国内二つ目の奈良迷宮の初期スタンピード
既に投稿されている話の誤字脱字や加筆は12/23に予定しています。
「私は迷宮出現後の初期対応を行ったなら自衛隊の指揮を執っていた遠藤です。迷宮対策隊の七海殿と楪殿、来てくれて本当にありがとう。我々には対処できる力がない。すまないが、力を貸してほしい……」
ヘリを降りてすぐにこちらへ向かってきた軍服を身にまとった四十代と思われる男は一回り以上年が離れている俺たちにためらいなく頭を下げてきた。
「迷宮関係は任せてください。そのための部隊ですから」
国内二つ目の迷宮。マモノが市街地へ漏れ出せば、大惨事となる。
マモノによる一方的な虐殺などさせるわけにはいかない。
故に――
「――失敗はゆるされない。楪さん、魔法の使用を許可します。楪さんは魔法主体で動いてください」
「わかりました」
本当ならば民間探索者制度が導入されある程度落ち着くまでは魔法の存在を世間には隠しておく予定だったのだが、今は出し惜しみしている場合ではない。
「それと、今すぐ治療しないと命にかかわりそうな怪我をしている人はいますか?」
「ケガ人は出ているが、命にかかわるレベルの者はいない」
「わかりました。では俺たちはこれから戦闘に入ります」
バリケードの内側へと入っていく。
ゴブリンの攻撃でも、まともに食らえば致命傷となる。ゴブリンよりも強い敵の攻撃ならば死ぬ可能性も高い。
しかし、バリケードの内側――戦場へと足を踏み入れたにもかかわらず、俺には怖いといった感情はなかった。
俺がやらなければいけないという使命感により一時的に感覚がマヒしているだけなのか、俺がただおかしいだけなのかはわからない。
それでも恐怖を感じずに済むのはかなり大きい。
前方から走って近づいてきて、襲い掛かってきたゴブリンの首を短剣で切り裂く。
ゴブリンは首から血を吹き出しながら地に崩れていき、しばらく痙攣したのち動かなくなる。
同族が瞬殺されたことに気が付いたゴブリンたちは、今襲っている相手を無視してこちらへ向かってきはじめる。
あっという間に俺の周囲は十数匹のゴブリンで埋め尽くされるが問題はない。
「凍てつけ、氷水晶!」
楪さんの声が辺りに響き渡ると同時に、俺を囲んでいたゴブリンたちは全員氷漬けにされ、ただの置物となる。
「楪さんはここで迷宮から出てきた敵の対応をお願いします。俺は中に入ります!」
迷宮は出現時必ずスタンピードを起こす。スタンピードは一定時間経ち収まるのを待つか、一階層のボスを倒すことで終わる。
収まるまでの時間は迷宮によって変わり、早ければ一日、遅ければ数週間続くこともあるため耐えて収まるのを待つという選択肢は取りたくない。
これは他国で実際にあった例だが、最初、ゴブリンだけしか迷宮外に出てきていなかったため、迷宮に出てきたマモノのみ対処して収まるのを待っていたが、一階層のボスよりもはるかに強い桁外れのマモノが出てきて都市が滅んだ。
軽く見た限りだが、まだ迷宮の外にはゴブリンしか出てきていない。
行くなら今しかないだろう。
「わかりました。七海くん、気を付けて……」
「楪さんは外のマモノが片付いたらケガ人の治療をお願いします」
言い終わると同時に俺は既に遠くにうっすらと見えている迷宮の入り口に向かって走り出す。
「グギャッ!」
「ギャガッ」
ゴブリンの集団が、俺を迷宮に近づけさせまいと襲い掛かってくる。
意外と知能は高く、ゴブリン同士でタイミングを合わせて襲い掛かってきており、狙いも避けにくい箇所を狙ってきているが俺には関係ない。
ゴブリンの攻撃をすれすれで避けながらお返しを一撃ずつしていく。
ゴブリンの集団を通り抜けたら振り返ることなく、走り続ける。
一組、また一組とゴブリンの集団を壊滅させようやく迷宮の入り口へとたどり着いた。
この一か月間、毎日戦い続け、トレーニングも行ってきたおかげか、多少疲れたが、息は切れていない。
真冬真っただ中で寒かった体もいまではいい感じに温まってきていた、
探検にこびりついたゴブリンの血を振り払い、迷宮の中へと入っていく。
迷宮の中は、福岡の迷宮とほぼ同じであり、人工的な石造りの壁、壁の出っ張りにともされた灯り。
頼れる味方はおらず、いるのは迷宮の奥から溢れでてくるマモノのみ。
マモノを倒しながら奥へと進んでいくが、奥へ進むほどマモノの密度が濃くなっていく。
ゴブリンは大体一匹から六匹で一つの群れとして動いているが、今では複数の群れが同時に襲い掛かってくる。
休む間もなく動き続けていたため、息はだいぶ上がっており、疲労感もやばい。
しかし、目前には大きな両開きの扉がある。
おそらくこの向こうにボスがいる。
俺は両開きを扉を開いた。