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ふたりの。  作者: 須羽ヴィオラ
真実
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真実 #2

 私は走る。走る。走る。城址公園に向かって、ひた走る。

 由美が真実を携えて待っているかもしれない。

 由美と私は、また友達に戻れるかもしれない。

 私は走る。その可能性に向かって。


 息がはずむ。汗がはじける。

 熱い空気が重くまとわり着く。

 どんなに早く足を動かしても、一向に進まないように感じられて、もどかしい。

 それでも、私は走る。

 由美はきっと真実を携えて待っている。

 由美と私は、きっと友達に戻れる。

 私は走る。私の一番大切で、一番大好きな、由美に会うために。


 城址公園は、三方をお堀に囲まれているので、街中にも関わらず夏でも涼しい。

 恋人ベンチが並ぶ城跡の窪地は木立の影になっていて爽やかな風が吹き抜ける。

 私は息を切らせながら、その窪地にやって来る。

 周りを見回すと…。…居た。

 由美が恋人ベンチに斜めに座り、背もたれに置いた自分の腕に顔を埋めている。

 傍らには岳くんが立っていて、私と目が合うと、由美に私の到来を知らせた。

 由美がフラフラと私のほうに歩き出し、数歩進んだところで、顔をおおって泣き

出した。

 私は急いで由美のそばに駆け寄る。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

 由美が私に縋り付いて、同じ言葉を何度も繰り返す。

 私は由美の体に手を回し、泣きじゃくる背中を優しく撫でさする。

「由美。嘘つきって言ったのは言い過ぎた。取消す。だから、どうして岳くんとの

事を話してくれなかったのか、教えて」

 由美が私の胸の中で頷いた。

 岳くんと私は由美の体を支えてベンチに座らせる。

 私が由美の横に腰をおろすと、岳くんは私たちから離れて一つ隣のベンチに移動

した。

 私は由美の涙が収まるのを辛抱強く待つ。

 やがて、由美も落ち着きを取り戻し、ゆっくりと、その胸の思いを語り始める。


『私、中学の頃イジメにあっていた。そのせいで不登校になりかけたけど、何とか

卒業に漕ぎ着けた。そして、環境を変えるため、遠くのこの高校に入学したの。

 けれど、引っ込み思案な性格のせいで、友達の居ない一人の時間を過ごすように

なった。

 そんなとき、私に声をかけてくれたのがナッチだった。

 無口な私に根気よく付き合ってくれて、私の唇に微笑みを届けてくれた。私にも

ようやく居場所ができた。

 ナッチは私にとって一番の友達。もしナッチと出会わなかったら、私は今ここに

居ない』


 由美が私の手を握る。私も、その手を握り返す。


『けど、こんな私でも人を好きになる事がある。一年の時、理科実験室にノートを

置き忘れた。それを届けてくれたのが岳くんだった。初めは名前も知らなかった。

だけど、岳くんの事を知れば知るほど素敵な人だと分かって、気がついたら好きに

なっていた。

 その年の秋に剛ちゃんが転校して来て、剛ちゃんが岳くんと連れ立って私たちの

教室に来るようになった。そんな時、私は岳くんを遠くから眺めているだけだった

けど、あるとき目があって……、そうしたら岳くんが

「前にノートを届けてあげた子だよね?」って声をかけてくれたの。

 岳くんが私の事を覚えてくれていた。それだけで私は幸せな気持ちになれた』


 二年生になり、私たち四人は同じクラスになって、おなじ時間を共有するように

なった。運動が苦手な私は、皆と一緒に遊んだりすることはできなかったけれど、

私は岳くんの傍に居られるだけで嬉しかった。

 そして、一か月ほど前。屋上で私が三人バスケのスケッチをしていたとき、私の

音楽をやりたいという発言を、ナッチが皆に繋いでくれて、四人でバンドを始める

ことになった。

 私たち四人で一緒の事ができる。岳くんと同じ目標を持って、時間を過ごせる。

なんて素晴らしいんだろう。私は、夢の中にいるような気分になった』


『…だけど…。その後で、ナッチが発した一言が、私の胸に引っ掛かったの。

「私たち四人、このままずっと友達のままでいよう」

 でも、その時は、こんな地味な私を岳くんが好きになる筈ないから、岳くんとは

ずっと友達のままなんだ。そう思った。

 そしてバンドの練習が始まった。そしたら、自分でもビックリする位に岳くんと

お話が出来るようになった。音楽の話題、アーティストの話題、アレンジの話題。

 私と岳くんって、こんなに共通の話題があったんだって、驚いた。

 それに、岳くんとデュエットしていて目があったりすると、岳くんと心が一つに

なったように思えて、空を飛んでるような気持になる。

 そんな時間を過ごすうちに、もしかすると、岳くんも私のことを好いてくれてる

んじゃないか。そんな風に思えるようになっていった』


『そして、日曜日のバンド大会。その前日、ナッチから用事が出来て行けないと、

告げられた。大会当日には、剛ちゃんからも、行けなくなったと連絡があった。

 私も岳くんも、その事を自分達の都合の良いように解釈しちゃったの…。

 私と岳くんだけでバンド大会を見られるように、ナッチ達が気を使ってるって。

 だから……、そのバンド大会からの帰り道、岳くんから告白を受けたとき……、

私は迷わず岳くんの気持ちを受け入れた…』


 何てことだ。その日、配球記録のためにソフトの試合を見に行った。その事で、

こんな流れができてたなんて。由美と私の諍いは、私自身が作ったようなものだ。


 由美の独白は続く。

『私は、その事をナッチに真っ先に知らせよう、そう思ったの。だけど、岳くんと

剛ちゃんの間で、決まってた話があるみたいで、こう言われたの。

「この事はナッチには暫く秘密にして欲しい」って。

 岳くんも、その理由は知っているみたいだったけど、私には言わなかった。

 だけど、岳くんが剛ちゃんの希望通りにしたいと言うから、私もそうすることに

したの』


 思いもよらぬ話が飛び出した。剛ちゃんが何故そんなことを? 

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