり押しして倒した直後に入った時だけは何もいなかった。


 これはわかりやすく言うならボスには再出現時間というものがあり、一度倒したら復活するまで一定の時間がかかるというものがある。


 ただのボスならば問題ない。

 

 しかし、スタンピード時では話が変わる。


 スタンピードをボスを倒すことで終わらせた国の話では通常時のボスとスタンピード時のボスの強さが段違いらしい。


 スタンピード時のボスを倒した人物が、その後通常時のボス問戦ったら弱すぎて雑魚かと思うほどだったとその国の政府に言ったらしい。


 故に油断はできない。


 できることなら万全の状態で挑みたいが、ゆっくりと休んでいる時間はない。

 外では楪さんや自衛隊員が今も戦っている。

 

 だが、ここへたどり着くまでの戦闘で蓄積された疲労を少しでも減らしておきたい。


 数回の深呼吸で乱れた息もある程度は落ち着き、覚悟を決めて扉を押し開く。


 扉を開けた瞬間、空気が変わった感じがした。


 空気が重くのしかかり、部屋の奥からあふれ出す威圧感は肌を突き刺すように刺激し、圧倒的な強者のオーラを放っていた。



 これほどとは思っていなかった。


 正直やばいかもしれない。


 楪さんがいてようやく可能性が見えてくるレベル。


 しかし、今この場には俺一人しかいない。



 逃げることはできない。


 すでに扉は開いてしまっているため、今逃げだすと奥にいるボスは外まで追いかけてくるだろう。


 外で戦えば楪さんがいるが、戦闘中にボスが周囲の人を襲いだす可能性もある。


 やるしかない。



「――必ず倒す」



 一言、つぶやいて覚悟を決め、部屋の奥へ向かっていく。



 静かな部屋に俺の足音が響き渡る。


 ボスの姿が目に入る。

 長く、鋭く伸びた二本の牙。豚のようにつぶれた鼻。赤い体毛を纏ってはいるが、オークで間違いないだろう。


 俺の知っているオークよりも二回りは大きく、足や腕などは俺の胴体よりも太く、攻撃がかすっただけでもやばそうで、生半可な攻撃は効かないだろう。


 本来ならば相手の動きを見てから行動する後手のほうが得意なのだが、今回はなるべく相手に行動させたくなかったため、俺が先に動く。


 普段のオークを攻撃するときの倍の魔力を短剣に纏わせ、オークへ切りかかるがオークの薄皮一枚傷つけることはできず、鉄に短剣をぶつけたような重い感触だけが返ってくる。


 効かなかったのを確認した俺はすぐにオークの間合いの外へ離脱する。


 その間、オークは攻撃してくるわけでもなく、ただ佇んでいた。


 予想以上にシールドが固い。


 シールドとはマモノが持つ攻撃を無効化する能力のことであり、魔力がこもっていない攻撃はすべて無効化する効果がある。


 ゴブリンのシールドならば魔力がわずかにでもこもった攻撃ならば貫通することができるが、ゴブリンよりも強いオークなどになると、ある程度の魔力がこもった攻撃まで無効化する。

 これは敵が強くなればなるほど無効化できる範囲と、無効化できなくても攻撃を軽減させる範囲が広がっていく。


 魔法なら効くか……?


「切り裂け、鋭風刃」


 込める魔力は先程の攻撃時のさらに倍。


 詠唱を終え、体内の魔力が一気に消失すると同時に、風の刃がオークへ襲い掛かる。


 いつもならば複数の刃が襲い掛かるが、今回は一つに集中させた。


 これなら――ッ!



 シールドは貫通した。

 したが、かなり軽減されているのか表面を軽く切り裂く程度。わずかに血が流れだしているがダメージを与えたとは言い難い。

 


 魔法が直撃したオークはこの程度かと言うがごとく、にやりと笑いついに動き始めた。


 魔法なら貫通できるが、燃費が恐ろしく悪い。今の消費量でこの程度となると魔法でオークを倒すことはできないだろう。


 魔力を纏わせての物理攻撃では100の魔力を纏ったとしても100すべて消費するわけではない。纏っている間1ずつ消費していくような感じのため、魔法よりは燃費がいい。

 魔法はそのまま100の魔力を込めたら100の魔力を一瞬で消費する。



 魔法がダメとなると、物理攻撃でシールドを貫通させるしかない。


 今まで戦ってきたマモノでシールドを貫通できなかった敵はいなかった。


 攻撃が通じないという恐怖を再び味わうことになるとは思っていなかった。



 オークはゆっくりと歩き近づいてくる。


 丸太のように太い腕を振り上げたのを見た瞬間、我に返り、後ろへ飛んだ。


 俺が飛ぶとほぼ同時にオークの腕は振り下ろされ、石でできた床にひびが入る。


 後一瞬遅れていれば確実に死んでいた。


 さらにバックステップでオークから離れる。離れるがオークからは一瞬を目を外さない。


 オークとの距離は十メートル前後。


 一瞬だった。


 オークが動き始めたと思った次の瞬間には目の前にオークが来ていた。

 

 横から迫りくる腕は俺の頭部を狙っていた。

 

 オークから一瞬たりとも目を離さなかったおかげで何とか反応でき、咄嗟にかがんで避ける。


 目の前にはオークの足が迫ってきていた。


 転がるように横に飛んでかわす。



 固有能力の狩人の瞳のおかげか動きはすべて見える。見えるが、体が追い付いていけておらず反応が遅い。



 

 これでダメならどうすればいいのかわからない。

 俺はすべての魔力を己の持つ短剣に纏わせる。体内に流れる魔力をすべて短剣へと集めたため、体が少し重く感じる。


 全魔力を纏っているせいか、目に見えて魔力が減っていくのがわかる。


 今この時も魔力は消費されている。


 短剣をしっかりと握りこみ、今度は俺から距離を詰める。


 当たらずともかするだけでも死にそうなオークの振り下ろし攻撃を躱し、その腕に一閃。


 貫通は――していない。


 ゴブリンの腕にはかすり傷一つついていなかった。


 それを確認した俺はすぐに短剣に纏っていた魔力を体内へ戻す。


 戻ってきた魔力は纏った魔力のおよそ半分。


 普段なら数時間魔力を纏ったままでいられるが、さっきは一分に満たない時間で半分。


 俺の直感が何かあるといっている。


 魔力を纏う量によって消費される速度が違うのか?


 いや、保有している魔力と纏った魔力の割合か……?


 そんなことは今はどうでもいい。

 問題は全魔力を纏っても効かなかったということ。


「纏っても……?」


 纏うということはただ、魔力を身に着ける。この場合だと短剣に絡ませて、まきつけているだけ。


 いうならば剣を鞘に入れた状態で戦っているような感じなのか……。


 今までのマモノはそれでも倒せて来ていた。


 しかし目の前のオークには剣を鞘に入れた状態では効かない。


 かといって魔力という鞘を取っても攻撃はシールドに阻まれて通じない。


「そういうことか」


 剣を鞘に入れた状態で斬れればいい。


 ただ纏わせていた魔力を刃のように薄く鋭く形を作ればどうだ。


 魔力自体が一つの刃となる。



 希望が見えてきたからか、体が軽く感じる。


 オークの攻撃をよけながら短剣に半分程度の魔力を纏わせ、それを薄く鋭くイメージしていく。


 魔力は目に見えるものではないため、うまくできているかどうかはわからないが、一応イメージしながら作り上げた。



 オークの胴体へ短剣を振り抜く。


 何の感触もなかった。

 

 まるで空気を斬っているような感覚。


 短剣はするりとオークの胴体を通り抜けた。


 一瞬遅れて、血が噴き出す。



 ――――これだ



 そのまま勢いを殺さず二度、三度とオークを攻撃し、オークの姿勢が崩れたところを狙い、首を切り落とす。



 あんなに苦戦していたオークの頭部が石造りの床に転がった。


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