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ふたりの。  作者: 須羽ヴィオラ
日常
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日常 #2

 ピピピピピッ、ピピピピピッ、ピピピピピッ。


 朝を告げる電子音が、遥か遠くから聞こえる気がする。

「うぅぅん」

 その音に抗うように、ベッドの中で小さな寝返りを打つ。


 私、早起き競争でアラーム音に遅れをとるなんて、ほとんどない。

 いつだって、眩しい朝の光とともに、目覚まし時計にはお休み頂くのだ。

 でも、今朝だけは違った。

 実をいえば、かなり前から目覚めている。けれど、ベッドから抜け出せないまま

でいる。それも眠気でベッドに縛り付けられているわけじゃない。さっき見た夢の

せいなんだ。


 今日だけじゃない。ここ何日か、ヘンテコな夢ばかり見ている。

 今朝の夢ではソフトボールの試合でサヨナラホームランを打った。昨日はバスケ

の試合で、終了間際に3ポイントを決めて逆転勝利する夢。一昨日の夢は…、よく

覚えていない。

 でも、共通しているのは最後にもう一人の自分が現れて、美味しいとこを横取り

されてしまうところ。しかも、周りの誰もがその事に気が付かないでいる。

 なんでこんな夢を見るのだろう。ていうか、なんでこんなに夢のことが気になる

のだろう。

 実は、答えは分かっている。三日前のアノ出来事が心に引っかかっているんだ。

 アノ出来事があってから、何処かにもう一人の自分が潜んでいるという考えが、

頭の隅にこびり着いている。

 私自身、あまりクヨクヨしない性格だと思っていた。でも、本当はそうでもない

らしい。三日前のアノ出来事、夢の中の出来事が頭の中でドヨドヨと絡みあって、

なかなかベッドから出られないでいる。


 ピピピピピッ、ピピピピピッ、ピピピピピッ。

 スヌーズのアラームが起床の催促をする。

 頭にまとわりついたモヤモヤを振り切るように、ベッドに上半身を起こす。

「ふぅっ」

 ため息をテコ代わりに立ち上がる。

 フローリングがヒヤリと冷たい。


 おそるおそる、姿見に自分を映してみる。

 ピンク地に白の水玉の夏パジャマ。裾から延びるスラリとした足。ちんまいけど

女の子らしい柔らかいボディライン。ちょっとだけ長い首の上には、卵型の可愛い

らしい顔(ここ、自己採点w)。髪の毛にはいつもの見慣れた寝癖。

 うん。間違えようがない。毎朝見る私だ。


 ウー、アー、エー。鏡の前で変顔を作ってみる。これまた自分の変顔。

 鏡に顔を近づけ、おそるおそる

「芽ー、菜ー」

 と自分の名を唱えてみる。大丈夫問題なし、ちゃんと自分の名前を言っている。

 最後にニッコリ笑顔をこしらえる。我ながら綺麗に整った形の唇、出来る事なら

自分でキスしてみたいくらい。

 って、そんなことを考えるから、あんな夢を見るんだ。

 そう。みんな夢なんだ。三日前のアノ出来事だって、ただの夢。きっと、白日夢

とかいう奴に違いない。

「う、うーん」

 ふっきるように伸びをして部屋を出る。顔を洗い口をすすいで、いつも通り朝の

ルーチンをスタートさせる。


 我が家の早起き組は私とお父さん。お母さんは低血圧とやらで、起きてくるのは

いつも最後。そんなお母さんを起こさぬよう、静かに階段を下りる。階下にはまだ

誰も居ない。どうやら、今朝は私が一番らしい。

 我が家の朝食は、ごはん以外を銘々自分で用意することになっている。

 気が向けば、私もお父さんも三人分のオカズを作ったりもする。まぁ私の場合、

目玉焼きか焼き魚、良くてハムエッグくらいのもの。今日は遅いので目玉焼きだ。


「おはよう」

 お父さんが起きてきた。

「おはよう」

 軽く挨拶を交わす。

 お父さんが台所の様子を見て、黙ってシジミの味噌汁を作り始めた。

 ほんと口数は少ないけど小まめに動くんだよね、この人は。


 無口と言えば、私、親から勉強のことで小言を言われたことが一度もない。

 いや、勉強に限らず、親子の会話が小言や説教に結びつく事は滅多にない。

 両親そろって、「とにかく、無事に育ってくれればいい」が口癖。

 私が何か間違いをしでかしても、丁寧に間違いを正すやり方を教えてくれて

「人は間違いをするもんだ。次は今より良い間違いをすればいい」

と優しく諭してくれる。だから、両親には何でも話せるし家族仲はいたって良い。


 それが両親の性格なのか、それとも深い理由があるのかは、分からない。

 私だって心に屈託が無いわけではないけれど、こんな両親と一緒にいるお陰で、

しごく全うに、元気いっぱいに、おまけに天真爛漫に育つことができました。


「ごちそうさま」

 お父さんは父娘合作の朝食を食べ終えると、食器をそそくさと洗いダイニングを

後にする。私が食事を終える頃には、スーツに着替え仕事に出かけて行く。すごい

早業だ。

 次は私の番とばかりに急いで身支度をし、玄関で靴を履く頃にやっとこさ母上が

起きだしてくる。

「いってらっしゃい」

と、寝ぼけ顔のお母さんがギリギリセーフで私の登校を見送る。

「いってきまーす」

 と、私が玄関を出るころには、今朝見た夢のことなど綺麗さっぱり忘れていた。


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