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ふたりの。  作者: 須羽ヴィオラ
日常
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日常 #3

 遅ればせながら。


 私の名前は、佐藤(サトウ)芽菜(メナ)

 みんなからはナッチと呼ばれている。

 市内にある高校に通う17歳。

 苗字が平凡だからなのか、下の名前は奮発して考えてくれたらしいけど、草冠が

多過ぎだよねwww。

 まぁ、嫌いではないけどさ。


 私が住んでるのは、ハナヤカというほど都会でもなく、ノドカナというほど田舎

でもない、そんな何処にでもある地方都市。

 昔はさる大名の城下町だったとかで、城跡が城址公園になっている。とはいえ、

お堀と城門と土塁が残っているだけで、城と呼べるような物はどこにもない。

 私の家はその城址公園にほど近い場所に建っている。


 家から歩いて十五分程の所に、私が通う高校がある。

 高校への一番の近道は、家から北に進み裏通りを抜けて城址公園の裏門に出て、

公園を斜めに横切るコース。でも、私は東に歩いて駅前通りに向かう。その方が、

由美と一緒に居られる時間が長いからだ。


 駅前通りの一本前の道を左に曲がる。この方が少しだけ近道。この通り沿いに、

その昔は武具や馬具を扱う店があったらしい。けれど、今では駐車場ばかりが並ぶ

無味乾燥な通りになっている。

 その並びに、一種異様な建物がある。数年前に廃業した産院だ。元は三階建ての

洒落た建物だったけど、今ではオバケ病院という有り難くない名を頂戴している。


 オバケ病院を通り過ぎると、すぐに駅前通りにぶつかる。その先の信号機のある

交差点で由美を待つのが、いつもの日課。この交差点にも、改装工事のために足場

が組まれたまま放置されたビルがある。また『オバケ○○』が出来るのかと思うと

朝から気分が暗くなりそう。

 さて、私がこの交差点に着くのは、いつも8時丁度。毎日きっちりと時間通りに

行動するのが、数少ない私の取り得。

 漫画みたいに、トースト咥えて遅刻遅刻なんてシーンは私に限ってありえない。

だから、出逢いがしらにイケメン男子にぶつかるなんて、私にとっては夢の夢。


 藤咲(フジサキ)由美(ユミ)

 高校一年のとき、同じクラスになって仲良くなった私の一番の友達。

 私は、いつも由美と呼んでいる。

 私と違ってとても大人しい。それに極度の人見知り。時間に正確で几帳面なのは

私と同じ。みんなと一緒にワイワイやるのは不得手みたいだけど、一人でコツコツ

と努力を積み重ねるタイプの子だ。


「ナッチ、おはよう」

と由美の声。ほらね、言った通り時間に正確だ。

 あれっ。由美ってば、なんだかニコニコしている。

「おはよう。由美。なんか良いことあった」

「…べ…べつに」

「顔に出てるよ」

「えっ、ほんと!?」

 なんて会話をしながら歩き出す。城址公園を左に見て駅前通りを北に進むのが、

いつもの通学コース。


「ナッチ。どのパートが出来そうか考えた?」

「それがさぁ。どう考えても、ボーカルしか思いつかないんだよね」

「そっかー」

「ボーカルは由美って決まってるでしょ。やっぱり、私抜きで三人でやりなよ」

「だめだよ。四人でやろうよ。最初にそう決めたじゃない」

「でも。私、楽器出来ないしさぁ」

「ダブルボーカルの曲にすればいいよ。岳くんに聞いてみるね」

 一体全体なんの話しをしているかというと、由美をボーカルに仲の良い四人組で

バンドをやろうという話題なのだ。


 リン、リン。「「おはよう。」」

 噂をすればなんとやら、自転車のベルとともに、残りのメンバーがやってきた。


 岩政(イワマサ)(ゴウ)

 剛ちゃん。

 小さい頃、家の近所に住んでいた幼なじみ。五年生までは同じ小学校だった。

 親の仕事の都合でアメリカに行ってたんだけど、去年の秋に日本に戻ってきて、

うちの高校に転校してきた。二年生からは同じクラス。厳ついた名前だけど、実は

優しくて正義感の強い好人物。


 本山(モトヤマ)(ガク)

 岳くん。

 剛ちゃんが転校してきたときのクラスメイトで、直ぐに仲良くなったらしい。

 成績優秀、スポーツ万能、おまけに整った顔立ちで、校内に多くの女性ファンが

いるらしい。

 二年生からは同じクラス。無口で賢い人格者。


 剛ちゃんたちは自転車を降り、私と由美を挟むように歩きだす。

「岳くん、岳くん。ナッチもボーカルやりたいんだって。」

由美が早速バンドの話題を切り出した。由美と岳くんが話を始めると、剛ちゃんが

私の服の裾をチョンチョンと引っ張る。

 私と剛ちゃんはこっそり歩くスピードを落とし、由美と岳くんから距離をおく。


「なに、なに?」

 と声を潜めて私。

「あのさぁ、由美ちゃん、最近変わったろ」

 そういえば、由美は今まで岳くんのことを、本山くんとか呼んでたっけ。それに

今は敬語じゃなくてタメ口で話してるし。

「昨日、大盛り上がりだったんだぜ、ナッチも早く来ればよかったのに」

「面談が終わんなかったのよ。四谷先生、話長いから。で、どんな様子だった?」

「どんなジャンルの曲を演るかって話でさ。岳がピアノで何かの曲を弾いてみせる

だろ。そうすると由美ちゃんが、すかさずそれに合わせて歌ってみせるんだ」

「へー」

「なんか、すげー息がピッタリでさ。ずっとコンビ組んでたみたい。最後は、去年

流行った映画音楽をハモって、独演会状態」

「そうなんだ」

「言っちゃ悪いけど、由美ちゃんて四人の中でオマケみたいだったじゃん。今回、

岳がすっごい乗り気でさぁ。由美ちゃん、一躍センターになった感じ」

 そうか、それで今日は機嫌がいいんだ、由美。最近は、私達の中で影が薄かった

もんな。良かった、良かった。


 そんなやり取りをしているうちに学校に着く。剛ちゃんと岳くんは駐輪場へ行く

ので一旦お別れ。話の続きは教室でということになる。

 まぁ、こんな感じで私の学校生活の一日は始まる。

 大学受験という人生の一大事まで、一年の猶予を与えられた高校2年生。

 中には受験体勢に入ってる人もいるんだろうけど、私なんか何にもない毎日を、

これでもかとばかりに堪能している。


 今日だって、実に平凡な一日を過ごす筈、そう思っていた。

 午後の授業が始まるまでは。

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