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ふたりの。  作者: 須羽ヴィオラ
波紋
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35/49

波紋 #2

 由美と一緒に教室に入り、自分の机に腰を落ち着ける。

 私達の教室は、右側が廊下で左側が外に開いた窓になっている。

 私の席は、窓側から二番目。剛ちゃんの席は、私の一つ右側の少し前。

 だから授業中前を向くと、どうしても剛ちゃんの後ろ姿が目に入る。


 一時限目の授業が始まった。苦手だった数学の授業だ。最近は、苦手も少しだけ

克服してきたが、それでも精一杯授業に集中していないと、理解不能になる。

 そこで、前方を注視することになるんだけど、そこには剛ちゃんの背中がある。

 でも、今日に限っては剛ちゃんの方に目を向けていられないんだ、とても。


 こう書くと、私が剛ちゃんを嫌がっているように、思われるかもしれない。

 でも、そんなことはない。

 剛ちゃんを好きか嫌いかと聞かれれば、一も二もなく好きだと答えられる。

 でも、その『好き』は異性に対する『好き』とは違うと思う。

 強いて言うなら、大切な人としての『好き』が近いのかなぁ。

 茉菜は、付き合っていくうちに異性としての『好き』に変わっていくような事を

言っていたけど。私は、その『付き合う』ということ自体に抵抗がある。


 理由は自分なりに分かっている。

 私は、今のままの剛ちゃんとの関係が無くなることが怖いんだ。

 もし、剛ちゃんと付き合うことになったとしたら、幼馴染の気安さで互いの本音

がぶつかり合うことがあると思う。

 それが、もしも喧嘩に発展したら…。

 そして、もしも破局が訪れたとしたら…。

 もう以前の私達には戻れない…。今の剛ちゃんとの関係には…戻れない。

 そんなのは嫌だ。剛ちゃんと別々に生きる自分は嫌だ。そんな悲しい自分を想像

するのさえイヤ。


 だから、私は今のままで良い。

 今のままの剛ちゃんとの関係でいい。

 たとえ剛ちゃんが、他の誰かを好きになったとしても、

 たとえ私が、他の誰かを好きになったとしても。


「ナッチ、ナッチ」

 ヒソヒソ声とともに、右のお腹を後ろから何かで小突かれた。

 振り向くと、斜め後ろ席の由美が、丸めたノートで私のお腹を突いている。

「前…、前…」

 と言われて前を向くと、口をへの字に結んだ四谷先生が目の前に立っていた。

「佐藤! お前、目を開いたまま眠る特技があるのか!?」

 何がなにやら分からず

「へ!?」

 と頓馬な返事をすると。

「あのなぁ。今、数学の授業中なの。黒板に書いてる公式の名前言ってみろ」

「え、えーと。その…、春眠公式を覚えず…」

「何いっとんの、ポカプリン。それに、今はもう夏だろうが!!」


 もう、午前中の授業は散々だったよ。どうしても、剛ちゃんのことばっかり考え

ちゃうんだよね。まるで、恋する乙女じゃん、私。なんて考えただけで頬っぺたが

またリンゴ色になっちゃう。トホホ。


 授業が終わり放課後。今日は、音楽室を借りてのバンド練習の日。

 でも、その日の練習は、私のせいで酷いものになった。

 歌の出だしを間違える。歌詞を間違える。コーラスの音程を間違える。

剛ちゃんを意識しすぎたせいだ。

 明日からは進路面談なので、これが夏休み前最後のバンド練習だというのに。

 バンド練習のあと、いつもなら四人一緒に帰るんだけれども、由美と岳くんが、

アレンジについて話をしたいからと、音楽室に残ることになった。

 

 そんなわけで…。私は剛ちゃんと一緒に帰ることになる。

 校門を出て、ずっと剛ちゃんと並んで歩いているのに、まだ会話が無い。

 剛ちゃんの横顔をチラ見しながら、歩みをすすめる。

「ナッチ。今日、どうしたんだ」

 ふいに剛ちゃんに話しかけられた。

「な、なんのこと…」

 としらばっくれてみる。

「なんか、朝から様子が変だ」

「そんな…こと…。何でもないよ」


 様子が変なのは本当。

 けど、その原因が剛ちゃんだなんて、口が裂けても言えない。

 自然、私は口をつむぐことになる。

「ナッチ。もしかして、バンド活動に興味なくなった?」

「えっ!? 何でそんなこと聞くの?」

「だって、さっきの練習。上の空だっただろう?」

うう。それは、その通りだ。返す言葉もない。

「ナッチってさ、何かやり始めると、初めは熱心なんだけど、一通り出来るように

なると急に熱が冷めちゃうだろ。子供の頃はそうじゃなかったのに…」

 情熱が続かないのは、あのバスケ部での一件が、私に影を落としているからだ。

でも、今日の私が変なのは剛ちゃんを意識したから…。だけど、その事は言いたく

ない。

「何があったか知らないけど、バンドはちゃんとやろうぜ。さもないと、岳と由美

ちゃんが悲しむ」

 そうだ。もし、わたしがバンドを辞めたら。由美も辞めるって言いだす。

 それだけは、避けなくてはいけない。でも、わたしはどうすれば…。

「悩んでることがあったら言えよな。きっと力になるから」

 ありがとう。剛ちゃん。私のこと、一番よく観てくれてるのは剛ちゃんだ。涙が

出るほど嬉しい。でも、今のこの悩みは…剛ちゃんには話せないんだ。

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