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ふたりの。  作者: 須羽ヴィオラ
発端
9/49

発端 #4

 『それ』は、光りがさすように私の元に届けられた。


 @%◇ $◎ #&☆彡


 風景画の続きを描くために、街並みを追っていた私の目に何かが映った。


 『それ』は輝きだったろうか。煌きだったろうか。

 私の受け取った印象は『誰か居る…』という感じ。

 遠くのマンションのベランダに人影を見たとき。

 ビルの屋上に人のシルエットが動くのを発見したとき。

 そんな時に感じる『誰か居る…』という感じ。

 無機質な人工物の風景の中に、人や生き物を見つけたとき、自然と生気のある方

に視線が向く、あの感じだ。

 でも、実際に人の姿が見えたんじゃないんだよね。これが…。


 ココ% $◎ ◇テ☆彡


 まただ。さっきより強い、さっきより確かな印象がやってきた。

 光だったら、前より明るい光なのだろうが、眩しくはない。

 列車に乗っていて、走り去る景色の中に不意に手をふる子供を見つけた、そんな

時の感覚。あっ、直ぐに手を振り返してあげなくちゃ。そんな風に思う感じ。

 けれど、そのナニかの当たりを注視しても、何処にも人影は見当たらない。


 @%◇、メナ。キ&☆彡


「んー!?」

 三度目の感触を受け取ったときには、さすがに声が出た。

 今、ゼッタイ私の名前呼んだよね。っていうか、何か聞こえたんだっけ? 今。

 手でひさしを作り、何かのいる当りを凝視する。

 同時に、何か聴こえないかと聞き耳をたててみる。


「どしたの。ナッチ」と由美が不審がる。

「何か見える。あそこら辺に」と腕を伸ばし、その印象の方を指差してみる。

「えー」

 由美が腰を上げ、私の腕を照準代わりに、同じ方向に目を凝らす。

「オバケ病院のあたり?」

 オバケ病院とは、私の家の近くにある、むかし産院だった廃病院のこと。

 そうだ。確かにオバケ病院のあたりに見える。でも、目で見えるところには

何も動くものはない。


 @%ヨ、メナ。◇テ☆彡


「あっ、ほら。また…」

「えー? 何も見えないけど…」

 由美には見えないんだ。というか、感じないんだ。

 でも、呼ばれてるのは私なんで、由美が感じないのは正解かもしれない。

 呼ばれてる?

 そうだ、まさに呼ばれているんだ私が…、何かに。

 今すぐ、そこに行かなくちゃ行けない。そんな気がする。


「由美、ごめん。なんか、気になるから、私、確かめにいく」

「ええーっ! ちょっ、ちょっと待って。私もいく」

「いいよ、ついてきてくれなくても。何でもないかも知れないし」

「だって、オバケ病院に行くんでしょ」

「…うん」

「じゃ、一緒に行く」

「でも、由美の家と反対方向だよ」

「そんな水臭いこと言わないの。心配だからついて行くんだよ」

「えっ? なんで」

「ナッチってさぁ。時々、後先考えずに無茶するじゃない。だから、一緒に行った

方がいいと思う」


 由美。私のこと、そうな風に想ってくれてたんだ。私が由美の保護者のつもりで

いたけど、由美は由美で、私の護衛隊長を自認してくれてたんだね。

 感動ものだよ、ありがとう。由美。



 さて。今、由美と私はオバケ病院の前に立っている。

 オバケ病院があるのは、駅前通りから一本奥の道。

 オバケ病院の右隣は元学習塾、左隣は元花屋さん。どちらも、産院の廃業と前後

して、店じまいしている。そのため、無人の建物が三棟連なる形になっている。

 道路を挟んで向かい側は月極駐車場が並ぶ。電車通勤者向けの契約が多いのか、

午後のこの時間には人通りが全く無い。街灯もまばらで、昼間ならまだしも、夜は

決して一人で歩きたくない場所だ。


 オバケ病院自体は三階建ての建物で、白い外壁は比較的綺麗なままだ。

 経営者が替わってオバケ病院が再開する噂を耳にした。改装工事のためなのか、

道路に面した側には銀色の工事用のフェンスが建っている。けれども、フェンスが

出来て三ヶ月は経っていると思うのに、工事が始まる様子はサラサラない。


「なんか分かった」と由美。

「なんも」と私。

 実際のところ何にも分からない。中に人がいる様子はないし、なんらかの工事が

始まった風にも見えない。

 そもそも、私が見た(あるいは感じた)ものは人ではなくて、気配なんだから。


「中に入ってみるね」

「えー。止めなよ。そんなこと」

「でも、入ってみないとわかんないし」

「そもそも、立ち入り禁止じゃない!」

 それは私も分かってる。でも、当てはある。

 元学習塾と病院を隔てる壁と工事用フェンスの間に、人ひとり通れる位の隙間を

見つけた。


 辺りに人が居ないのを入念に確認。

「行く」

 そう言って、私はその隙間に体を捻じ込んだ。

「ああ。私も」

 とうとう由美までが、ついてきちゃった。

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