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ふたりの。  作者: 須羽ヴィオラ
真実
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真実 #3

 由美の独白は更に続く。

『終業式の日。その週、ナッチと剛ちゃんが可笑しな雰囲気だったので、恩返しの

つもりで、ナッチの悩みを聞いてあげようとした。そうしたら……

「私と剛ちゃんとはつき合ってはいない。幼馴染以上の特別な存在」

「四人は心の故郷。ずっと友達のままでいよう」

と聞かされた。

 私はそのときになって、初めて自分の思い違いに気がついたの』


『ナッチが居たから、今の私が居る。

 ナッチが居たから、岳くん達と一緒の時間を過ごせた。

 ナッチが居たから、岳くんとお話ができるようになった。

 それなのに…。 私はナッチの望んでいないことをしている。

 四人は友達のままでいよう。

 だから、私と岳くんも友達のまま……。

 それ以上の関係になっては、いけなかったの。

 私はナッチを裏切った。自分のために、ナッチを利用した。

 私は、そのことに気がついて、頭が真っ白になって…。

 だから、ナッチから

「四人は友達のままでいよう。約束だよって」

 って言われた時、私は思わず肯定の返事をしてしまったの』


『私は何も知らないナッチ対して、嘘に嘘を重ねた。

 私、どうしていいか分からなくなって、ナッチの顔もまともに見れなくなった。

 岳くんとも話せなくなった。歌うことも…。

 悩んで、苦しんで。涙が出て…。でも、それもみんな自分のせい…。

 最後に私は岳くんに全てを打ち明けて、相談に乗ってもらっていた。

 でも、その場をナッチに見咎められて…』

 由美がその思いを語り終え、何かを決意したような強い眼差しで私の顔を見る。

「私はずっと悩んで、ずっと考えて……。ある決心をした。私、岳くんと別れる。

さっき、岳くんにもそう伝えた。岳くんは、反対してるけど、ちゃんと説得する」

 由美が涙声になる。頬を流れ落ちるものを、拭おうとさえしない。


「私は平気だよ。だって、岳くんとは、前みたいな友達に戻るだけだから。岳くん

から告白されたのだって、全部、夢だったって思えば良いんだから。だから……、

だから……、お願い、ナッチ。私と、これからも……友達でいて……」

 由美が私の肩に顔を預け、泣き崩れる。

 由美の泣きじゃくる息遣いが、私の肩に伝わり、私の心を揺り動かす。


 これが、私に見えていない真実だった。


 四人は友達のままで……。

 この言葉は、剛ちゃんに対する私の思いに端を発した、私の願いだ。

 こうであったら良い、という希望だ。

 だけど、その言葉は、由美の旨の中で、どうしても実現せずにはおけない約束に

変わった。

 嗚呼。私は、どうして此れほど綺麗な心の持ち主を、苦しめていたのだろう。

「由美。謝るのは私の方だ。由美は嘘つきなんかじゃない。由美が、本当のことを

言えないように、私が仕向けていたんだ」

 由美の背中に手を回し、力を込めて抱きしめる。もう、二度と由美を離すまいと

心に誓う。

「由美。私の方こそ、お願い。私とこれからもずっと、友達でいて」

 私の胸に顔を埋めたままの由美が、大きく頷く。

 お互いの体温が混じり合うほどの間、由美と私は抱き合った。

 そうだ、私にはまだやる事がある。由美に大事なことを伝えなくてはならない。

 私は、由美を立ち上がらせ、肩を支えながら岳くんの方に歩みを進める。

 ベンチに座って私たちの様子を見ていた岳くんが、此方に歩いてくる。

 私と由美が、岳くんと対峙する形になる。

 私は由美と岳くんの手を取り、二つの掌を重ねあわせ、その指を絡み合わせる。

 由美が不思議そうに私の顔を覗く。

「由美。私から、もう一つお願い。岳くんのことを友達以上に好きでいてあげて」

 そして、私は岳くんの方に向き直り、

「岳くんにも、お願い。由美のことを友達以上に好きでいてあげて」と告げた。

「ナッチ…」

 由美の瞳が私の瞳を捉える。

「私、今やっと言える。誰が誰を好きになったって、友達は友達なんだって」

「ナッチ…」

 由美が私の肩に再び顔を預ける。由美が静かに泣いているのが分かる。

 由美の小さな肩を抱きながら、私は思う。

 これで、由美と私は本当の親友になれたんだと。

 気が付けば、私の頬も心からあふれ出た暖かいもので濡れていた。

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