同僚の元OLが■■になった
歩き続けて一時間。何度か敵と戦闘になりかけたが、敵の声や通路の明かりなどで事前に気が付けたため戦闘を回避できていた。
しかし、今回は避けられそうにない。
分かれ道の片方を選び進んだら小部屋があって行き止まりだった。
そして運悪く、そこへゴブリンが向かってきている。
醜いゴブリンの声は一つだけ。
逃げる場所はない。やるしかない。
「楪さんは奥に。俺がやります」
相手は女性の天敵とも言っていいゴブリンだ。それも楪さんは電車内でゴブリンに襲われている女性も見ている。なるべく近づかないようにしてあげたい。
俺は背負っていたリュックを床に下ろし、部屋の入り口の隣でゴブリンが入ってくるのを待つ。
緊張しているせいか、汗でバールが滑りそうになるがしっかりと握りこむ。
ゴブリンの足音が聞こえる。
地面は土のため音は小さいが少しずつ近づいてきているのがわかる。
一歩、まだだ。
一歩、もう少し。
一歩、近い。
一歩、来たッ!
ゴブリンの体が目に入った瞬間、俺はバールを大きく振りかぶり、先端が曲がりとがっている方をゴブリンの顔めがけて振り抜く――。
「グギャッ!?」
鈍い音が部屋に響き渡り、ゴブリンは後方へ吹き飛ぶ。
――やばい
俺はちゃんとバールが刺さるように先端をゴブリンの顔面に当てた。
しかし、ゴブリンはただ二メートルほど吹き飛んだだけ。
バールには血らしきものは一切付着していない。
起き上がろうとしているゴブリンへもう一撃。
バールを顔面で受け止めたゴブリンは地面を転がるが、ダメージを受けているようには見えない。
――どうするッ!?
「七海くん!!」
すでにゴブリンは立ち上がってこちらへ向かってきていた。
武器は持っていないが、それでもこちらの攻撃が通じない今状況は悪い。
飛びかかってきたゴブリンの攻撃をバックステップでかわす。
ゴブリンを部屋の中央まで誘い込んで俺が気を引いている間に楪さんを逃がすか?
いや、ほかのゴブリンと戦闘になったらどうする?
ゴブリンの首を絞めて窒息させる?
ゴブリンの身体能力によるか……?。
何か方法はないか、考えながらゴブリンの攻撃を捌いていく。
基本的によけれる攻撃はすべてよけ、厳しいやつだけバールで受け止めるか、ゴブリンを殴って攻撃をそらす。
余裕があればバールで攻撃するが効果は見られない。
戦闘が始まって五分。
休む間もなく動き続けていた俺は息が切れ、体力が尽きかけていた。
息が続かない今も攻撃をよけるために動き続ける。
きつい、苦しい。
しかし、後ろには楪さんがいる。
「……七海くんの攻撃が通じますようにっ」
最初は励ましや応援といった内容だったものがついに祈りへと変わった。
迫りくるゴブリンの大ぶりの攻撃にタイミングを合わせてバールを振りかざす。
ゴブリンの顔にバールがめり込み、赤い液体が飛び散った。
「えっ……?」
攻撃は効かないだろうと思って攻撃していた俺は驚きのあまり、動きが停まる。
戦闘時なら間違いなく致命的な隙。
慌ててゴブリンを確認するとわずかに痙攣した後、動かなくなった。
今までの攻撃と何が違った……?
攻撃する場所?
いや、顔は何回も狙っていたから場所は関係ない。
カウンターで攻撃したから?
それもすでに何回か試している。
一定回数の攻撃を無効化とか?
あり得なくはないが勘が違うと言っている。それにゴブリンがそんなヤバイ能力を持っていたらもっと強いやつはどうなるんだ……、世界が一瞬で滅びる。
一体何が……ッ!?
そういえば攻撃する直前、楪さんの応援が祈りに変わっていた。
ファンタジー系で祈りといえば回復、支援。
支援、敵にダメージを与えるようになる。もしくは無効化能力を無効化する祈り……?
試してみるか……?
いや、わざわざ敵を探してまで試す必要はない。今大事なのは脱出することだ。出会わないなら倒す必要はない。
「七海くん! 大丈夫ですか!? すぐに傷の手当てを……!」
楪さんが駆け寄ってきてリュックをあさり始める。
「このくらいなら大丈夫です。少し休憩したらいきましょう」
「わかりました。えっと……あった。はい、水とタオル」
水とタオルを受け取り、一息つく。
「はぁ……。楪さん、もしかしたらですが、楪さんの祈りが敵を倒す鍵かもしれません」
「私の祈りが、ですか……?」
「そうです。攻撃箇所やタイミングなどいろいろ考えてみたんですが一番しっくりくるのがこれです。ゴブリンやダンジョンらしき存在がある今、魔法やそれらしきものが存在していてもおかしくはないと俺は思っています。それならば祈りにも特別な力があるのではないか、と……」
「わ、私にそんな力が……。あ、もしかしてステータスとか見れちゃったり――っ!?」
しゃべっている最中に前触れもなく驚いている楪さんをみて、もしかしてと思い俺も試してみる。
「ステータス」
名 前:七海 セイ
称 号:NEW 人類初反撃者/NEW 聖女の守護者
固有能力:狩人の瞳……遠くまでよく見え、早い動きにもついていけるようになる。
ますますゲームっぽくなってきたなこの世界……。
まぁ見えないよりは見える方がやりやすくていいんだが。
「私の固有能力が原因みたいです。聖女の加護、祈ることによって対象へ恩恵を与えるそうです。この能力のせいか称号に至高の聖女というものが……」
「俺の称号には人類初反撃者というものと、聖女の守護者がありました。おそらくさっきの戦闘が原因かと。とりあえず効果があるのかどうかはわかりませんが、称号の名前的には悪いことは起こらないと思います。そろそろ息も整ったので行きましょうか」
「はい! あ、ちょっと待ってください……。七海くんの疲労がなくなりますように……」
楪さんが祈りの姿勢で手を組んで言い終わると同時に疲労感が少しなくなった気がする。
「どうでしょうか……?」
「ありがとうございます。少し楽になった気がします」
楪さんの固有能力応用効きすぎない……?
同僚の元OLが聖女になった
なろうで聖女っていうと15歳~18歳くらいが多きがするけど楪さんは聖女(23歳)だ。なんかいいよね。大人な感じが……。